第9話 ワルキアの貴族達

 ワルキアの地は死の神とその眷属が支配する地である。

 だが、その死の王ともいえるザルキシスは不在であった。

 代わりにその地を支配していたのはザルキシスの娘である鮮血姫ザファラーダ。

 しかし、ザファラーダは統治という面倒な事を嫌い、実質的な支配はその眷属である吸血鬼ヴァンパイア達が代わりに行っていた。

 吸血鬼は不死者の貴族と呼ばれ、特に上位の貴族は領地カウンティを与えられワルキアの各地を統治した。

 そのザファラーダが突然ワルキアの地から消えた。

 理由は死都モードガルで政変があったからである。

 新たな冥王が誕生し、ザファラーダは姿を見せなくなったのである。

 貴族である吸血鬼達は動揺し、どうするのか判断を決めあぐねているのであった。


「どうやら、鼠共は失敗したようだ」


 イチー伯オルロクは集まった吸血鬼伯ヴァンパイアカウント達を見て言う。

 場所はオルロクの居城ブラーンである。

 今吸血鬼伯ヴァンパイアカウント達は今後の事について話し合いを行っている最中である。

 吸血鬼伯ヴァンパイアカウント領地カウンティを持つ貴族であり、ワルキアの地の実質的な支配者である。

 以前は6名いたがサンショス伯ジュシオが離脱し、今は5名だ。


「まあ、鼠ごときじゃ失敗するわよね。仕方がないんじゃない」


 唯一の女性であるニーゼン伯ベーラが興味なさそうに言う。

 ベーラはザファラーダを崇拝しており、その性格も似ている。

 気まぐれで興味ない事にやる気は出さない。


「仕方ないではすまぬ。今度は我らに動けと言って来るだろう。あの腐肉ぐらいの鳥の王は」


 ヨンスム伯ツェペルは彼らが動かなければならないだろう。

 しかし、それは主である背信行為かもしれずどうすべきか迷っているところだ。

 ツェペルはこの中で一番まともであるが


「そういう事だ。我々は決断しなければならぬ。どうするかね」


 オルロクは首を振って言う。

 ワルキアの吸血鬼伯ヴァンパイアカウントのまとめ役をしているオルロクはどうすべきか迷う。

 主君であるザファラーダがいなくなって何日も経過している。

 そろそろ、冥王に恭順を誓うべきか決める時だろう。


「不本意だが、やらねばなるまい。姫が戻られるまでは従うべきだろう」


 ゴダール伯ウラースが仕方ないと首を振る

 元紅牙騎士団オーダー・オブ・ザ・クリムゾンファングの騎士であり、功績があった事で領地カウンティを与えられた。

 特に力の強い騎士だったウラースの体格はこの中で一番大きい。

 優秀な指揮官だが残忍な男である。


「それは、不忠かもしれないよ、ゴダール伯。まあ、仕方ないかもしれないね」


 ロクリック伯アランは頬杖をついて笑う。

 サンショス伯ジュシオと共に美しい吸血鬼であるアランはザファラーダのお気に入りである。

 だが、美しいのは外見だけで中身はかなり醜悪である事は他の吸血鬼伯の知るところだ。


「なるほど、それではゴダール伯とロクリック伯は協力するという事で良いかな。ニーゼン伯とヨンスム伯も異論がなければ、それで良いかな?」


 オルロクはベーラとツェペルを見る。

 ベーラは興味なさそうであり、ツェペルは異論がありそうだが特に口にする様子はない。


「話は終わったか~」

「話は終わりましたか?」


 突然部屋に何者かが現れる。

 それは巨大な鳥と人が合わさった姿であった。

 部屋はかなり広いとのに、この鳥人が現れた事で狭く感じる。

 頭が2つあり、それぞれが喋るので非常に煩い。 


「これは刑務官殿。聞いておられたのですか?」


 オルロクは鋭い瞳を鳥人に向ける。

 鋭い感覚を持つ上位の吸血鬼ですら、この鳥人が見ている事に気付かなった。


 刑務官アシャク。


 双頭のハゲワシ人であり、強力な魔術師でもある。

 新たな冥王に仕える小神で、小神とはいえ神なので吸血鬼であるオルロク達では敵わない。

 にもかかわらずオルロク達に対しても丁寧な対応をする。

 それが何とも不気味だった。

 捕縛用の刺又に似た魔法の杖を持ち、罪を犯した者を捕らえるこの神は油断ならない相手である。


「ええ、貴方達にお願いをしようと思ってきたら取り込み中だったのでね」

