第8話 グンナル王国

 その夜グンナル王国は歓声に包まれる。

 国を包囲していた不死者の軍勢がいなくなったからだ。

 マゾフェチェから出陣したワルキア討伐軍はグンナル王国の市民達に歓迎されながら城壁内へと入る。

 王国はお祭り騒ぎである。

 女王グンテは騎士団長ドエームにお礼を言って助けてくれた戦士達をもてなす事を約束した。

 ただ、グンナル王国は市民が5000程の国であり、万を超える戦士の全てが城壁の中に入る事はできない。

 そのため、多くの戦士は屋外で夜営をすることになる。

 だが、食事や酒はグンナル王国側提供することになり、戦士達は喜んだ。

 もっと長く籠城を覚悟して備蓄していたらしく、余裕があり、それを戦士達に振舞われる。

 こうしてクロキ達はグンナル王国で一晩を過ごす事になるのだった。


「ふう、地上の蒸し風呂もなかなかだね」


 蒸し風呂に入ったアルフォスが背伸びをする。

 グンナル王国には王の宮殿に蒸し風呂がある。

 なんでも少し前の王が作らせたものらしい。


「確かにそうだな……。だが何故お前らと一緒に入らなければならないんだ?」


 レイジが眉を顰めて言う。

 今この蒸し風呂を使っているのはクロキとレイジとアルフォスの3名だけだ。

 技術上の問題もあり、また蒸し風呂の構造上、広い部屋にする事ができない。

 そのためクロキとレイジとアルフォスは近い場所にいなければならず、互いの裸体がはっきり見える状況だった。

 レイジとアルフォスの体は過去に見たギリシャ彫刻のように均整がとれて見事だった。

 多くの女性が彼らに入れ込むのもわかる。

 この場に彼女達がいたら食い入るように見るだろうと想像できる。

 もちろんクロキは同性の裸に興味はないので、この時間が早く終わらないかと思う。


(いや……。それはこっちの台詞なんだけど……)


 クロキはそう言いたいのを我慢する。

 レイジ、アルフォスと蒸し風呂に入る事になったのは団長の娘である女騎士コロネアの発案だ。

 クロキ達を仲良くするために女王との会見が終わった後、3名で蒸し風呂に入らせたのだ。

 裸の付き合いをすれば仲良くなる。

 誰がそんな入れ知恵をしたのかクロキは文句を言いたくなる。

 まあ、レイジの仲間の女の子達の誰かからレーナが聞いて、それをコロネアに実行させたのだろう。

 しかし、それで仲良く出来たら苦労はない。

 レイジは不機嫌そうだし、アルフォスは平常どおりにすごしているが内心はわからない。

 行軍中に矢を何度か向けてくる気配を感じたからだ。

 友好的に振舞おうとしているが、演技のような気もする。


「まあ、そう言うなよ。光の勇者君。レーナは僕達が協力する事を願っている。可愛い妹の頼みだ、聞かなくてはいけないね。君達も協力してくれないか」


 アルフォスは優しげな笑みを浮かべて言う。


「それはわかっている。レーナの頼みだからな。敗けた奴だけじゃ頼りないんだろ。協力してやるよ」


 レイジは笑って言う。

 その時、アルフォスの笑みが一瞬凍ったような気がする。

 

「ふふ……、勘違いしてもらっちゃ困るよ。あれはトールズが先行しすぎて、被害が大きくなったから撤退しただけだよ。敗北したわけじゃない」

「言い訳はみっともないぜ」

「……ふふ。喧嘩を売っているのかな、光の勇者君。受けて立つよ」

「いいぜ。やってやるよ」


 レイジとアルフォスは立ち上がると睨みあう。

 このままでは喧嘩になりそうだった。

 クロキが見た所、両者の実力は同じくらいだ。

 また、どちらも国1つ壊滅させる程の強さを持つ。

 止めなくてはいけなかった。

 

「あの~。喧嘩はやめたほうが良いのじゃないかな……」


 クロキも立ち上がり両者の間に立つ。

 そして、神経を研ぎ澄ます。

 両者が本気で喧嘩をするのならクロキも本気にならなくてはいけない。

 そうでなければ止められない。

 クロキが間に立つとレイジとアルフォスは互いに離れ座る。

 

「はあ……。やめた、やめた。とんでもない物をぶら下げている奴とやりあうつもりはない」


 レイジはつまらなそうに手を振る。 


(ちょっと待て、どこを見て言っているんだよ!!)


 クロキは股間を隠す。


「そうだね。やめておこう。何てものもっているんだ君は……、全く。レーナ達も見ているというのに……。まあ、怒られるかもしれないから喧嘩はやめておくよ」


 アルフォスは手を挙げて溜息を吐く。

 どうやら喧嘩をせずに済みそうだった。

 クロキも座る。

 仲良くは出来なくても、せめて喧嘩はしないで欲しかった。

 そして、気になる事を言う。


「レーナが見ている? どういう事?」

 

