第12話 ニーゼン領
クロキはシェイテ城の廊下を歩きレイジ達がいる場所へと戻る。
レイジ達はとある部屋に軟禁されている事になっている。
クロキは自身の腰を見る。
そこには剣がある。
吸血鬼達は剣を取り上げなかった。
完全に油断していると言って良いだろう。
レイジ達も特に武装を解除されていないだろう。
抵抗しても押さえつける事ができる。
それだけベーラ達は自信があったのだ。
まあ、これまでワルキアに入った者達はことごとく殺されているのだから当然だろう。
しかし、油断してくれたおかげで気付かれずにここまで来ることができた。
やがてレイジ達が囚われている部屋の前へと来る。
中から声が聞こえる。
「あの彼が連れていかれて結構時間がたっていますが……。本当に大丈夫でしょうか?」
声の感じからしてコロネアだ。
どうやら、クロキを心配しているみたいである。
「いや、無理だろうね……」
「ああ、今頃やられているだろう」
アルフォスとレイジの声も聞こえる。
その声は残念そうだ。
そこでクロキは疑問に思う。
(それほどベーラを危険視していたのかな? 自分がやられると思っているの?)
クロキは安心させるために部屋に入る事にする。
扉を開けると中にはレイジとアルフォスにコロネア達騎士達がいる。
全員武装したままだ。
入ると全員がクロキを見る。
「クロキ殿! 無事だったのですね!」
コロネアが嬉しそうに笑う。
それに対してレイジもアルフォスは残念そうだ。
「やはり、無理だったか……」
「まあ、勝てるわけがないか……。残念だ……」
2人は首を振る。
(お前ら……。どっちを心配してたんだよ……)
何の事はない。
2人は敵の事を心配していたのだ。
クロキはこの野郎と思う気持ちを無理やり抑える。
「うん、無事だよ。心配してくれてありがとう」
クロキはコロネアに礼を言う。
「はい、良かったです。それでベーラは……」
「うん、ちょっと説明しにくいけど、問題はないよ。滅ぼしていませんが退治したようなものです」
クロキが説明すると騎士から驚きの声が上がる。
「まさか、あのベーラが……」
「あの女のせいでどれだけの者が亡くなったと思っているんだ……。それをあっさりと」
「信じられない」
「確認に行かせてもらって宜しいか?」
騎士達は口々に言う。
クロキの言った事が信じられないみたいだ。
しかし、確認に行かせるのもどうかと思う。
中にはベーラの首をはねたい者もいるだろう。
「あの、出来ればベーラはこちらに任せてください。モードガルに行くまでは、彼女は必要なので……」
クロキはそう言って騎士達を牽制する。
「くっ、しかし!! あのベーラを前にして何もしないとは!!」
騎士の1人が納得いかないのかすごい形相になる。
「デッカチ卿。貴方の気持ちはわかります。しかし、今は耐えてください……」
「ぐっ」
コロネアは騎士を止める。
「話は終わったかコロネア? 次はどうする? すぐにモードガルへ行くか?」
レイジがコロネアに聞く。
「少し休みましょう。街があるので補給もできるかもしれませんし、移動しましょう」
コロネアがそう言うとクロキは少し安心する。
そもそも、この城にはあまり長くいたくない。
この城は今クロキの支配下にある。
影から伸びた茨は城の全てを覆い、クロキに内部の詳細を伝えてくれる。
城の地下にはベーラのお楽しみ部屋があり、そこには切刻まれた人間の死骸が沢山積まれている。
中には
すでに茨によって動かなくなっているがこの騎士達には見せたくない。
それにこの城は瘴気が濃ゆいので普通の人間は長時間いるべきではない。
この城ではなく街に移動した方が良いだろう。
こうしてクロキ達は移動する事にするにするのだった。
◆
ニーゼンの街はシェイテ城の近くにある。
前に来た時と同じサンショスの村と同じ吸血鬼に支配された人間の集落である。
ただ、その規模は違う。
500に近い人が住み、立派な街になっている。
城壁もあり、そこにはワルキアの外とほぼ変わらない暮らしがある。