「仕方ねえから、静かにしてやったぜ」


 アシャクは笑いながら言う。


「そうですか、お願いとは?」


 オルロクは聞く。


「それはですね。遠くからお客様が来るので、接待用の人間ヤーフを貴方方に供出してもらいたいのですよ」

「お客様ですか?」

「そうそう、冥王様の盟友さ。失礼のないようにしないとな~。人間ヤーフを出しな。特に綺麗で生きが良いのをな~」


 オルロクが聞くとアシャクが答える。

 貴族達は生贄用に何匹かの人間を飼っている。

 それを供出せよと言っているのだ。

 

「お客様ですか……」


 オルロクはそれを聞いて嫌な感じがする。

 冥王ザシュススの盟友ということはどこかの神である。

 それがこのワルキアに集まろうとしているのだ。

 冥王はワルキアを作り替えようとしている事に戦慄する。 


「そうですよ。できるだけ、多く者をお願いしますね。貴方方もこれまで通りの地位でいたいのなら頑張りなさい」

「頑張れよ~。それとここに来る人間共でも良いぜ。多い方が良いんだからな~」


 そう言うとアシャクは空中に映像を映し出す。

 そこにはワルキアに攻めて来る人間の軍団があった。

 

「丁度良く、人間達がこちらに向かっています。かなりの数ですね。贄にはちょうど良いかもしれません。おや?」


 アシャクはその中で移るある者達を見る。

 少し驚いているようだ。


「あら、すごい良い男じゃない! まさか、あれ程の男がいるなんて! ぜひ私のものにしたいわ!!」


 ベーラが声を出して言う。

 今までのやる気のなさが嘘のようである。

 オルロクもその映像を見る。

 そこには2名の美しい男が映っている。

 あまりの美しさにその場にいた吸血鬼伯は目を奪われる。


「まさか、あれ程のものがいるなんてね。驚きだよ」


 アランが驚きの声を出す。

 美形のアランが霞む程の美しさであった。


「ふん、どのような者であれ我らの領地に入るのなら歓迎をしなければならん。これは姫様に与えられた我らの使命だ」


 ツェペルは面白くなさそうに言う。

 新たな冥王に仕える気はなさそうである。

 もっとも、反抗する気もなさそうなので、協力はするだろう。


「刑務官殿。心配なさるな。贄はともかくこの地を守るのは我らが使命だ。それに奴らを贄として捕らえて渡せば問題はないだろう」


 ウラースは豪快に笑う。

 元騎士だけに戦う事を何よりも使命だと思っている様子だ。


「ええ、問題ありませんよ。くふふふ。これは冥王様にお伝えせねばなりますまい」


 アシャクは楽しそうに笑う。

 

「奴らはもうすぐゴダール伯領へと入るだろう。迎え撃とうではないか」


 オルロクは全員を見る。

 全員が戦う気のようだ。

 こうしてワルキアの貴族達は動く。


「せいぜい、頑張れよ~。キシャシャシャ」


 そんな中でアシャクは楽しそうに笑うのだった。





★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。

2週間も休んで申し訳ないです。

GW中に外伝の執筆以外にも色々と学ぶ事もありました。

公開しているTRPG風地図とかにもAIイラストでwebマンガを作れないかも、ちょっと試してもいました。

AIイラストでマンガを制作している方のサイトを梯子して見たり、ネームも少し書いたり……

ただマンガはやるにしても時間がかかりそうなので、一時休止して本編の暗黒騎士物語を再開します。

今後AIイラストを元にしたwebマンガ作成が出来るかはわかりません。

でも、やってみたい気持ちはあります。

無駄に終わるかもしれないですが、やらなければわからない事もあると思います((>_<)9。


最後に近況ノートにコウキとサーナのイラストにシェンナとデキウスのAIイラストを公開しているので良かったら見に来てください。


ベーラは以前名前だけ登場したキャラです。鋏を武器にするキャラだったりします。


アシャクが持っている杖は西洋の拘束具マンキャッチャーに似た奴です。

このマンキャッチャーの名前を調べるのに時間がかかりました。


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