第13話 邪神集結

 幽幻の霧に覆われた死の都モードガル。

 その中心の宮殿にザシュススは玉座に座る。

 既に父たるザルキシスは消滅しモードガルと一体となった。

 忠誠を誓うのを拒んだザファラーダの行方は知れない。

 だが、放置しておいても良いとザシュススは考えている。 

 モードガルを支配したザシュススは名実共に冥王であり、死の眷属で誰もザシュススに逆らえないだろう。

 

「おめでとうございます。兄上」


 そんな中で挨拶に来た者がいる。

 法衣を纏った者だ。白い頭巾から大きな単眼が見える。

 

蛆蝿の法主ザルビュート。

 

ザシュススが囚われる前から仲が良かった弟である。

 ザシュススがいなくなった後は南方の地の死の眷属を纏めていたらしい。

 父であるザルキシスとの仲も悪くなく、もしザシュススが父と争えばザルビュートはどちらについていたかわからない。

 結局ザルキシスがザシュススに冥王の座を譲ったので、何も問題はなくなった。

 それは良い事であった。


「おお、ザルビュートか。相変わらずだな。うん、そっちは誰だ?」


 ザシュススはザルビュートの後ろにいる小さい者を見る。

 一見人間に見えるが違うのがわかる。

 何者か気になるところだ。


「兄上。こちらはザシャ。兄上がお隠れになった後に生まれた我らの兄弟ですぞ」


 ザルビュートがザシャを紹介する。


「お初にお目にかかります。ザシャです。兄上」


 ザシャがザシュススに頭を下げる。


「ザシャは姉上の補佐をして、このワルキアの統治に関わっておりました。きっと兄上のお役に立つでしょう」


 ザルビュートが笑って言う。

 

「そうか、俺に役に立てよ、ザシャ。もし役に立つのなら、俺の娘シュウシュトゥを妻にくれてやるぞ」

「えっ……。それは……」


 ザシュススが言うとザシャは引きつった笑いを浮かべる。


「何だ。不服か? 俺の娘だぞ?」


 ザシュススは少し怒ったように言う。

 シュウシュトゥはザシュススの娘であり、このモードガルの姫である。

 それを貰えるのだから喜ばなくてはならないだろう。


「お父様。勝手に私の伴侶を決めないで下さい。叔父様には悪いですが私には別に気になる方がいますの」


 ザシュススが怒ろうと思ったときだった。

 横で聞いていたシュウシュトゥがそれを止める。

 シュウシュトゥはザシュススの娘だ。

 あまり強くはないが可愛い娘であり、その娘が少し怒った表情を見せる。


「何? シュウシュトゥ。お前に気になる相手がいたとはねえ。誰だいそいつは?」

「ふふ、それはねお父様。この間ちょっとキソニアまで飛んで行った時に出会った時にすごく可愛い子を見つけたの。是非私のものにしたいわ。今このワルキアから北の地にいるはずよ」


 シュウシュトゥは楽しそうに笑う。


「ほほう。そいつは手に入れねえとな。だが、その辺りにはエリオスの奴らが陣取っている。まあ、蹴散らせば良いか。ぐはははは」


 ザシュススは豪快に笑う。

 既にエリオスの軍勢を打ち負かしてある。

 次も勝てるだろうとザシュススは思っているのだ。


「冥王陛下。ご盟友たる方々が見えられたようです」

「来ましたぜ~。陛下~」


 そんな時だった。

 家臣であるアシャクが来客を告げる。

 

「ほう、来たか!! 我が盟友達が!! ここに通せ!!」


 ザシュススは立ち上がる。

 復活ししばらくの間はディアドナの所にいた。

 そこにいた神々と親交を結んだのである。

 その神々をこのモードガルに呼んだのである。

 これから、エリオスを滅ぼし、モデスを屈服させる。

 そのためにも数は必要であった。

 玉座の間に異形の者達が入って来る。

 その数は21。

 かなりの数だ。

 その大半はあまり強くないが、それでも神族なので、下等種族には及びもつかない強さを持つ。


「ザシュスス殿。呼んでいただけて恐悦至極です」


 黒い翼の鳥人が挨拶をする。

 

「おお、ハーパスか良く来てくれた」


 ザシュススは笑う。

 黒翼公ハーパスは数多の神々の中でも特に剣技に優れた神だ。

 つばの広い黒い帽子に洒落た服を着こみ、腰には細い剣を携えている。

 来てくれた神々の中で最強と言えるだろう。

 ハーパスが盟友として来てくれた事は喜ばしい限りであった。

 

「私からもご挨拶を……。新たな冥王殿。久しぶりですな」


 双頭の骸骨を頭に持つ黒い法衣を纏った者が挨拶をする。


「ビフロンも良く来てくれたな」


 ザシュススは双頭の骸骨を男ビフロンを見る。

 獄炎公ビフロンはザルキシスの眷属で死の神の一柱であった。

 ザルキシスが力をなくしてからはディアドナの元にいたが、今回ザシュススの求めに応じてくれた。

 直接戦闘は苦手だが、魔法に長けた神である。

 先端が燭台になっている杖を持ち、様々な火の魔法を使う。

 この2名の他にも壊矢公ラージェに青蹄公ガミュギもいる。

 この四公は今回来てくれた者達で特に強いと言えるだろう。


「さて、エリオスの軍にはアルフォスも来ているとか。そろそろ、どちらの剣が上か決めねばなりませんな」


 ハーパスは楽しそうに言う。

 ハーパスは紳士的なふるまいが多いが、決闘を何よりも好む。

 エリオス一の剣士であるアルフォスとの一対一の決闘を望んでいて、そのアルフォスと戦う事を期待して来てくれたのだ。


「お待ちください。ハーパス様。実は面白い話があるのです。これは陛下にもお伝えしたい事でもあるのです」


 ハーパスがアルフォスとの決闘に思いを馳せていると横からアシャクが口を挟む。


「どうした。アシャク? 何があった?」


 ザシュススはアシャクを見る。

 ザシュススに従属する小神であるアシャクは使い勝手が良い者だ。

 特に諜報にすぐれており、様々事を教えてくれる。


「くくく、実は面白い情報を手に入れまして。どうやらアルフォスと光の勇者が隠れて近づいているようなのです」

「そうだぜ~。近づいているみたいだぜ~」


 アシャクは笑って言う。

 その報告にザシュスス達は面白そうに笑みを浮かべるのだった。




 モードガルの中心から離れた場所で紅玉の公子ザシャは悩む。

 外から来た神々が来て、ザシャはさっさと席を外した。

 これ以上あの場所にいたくなかったからだ。

 今でも宴が行われているだろう。


「くそ~。どうすれば良いんだ……。本当に姉上はどこに」


 姉である鮮血姫ザファラーダは姿を消した。

 他の兄弟でも何名かは姿を見せない。

 どうやらザファラーダが連れて行ったようだ。

 その中にザシャは含まれていなかった。

 その事にザシャは姉を恨みたくなる。

 新たな冥王となったザシュススは父であるザルキシス以上に暴虐らしかった。気に入らない者であれば弟でも滅ぼすだろう。

 また、死の眷属以外の神々をモードガルに迎え入れるつもりのようだ。

 決して強くないザシャの立場はますます悪くなるだろう。

 ザシュススはこれから行動を起こしエリオスの神々を滅ぼし世界を支配するつもりだ。

 だが、そのやり方は強引に思える。

 エリオスになら勝てるかもしれない。

 だが、その後の魔王モデスとその軍勢に勝てるだろうか?

 魔王モデスも強いが、さらに強力な暗黒騎士を従えている。

 戦いに巻き込まれたらどうなるかわかったものではない。 

 

「はあ~。やはり、従うしかないか……」


 ザシャは溜息を吐く。

 今は従わなくてはいけないだろう。

 ザシャには他に行くところがない。

 このワルキアはザファラーダが不在の時はザシャが治めていた。

 愛着もあるので出る事はできない。

 命令は受けている。

 ワルキアの貴族達の中には新しい冥王であるザシュススに従わない者もいる。

 だが、ずっとワルキアにいたザシャになら従うだろう。

 その貴族達をまとめ上げるのがザシャの仕事だ。

 また外から人間ヤーフの軍勢が攻めてきているらしい。

 下等な人間ヤーフごときに負けるとは思えないので手を貸してやる必要はないだろう。

 しかし、モードガルを離れるには良い理由だ。

 

「とりあえず、ベーラ伯の所でも行くか……」


 ザシャはとりあえずモードガルを離れる事にするのだった。 

 




 ★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 ニコニコ動画が大変な事になっているみたいですね。

 何があったのでしょう……。視聴ができなくなっています。

 とにかくアニメはニコニコで見ていたので早く復旧して欲しいです。

 

 ザシャも久々に登場。

 次回はザシャと再会。

 コウキとシュウシュトゥとの再会もどこかで。

 ちなみにザシャはクロキ達が隠れている事に気付いていないです。

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