第11話 青い鋏の娼姫ベーラ
シェイテ城はニーゼン領にある城である。
領主の居城であり、蝙蝠をモチーフにした優美だがグロテスクな装飾と彫刻が至る所に飾られている。
また、僅かだが人間の性器や臓器をモチーフにした装飾もあり、廊下を歩くときに目にしてしまう。
「おい、とっとと歩け」
クロキの後ろにいる男の
今クロキはシェイテ城の廊下を歩いている。
一緒に来たレイジやアルフォスやコロネア達騎士とは引き離されている。
要するに人質である。
この
青い鋏の娼姫ベーラ。
この城の主である
非常に残虐な事で知られていて気に入った美形の男女を攫い、持っている鋏で切り刻んで遊ぶそうだ。
やがて謁見の間の前まで来る。
扉の両脇には2名の女性の吸血鬼が両脇に立っている。
これはジュシオが支配していたサンショス領とは大違いである。
ジュシオは眷属を作らなかった。
そのため
それに対してベーラは眷属を多く持つ。
クロキ達を捕らえようとした者達やこの城にいる
だが、
ベーラが統治するニーゼン領には飼っている人間の数が多く、街を作っている。
この城に来るまでにニーゼンの街を通ったが、人が普通に過ごしていた。
元々この街で生まれたのか、それとも外から連れて来られたのかはわからない。
ただ、
「連れて来たぞ、ベーラ様に取り次いでくれ」
クロキを連れて来た
しばらくすると入って来た女が戻って来る。
「ベーラ様がお待ちだ。中に入れ」
女はそう言うと扉を開けてクロキ達を中に入るように促す。
中に入ると奥に美しい容姿の男女が集まっている。
その中心には豪華な青い衣装を纏った女性が座っていて、クロキ達を見ている。
「良く戻って来たわね。あら、ヴォゲ。お前だけなの? ヤーラレはどうしたの?」
青い衣装の女性はクロキ達を見て怪訝な表情をする。
「ベーラ様。あの顔の2人はとんでもない強さでした。ヤーラレ卿とその他の者は皆倒されてしまい残ったのは私だけです」
ヴォゲはそう言うと頭を下げる。
「まあ、顔だけでなく強いなんて、素敵だわ。でも捕らえたんでしょう。どうやったの?」
ベーラは笑って言う。
部下の騎士達が死んだというのに全く気にしていない。
「それはこいつを人質にしたからです。こいつを捕らえると奴らは武器を下げました」
ヴォゲはそう言うとクロキを前に出す。
「へえ、その男をねえ……。魔法の映像で見た美形の2人に比べると凡庸だけど、よく見ると結構良い顔をしているわね。合格だわ」
ベーラはそう言うとクロキに近づく。
その顔はとても楽しそうだ。
「ベーラ様あ~。その男をどうするのですか? お側にそれとも玩具にするのですか?」
ベーラの側にいた女が笑いながら前に出て言う。
犬歯が見えるので吸血鬼だろう。
かなり美しい少女だ。
だが、もっとも目を引くのは胸元の大きな傷だ。
彼女の服は胸元が大きく開いていて、そこには痛々しい傷が見える。
吸血鬼になってからの傷ではないだろう。
吸血鬼であればあれぐらいの傷ぐらいすぐ治るが、人間の時にあった傷はそのまま残ってしまう事もあるらしいからだ。
だから、彼女の傷は人間の時に出来た傷に違いない。
そして、その傷はどうも自ら付けた傷のように見える。
どうして、自分で傷つけたのかわからない。
しかし、 それを隠さずにむしろ見せつけるように出しているところから、傷はむしろ彼女にとって誇らしいものなのかもしれない。
「そうね。映像で見た男に劣るから、玩具にしようかしら。そうね、少しづつ斬り刻んであげる。でも、顔が結構良いから首はしばらく飾っておこうかしら」
ベーラはクロキの全身を舐めまわすように言う。
後ろにいるベーラの側近達の多くも笑っている。
そこでクロキは気付く。
その中には人間もいる。
全員顔が良く、かなり若い。
だが、吸血鬼と同じように嗜虐的な笑みを浮かべている。
おそらくベーラの眷属候補だろう。
「あの、ベーラ様。この者を殺してしまうと捕らえた者達が言う事を聞かなくなるかと……」
ヴォゲが心配そうに言う。
「あら、それは大変ね。でもこの城に入ったのなら、気にする必要はないわ。この城から逃げ出せるわけないもの」
ベーラは自信たっぷりに言う。
(いや……。逃げ出せるだろう。いや、あの2人なら逃げる必要もないか……。)
クロキは心の中でそう思う。
レイジとアルフォスは今この城のとある部屋に軟禁されている事になっている。
部屋はそれなりの部屋でクッション付きの長椅子も用意されていたのでクロキと引き離された時、あの2人はしっかりとくつろいでいた。
一応大人しくしているが、あの2人が本気を出せば逃げるどころか返り討ちにする事も可能だ。
だが、ここでベーラを倒せばクロキ達が潜入している事が判明してしまう。
だからベーラを倒さずに協力してもらうしかない。
「ふふ、あの2人以外は玩具にするか、モードガルに運びましょう。少しは忠誠を示さないと私の身が危ないもの。さて、遊びましょうか? ねえ、貴方達はどうしたい?」
ベーラは振り向くと後ろにいる者達に聞く。
「そうですね。どうしましょうか?」
「できるだけ、痛みをあたえてあげたいわ」
「そうそう、きっと楽しく踊ってくれるわよ」
吸血鬼達は楽しそうに言う。
「ねえ、貴方はどうされたい? 特別に選ばせてあげましょうか」
次にベーラはクロキを見る。
とても楽しそうだ。
「おい、お前!! ベーラ様が聞いているんだ答えろ!! えっ!!」
後ろにいるヴォゲがクロキの肩を掴み跪かせようとする。
しかし、それは出来なかった。
「ヴォゲ!? 貴方!? その手!?」
ベーラは驚いてヴォゲの手を見る。
クロキの肩を掴んでいたヴォゲの手が溶けてなくなっている。
「な、何だ!!? これ……」
ヴォゲは驚く声を出すがその言葉は途中で途切れる。
なぜなら、喋る途中で首がなくなったからだ。
首を失ったヴォゲの身体は後ろに倒れるとそのまま塵となって消える。
「お、お前は……?」
ベーラは後ろに下がりながらクロキを見る。
クロキはそんなベーラを無視して歩くと城主の椅子に座る。
「ベーラ。君の事はジュシオ卿から聞いているよ……。あまり、聞きたくない内容だったけどね」
クロキがつまらそうな表情で言う。
クロキはジュシオからベーラの事を聞いていた。
彼女がどれだけ人間を持て遊んできたのかを。
それは聞いていてあまり楽しい事ではない。
城の様子や彼女の側近を見てもそれはわかる。
「ジュシオ……。どうして……。くっ!!」
ベーラは窓から逃げようとする。
しかし、窓は黒い茨がいつの間にか覆っていて外に出られない。
「逃がさないよ、ベーラ。やってもらわないといけない事があるのだから……」
クロキは首を振って言う。
「何をしているの!! お前達!! そいつを倒しなさい!!」
ベーラはクロキの周りにいる側近に言う。
だが、側近達は動けない。
クロキの影から伸びた茨が側近の吸血鬼全員を搦めとっているからだ。
「ぐがが……」
「ああ、体が……」
「助けて……」
吸血鬼達は苦悶の表情を浮かべながら痩せ細っていく。
茨によって力を奪われているのだ。
そして、そのまま干からびてしまう。
「ひいっ!!」
それを見たベーラは尻もちをつく。
その顔は恐怖に染め上がっている。
恐怖しているのはベーラだけではない。
残っている人も恐怖している。
「さて、ベーラ。悪いけど自分に従ってもらうよ」
クロキは立ち上がるとベーラに近づくのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
もう少しベーラを痛めつけてスカッとしたかったのですが、何も思いつかず平凡な展開になってしまいました。
先週クロキを人質にしたのはヴォゲです。かなり、いい加減な名前ですねボケとやられ役……。
次はニーゼンの街をちらっと紹介です。
バニー姿のキョウカとカヤを限定近況ノートにあげています。
良かったらどうぞです。
来月はサホコを乗せようかと思います。
なぜサホコかというとかなり出来が良かったからです……。
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