瘴気が濃い地であるが、それでも僅かに農作物は育ち、家畜も飼っている。
もちろん違いもある。
外と比べてかなり陰気であり、そのあたりは仕方がないだろう。
ここに住む者達は吸血鬼の家畜であり、いつ餌食になるかわからないのだ。
他の人間の居住地に比べ陰気になるのも仕方がないだろう。
「ほう、外から来たのか……。まあ良いぜゆっくりしていきな。歓迎するぜ」
クロキ達はニーゼンの街の宿屋へと入るとその宿の主人が笑う。
顔が傷だらけの中年の男である。
その風貌からかつては戦士であったのかもしれない。
「良いのですか? 私達は吸血鬼を倒しに来たのですよ」
コロネアは意外そうに言う。
「貴族はそんな事を気にしねえよ。むしろ、外からお前さん達のような奴が沢山来てくれる事を願っているさ」
主人はそう言って説明する。
吸血鬼にとって討伐に来る人間は絶好の玩具であり、食料だ。
この街はそんな外から来た者を迎え入れる場所でもある。
主人もかつては吸血鬼退治に来た戦士であった。
しかし、仲間は惨殺され、主人は吸血鬼の気まぐれで命だけは助かった。
その時に片足を吸血鬼の飼い犬に食われ、片目を鼠人のおやつにされてしまった。
先代の宿の主人からこの宿屋を受け継いで外から来た者達の世話をするようになった。
逃げ出そうとは思わないし、逃げられるとは思わない。
吸血鬼は一度得た玩具を手放そうとはしない事を知っているからだ。
「特にお前さんと後ろの色男はここの領主に気に入られるだろうぜ。領主の目はこの街のいたるところにある。夜中にあんたらを攫いに来るかもな。気を付けな」
主人はコロネアと後ろのレイジとアルフォスを見て言う。
主人は既にベーラがクロキの人形になっている事を知らない。
本当の事を言っても良いが、隠れてモードガルに行く以上は知っている者は少ない方が良い。
そのためクロキ達は黙る事にする。
「気遣ってくれてありがたいね。でも、心配はいらないよ」
アルフォスは笑う。
「そうか、正直に逃げるなら今のうちと言いたいが、逃がしちゃくれねえだろうな……。せめて酒でも飲んでいきな」
主人は真面目な顔をして言う。
宿屋の1階は食堂になっている。
夜になるとこの街の者達が酒を飲んだりもするのだろうと予測が出来る。
「それはありがたい。全員しばらく休もう」
コロネアはそう言って騎士達を見る。
騎士達は頷き、それぞれの椅子に座る。
「それじゃあ、自分は少し歩いてくるよ」
誰かが止める前にクロキは外に出る。
ニーゼンの街並みを歩くと住んでいる者達の視線を感じる。
住む者達はここで生まれたのか、それとも連れて来られたのかはわからない。
しかし、共通しているのはその目には生気を感じられない事だろう。
生きながら死んでいる住民達。
抵抗して確実に死ぬか、諦めて全てを委ねるしか選択肢がないのだ。
クロキは素早く移動すると城壁の外へと行く。
「さてと、やるかな……」
クロキは街の外にある森へと来ると周囲を見る。
吸血鬼の支配を脱した
この獣は街から誰も逃げ出せないように生み出された獣だ。
だが、クロキが吸血鬼を倒してしまった事で制御できなくなってしまった。
このままだとニーゼンの街の人々を襲うだろう。
「グルルル」
クロキに気付いた
クロキは目を瞑り精神を集中する。
特に視線は感じない。
遠くから誰かが見てはいないようだ。
「吸血鬼によって生み出された獣……。倒させてもらうよ」
クロキは剣を抜き振るう。
歪みから命を開放するために。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
吸血鬼伯の設定を考えた時から、その領地に生きる人間を書きたいという思いがあったりします。
色々とグロテスクなアンデッドモンスターも出してみたい。
しかし、クロキ達は強いので本当に前座にしかなりません。
この辺りは外伝で書いた方が良いのかもしれませんね。
次回はザシュススの回です。
彼の仲間の邪神集結。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます