第10話 霧の迷宮
グンナル王国を出発したワルキア討伐軍はさらに進軍する。
そろそろ、ワルキアに入るはずであった。
(何だか霧が出て来たな)
クロキは馬車の窓から周囲を見る。
ワルキアに近づくと周囲に霧が出て来て視界が悪くなっている。
普通の霧ではない。
これは
濃い霧を発生させ視界を遮ると同時に精神魔法で方向感覚を狂わせる。
この霧の中では魔法の耐性が低い者は永遠に迷うことになるだろう。
次に側にいるレイジとアルフォスを見る。
彼らもまた気付いているはずであった。
「気付いているよね、君達。この霧は魔法で作られたものだ。仕掛けて来ているようだね」
アルフォスが同じ馬車に乗るクロキ達を見て言う。
「ああ、かなり広範囲だな。それなりの奴がいるな」
レイジも外を見て言う。
レイジの言う通りかなりの広範囲である。
共に来た戦士達全員がこの霧の中に入っているだろう。
これほどの広範囲の
クロキはその者に心当たりがあった。
血の司祭オルロク。
前もってジュシオに聞いていた
ワルキアの
もっとも、レイジやアルフォスが恐れる程ではない。
この霧を発生させているオルロクを倒せばすぐに消えるだろう。
「そうですか、多くの戦士が迷うかもしれません。どうしたら良いでしょうか?」
馬車に同乗しているコロネアが聞く。
「まあ、この霧を発生させている奴を倒せば問題ない。だけど、倒せば僕らがいる事に気付かれる。特に追い返されるわけでもなさそうだから、気にせず行こう」
アルフォスは特に気にしないようだ。
確かに
クロキ達の馬車も問題なくワルキアの奥へと向かっている。
「えっ、それで良いのですか? 戦士達は大丈夫でしょうか?」
コロネアが驚いたように言う。
「大丈夫じゃないよ……。危険だよ」
クロキは溜息を吐く。
ワルキア討伐軍は分断されはじめている。
戦力が分散されてしまうと各個撃破されて危険だ。
「確かに危険だな。だが、囮にはなる……」
レイジは冷静に言う。
その通りだ。
ここで戦士達を助けたら、クロキ達がこの中に紛れ込んでいるのが冥王にバレてしまうだろう。
それでは紛れこんで来ている意味はない。
逆に分散してしまえば相手の注意も分散する。
(良いのかな……。ここで自分が助けるのも変だし……)
クロキは悩む。
しかし、ここで助けるのは無理だろう。
冥王ザシュススが支配する地であり、うかつな事をすれば台無しである。
そもそも、クロキも決して安全な場所にいるわけではない。
ザシュススの力は未知数であり、勝てるかどうかわからないからこその潜伏しての侵入だ。
そのため、このまま進むしかない。
「来ているな。コロネア。前に何者かが待ち構えているぞ」
レイジが武器を持って立ち上がる。
霧の中で複数の人影がこちらを待ち構えている。
仕掛けて来るようだ。
「は、はい!! 皆に伝えます!! 総員戦闘準備をせよ!!」
コロネアは馬車を降り、そう叫ぶ。
馬車に随行していた騎士達がそれぞれ武器を取り、構える。
「どういう事だ!? 我々しかいないぞ!」
「馬鹿な!!? いつの間に!?」
「くそ! 分断された!? この霧は普通ではないぞ!?」
そして、ようやく気付いた騎士達が驚きの声を出す。
あれ程多くいた戦士達はおらず、自分達の部隊しかいなかったからだ。
すでに霧によってそれぞれの戦士達は分断されてしまった。
「うろたえないでみんな!! 私達には女神様の加護があります!! 女神様!! 貴方の忠実な勇者達に祝福を!!」
コロネアが魔法を唱える。
戦乙女の勲。
この魔法はコロネアの声を聞いた戦士達に勇気を与え、魔法の守りを与える。
女神レーナに認められた人間の
この魔法を受けた騎士達が雄叫びを上げる。
コロネアの側にいた騎士は特に精鋭である。
よほどの相手でなければ遅れをとる事はないだろう。
「どうやら、ゾンビやスケルトンではないようだね」
「ああ、
馬車を降りたアルフォスとレイジは前を見て言う。
待ち構えているのは一見人間のように見える。
だけど、目が赤く光り、犬歯が伸びている所から
その
鎧を着ているのは上位の吸血鬼である
蝙蝠を模した鎧は優美さと畏怖を見る者に与えるだろう。
だけど、人間よりもはるかに強い
騎士達が警戒していると馬に乗った
「良く来たな、人間の騎士共よ。貴様達は他の者達と違い、我が主に選ばれた。大人しく同行するのなら殺しはしない。我らと共に来るが良い」
「ふざけないで! 何を馬鹿な事を!! 騎士達よ!! 突撃です!!」
コロネアが激高して言い返すと騎士達が突撃しだす。
「さて、目立たないように行くかな」
「彼女達だけでは少し厳しいかな」
レイジとアルフォスは剣を抜く。
「あんたらも大変だね~」
そんな中でクロキは馬車の中から見物に興じる事にする。
自分が動かなくても問題はないだろうと思ったからだ。
実際に思った通り、戦いは一方的だった。
レイジとアルフォスなら全力を出さなくても余裕で勝てる。
両者の活躍で
そんな時だった。
「待て!! 剣を降ろせ!! この男がどうなっても良いのか!!」
後ろから近付いて来た1匹の
突然の事にレイジとアルフォスが共に動きを止めクロキを見る。
その表情は白けている。
「何やってんだ、こいつ」と言いたげだった。
「そうだ。まさか顔だけだと思ったがこれ程とはな……。おっと動くなよ」
レイジとアルフォスが動かなくなった事で勘違いした
クロキが人質に取られた事で騎士達の間に動揺が広がる。
「くく、1人だけ動かず、馬車に載せられているところを見るとこの者はかなりの重要人物に違いねえ。凡庸な顔立ちだが大当たりのようだ」
クロキを人質に取った
レイジとアルフォスは震えている。
どうやら笑いをこらえているようだ。
(悪かったね……、凡庸な顔で……。笑うな!)
クロキは笑いをこらえているレイジとアルフォスに怒る。
後ろから近付いて来ているのは気付いていた。
だけど、特に問題ないと無視をしてしまったのである。
「はは、まいった。まいった。僕達の負けだよ。君の言う通りにしよう。全く役に立たない間抜け顔君が人質になったら仕方ないね。」
「ああ、そうだな。どのみち1匹は案内役にするつもりだったから丁度良い。大人しくするから、連れて行ってもらおうか」
アルフォスとレイジが剣を降ろす。
「あの、その良いのですか……」
コロネアが心配そうな顔をする。
「いや、大丈夫だ。心配いらないよ。いや、本当に……。ははっ」
「これほど面白い冗談が聞けるとは思わなかったな。全員剣を降ろしてくれ。案内をしてもらおうじゃないか」
レイジがそう言うと騎士達は顔を見あわせて剣を降ろす。
「そうだ!! それで良い!! もし、言う事を聞かなかったら、こいつの身体を少しづつ削ってやる! 良いな!!」
「おい、お前!! 最高じゃないか!! やってくれよ!!」
「何て魅力的な提案だ!! 反抗したくなるよ!!」
さらに笑うレイジとアルフォス。
それに対してコロネア達騎士達は戸惑った表情になる。
「何を笑っている!! よくわからねえが!! 大人しく言う事を聞くんだな!! お前らをベーラ様の元に案内してやるぜ!!」
笑っているレイジとアルフォスを見て、
(いや、もう好きにして……)
クロキは溜息を吐く。
こうしてクロキ達はワルキアの奥へと入って行くのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
人質になったクロキの運命はいかに!?
更新です。
もう少し吸血鬼を掘り下げたいなと思っていますが、クロキ達が相手では勝負にならなさすぎてどうしようかと悩みどころです。
まあ、そのための外伝なのですが……。
ちなみにこの本編でも随所でTRPG風マップを作りたいと思っています。
実はこの章ではクロキとレイジとアルフォスが共に冒険したらどうなるのか?を書きたいという目論見があります。
次回はベーラの居城編です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます