第20話 人攫い

 もうすぐ死都が来る。

 そんな時にコウキはマゾフェチェの街に降りている。

 理由は息抜きである。

 空船は死都に対応するために忙しく、コウキは邪魔をしないように船内を自由に歩けない。

 表向きは誰も邪魔扱いしないが、それでもコウキは気にする。

 そのため、気晴らしに街へと降りて来たのである。

 コウキはマゾフェチェの街を見る。

 昼過ぎの街には多くの人が歩いている。

 コウキは街を歩く、前に何日もこの街にいたので、迷う事はない。

 

「コウ」


 歩いていると横から呼ばれる。

 実はコウキは1人ではない。

 サーナが一緒に付いて来ていた。

 サーナがコウキと一緒にいたがるのはいつもの事であり、2人でマゾフェチェの街へと降りて来たのだ。

 ちなみにラシャも来ている。

 コウキの頭に乗っていて動かない。

 眠っているようであった。

 翼を畳んで動かないでいると小さな犬のようである。

 

「すみません。サーナ様。少し歩くのが速かったですか?」


 コウキはサーナに謝る。

 サーナは首を振る。

 そして、黙って右手を差し出す。

 

「はい。手を繋いでいきましょう」


 コウキはサーナの手を取ると並んで歩く。

 はた目から見ると仲の良い兄妹に見えるかもしれない。

 コウキは街並みを見る。

 死都が近づいているが、この街の人達はその事を知らない。

 そのため、人々は落ち着いて生活しているように見える。

 チユキがこの街の人達を避難させるべきか悩んでいたが、結局レイジ達を信じて何もせずにいる。


(以前よりも何だろう……。街の空気が重い……)


 コウキは街を見てそう思う。

 前にいた時よりも人々の表情が少し暗く見えた。

 この街を支配している聖鉄鎖騎士団の大部分の団員がいなからだろうかとコウキは思う。

 すでに騎士団が出陣してから何日も経過している。

 全ての騎士が出て行ったわけではないが、その数は少ない。

 そのためか最初に来た時よりも街には活気がなくなっているようだった。


(おかしいな。この辺りにはお店が並んでいたのに……)


 コウキは以前に来たことがある店を探す。

 しかし、この辺りにあったのに見当たらない。

 コウキとサーナが歩いている通りには店が並んでいた。

 この地域にしかないものがあり、もう一度見てみようと思ったのだ。

 だけど、その店の大部分がなくなっている。

 コウキとサーナは少し奥へと入る。

 通りの奥はさらに人がおらず、暗くなっている。


「おや、可愛らしい子だね。どうして2人だけで歩いているんだい? 親御さんは側にいないのかい?」


 歩いている時だった。

 突然声をかけられる。

 声をした方を見ると、1人の男性が立っている。

 白髪で少し頭が禿げであり、中年と言っても良いだろう。

 男は笑っており、その笑顔は良い人そうに見える。


「親は少し離れたところにいます。実はこの辺りにあった店を探しているんです」


 コウキはそう言って男を見る。


(何だろう? この人から嫌な匂いがする)


 男を見てコウキはそう思う。

 普通の人間だ。

 しかし、男から嫌な匂いしていた。

 これは過去に嗅いだことがある瘴気の匂いであった。

 少し動いているので、頭の上のラシャも反応している。

 怪しかった。 


「ああ、あの辺りの店だね。最近は物資が入って来なくてね。閉店したみたいだね。でも同じものを売っている店なら。この先にあるよ。案内してあげるね」


 男は優しい声で言う。

 正直怪しかった。

 だけど、どこか気になった。

 コウキはサーナを見る。

 行くとしてもサーナを連れてはいけない。


「あの、サーナ様。1人で戻れますか? 自分は……」


 コウキは1人で行こうとするが、サーナは首を振る。

 この様子では一緒に行くつもりのようだ。


(どうしよう? サーナ様は一緒に来るつもりだ。戻るべきかも……)


 コウキは迷う。

 剣も持って来てはいない。

 何が待っているかわからないので戻るべきかもと思う。

 しかし、サーナが一緒に行こうと引っ張る。

 

「はは、お嬢様は一緒に行きたいみたいだね。いいよ、付いておいで」


 男は笑う。

 だが、その一瞬、目が鋭くなったのをコウキは見逃さない。

 コウキはサーナに引っ張られ男に付いて行く。


「あの……。どこまで行くのでしょうか?」


 コウキは前を行く男に聞く。

 最初の広場からかなり離れた場所へと連れて来られた。


「ふふ、悪いね。ここに店はないんだ。出て来なお前達」


 男は振り返る。

 その顔は人の良さそうなおじさんではない。

 そして、建物の影から複数の男が出て来る。

 あまり良い感じではない。

 聖レナリア共和国の外街にいる人達と何となく似ていた。

 男達はコウキ達を見るとにやけた笑みを浮かべる。


「お頭、どこで見つけて来たんですか? かなり良いとこの子どものようじゃないですか? これは高く売れますよ」


 コウキを連れて来た男の子分らしき者が笑う。


「にひひひ、こいつらを連れていけばかなりの金が手に入りそうだぜ」

「ああ、全くだ騎士達がいなくなったおかげで、商売がしやすくなった」

「それにしても、すっげえ、綺麗な子だな。どこかの貴族の娘か? 見た事ねえぜ……」

「こっちの子どもの頭に乗せているのは犬か? 何か違うな?」


 取り囲む男達がコウキ達を見て口々に言う。

 コウキは知らないがマゾフェチェの街は治安を維持していた騎士達が少なくなった事で犯罪組織が勢力を伸ばしていたのである。

 一応留守を守る騎士達はいるが、数が少なく目が届かない状態だ。

 彼らは人身売買を行っており、歩いていたコウキは目を付けられた。


「あの、一応聞きますが、自分達をどうするつもりですか?」


 コウキは一応聞く。

 彼らの目的はわかる。


「わかっているだろ。売るのさ。上からな綺麗な子どもを集めるように指示を受けている。お前達なら高く売れるさ。まあ寂しがる事はねえ、お前達みたいな子どもは既に何人も捕えている。短い間だが、友達が増えるぜ」


 男の話から大体の話はわかった。

 どうやら彼らはコウキ達以外にも子どもを捕らえているらしい。

 コウキは空を見上げる。

 この上空には空船が浮かんでいてチユキ達がいる。 

 助けを呼ぶべきか考える。

 

「へへ、見れば見る程、綺麗だな……。俺の物にしてえ」


 取り囲んでいる男の1人がサーナに触ろうとする。


(あっ、まずい止めないと!!)


 コウキはサーナを守るために止めようとする。


「おい! こいつは売り物だぞ!! よさねえか!!」


 コウキを連れて来た男が鬼の形相で言う。

 これが本当の顔なのかもしれない。


「安心しろ。お前達は偉大なる冥王様の供物になるのさ。それまでは誰にも触れさせねえよ」


 頭の男が笑う。

 コウキはどうしようかと迷うのだった。






★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。

前回に引き続き短い文字数でごめんなさい。

お盆で墓参りとか行ってたら、予想以上に時間を取られました。


今回実はシュウシュトゥと再会、サーナとの戦いの最初まで行くつもりでしたが、行けませんでした。

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