 クロキは首を傾げる。


「何だ? 気付いていないのか? 変だな。お前なら気付きそうなのに」

「君が気付かないなんて……。戦い以外では鈍いのか?」


 レイジとアルフォスは不思議そうな目でクロキを見る。

 クロキはわけがわからなくなる。


「何の事?」


 クロキは2人の様子に疑問を感じる。


「まあ、別にどういう事でもない。彼女達なら見られても構わないからね。それより、どうしてだね? 君が協力してくれる理由は? まあ、助かるけどね」


 アルフォスはクロキを見て言う。

 顔は笑っているが目は真剣だ。

 クロキの本心を探ろうとしている。 


「……協力するつもりはないよ。冥王はこちらにとっても不都合な存在。そちらを利用して叩くつもりだった。それは今でも変わらない」


 クロキは静かに言う。

 嘘を吐くつもりはない。

 下手に誤魔化す意味はないからだ。


「利用か。それは良いな。なら、俺も利用する。役に立ってくれよ」


 レイジは不敵な笑みを浮かべて言う。


「協力関係になく、利用しあう関係か……。確かにそれが一番しっくりくるね。ならば僕も利用させてもらうよ。君達の力をね」


 アルフォスもまた不敵な笑みを浮かべる。


「はあ、もうそれで良いよ……」


 クロキはそう言って溜息を吐く。

 3名の男達は蒸し風呂で向かい合う。

 蒸し風呂の中で湯気が部屋中に流れている。

 その中で、決して交わらない空気がそこにあった。



 レーナの空船でチユキ達は魔法の鏡で地上の様子を見ている。

 鏡には蒸し風呂の様子が映し出されていて、3名の男が入っている。

 3名共なかなか良い体をしている。

 あんまり見ちゃいけないとは思うがつい見てしまう。


「良かった~。喧嘩にならなくて。ぶつかっていたら大変だったね」


 リノが蒸し風呂の様子を見て言う。

 もう少しでレイジとアルフォスが喧嘩になりそうだったのだ。

 チユキ達はアルフォスが戦う所をあまり見たことはない。

 だが、弓で鼠人を一撃で仕留めたところを見る限り強そうである。

 その両者があともう少しでぶつかるところだったのだ。

 見ているチユキとしてはドキドキしてしまう。


「そうね、危うくぶつかりそうだったわ。2人は大体同じぐらいね。ぶつかってみないとはっきりとはわからないけど……。でもまあ、どちらも止めた彼には敵わないわね……」


 チユキは鏡を見て呟く。

 チユキの目にはレイジとアルフォスは互角に見えた。

 しかし、それを止めたクロキは両者を2回り以上上回っている。


「えっ、チユキさんは見ただけで、その……強さとかわかるの?」


 横にいるシロネが言う。


「えっ? 強さとかわからないけど」


 チユキは首を傾げて言う。

 シロネが何を言っているのかわからなかったのだ。


「チユキさ~ん。ナニを見て言っているんすか……。いい加減やめるっすよ。コウキ君が見たらどう思うっすか」


 ナオが呆れた声で言う。


「べ、別に他意はないわよ! ちょっと喧嘩になりそうだったから心配しただけよ!」

 

 チユキは首を振って言う。

 確かにこんな姿はコウキには見せられない。

 コウキの前では知的で美人なお姉さんでいたいのだ。


「はいはい、わかっているっすよ。それにしてもシロネさんは将来大変っすね」

「ちょっと、ナオちゃん!! 何でそこで私が出てくるのよ!!」


 シロネは慌てて反論する。


「シロネがどうかしたのかしら?」


 そんな時だったレーナが部屋に入ってくる。

 レーナはエリオスの軍勢の指揮官になっているため多忙だ。そのため度々空船を留守にする。

 そして、今戻って来たようだ。

 

「いや、特に何でもないよ! それよりさ! 地上でサホコさんたちが待っているよ! 夕飯一緒に食べるんでしょ!」


 シロネはそう言ってチユキ達を促す。

 サホコとサーナとコウキは地上にいて、一緒に夕飯を食べる事になっている。

 だから、そろそろ行かなくてはいけないだろう。

 

「ああ、そう。あの子と食事を一緒にするのね。私も行きたいけど……。はあ、他に仕事もあるし、仕方がないわね。アマゾナがもっと役に立ってくれたら良かったのだけど」


 レーナは少し首を振って言う。

 かなり大変なようだ。


「大変そうね……。レーナ。じゃあ行きましょうか? みんな?」


 チユキは魔法の鏡の映像を消すと立ち上がる。

 直前まで何を見ていたか気付かれたくはない。


「あの子によろしくね。後それから鼻から血が出ているわよ。チユキ。どうしたの?」

「えっ!?」


 チユキは思わず鼻を押さえる。

 少しだけ鼻から血が出ている。


「え~と、チユキさん」

「チユキさん……」


 リノとナオが呆れた表情で見る。


「ちょ、ちょっと鼻をぶつけただけよ!! 行きましょう!! サホコさん達が待っているわ!!」


 チユキは鼻を押さえながら転移の魔法を唱える。

 こうして夜が更けていくのだった。

 

 


 

 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 ここまで読んでくれた方達なら、これぐらいの下ネタは大丈夫だろうと思ってます。

 実はチユキはムッツリだったりします。

 気付かない人がほとんどだったでしょう。

 

 ちなみに実はレイジとアルフォスは互角だったりします。

 下の話じゃないよ。

 クロキはアルフォスとは初見だったので苦戦したのです。


 そして、お知らせです。

 4月28日と5月5日は更新を休みたいと思います。

 実はカクヨムネクストの原稿を書き溜めないとストックが切れそうなのです。

 GW中に頑張らないといけません。

 

 ちなみにカクヨムネクストの外伝ですが、どこかでフォ〇チュンクエストのようなモンスター図鑑を作りたいなあとか思っています。

 本編未登場のモンスターも出たりします。

 登録してくれると嬉しいです。


 最後にギフトを下さった方々ありがとうございます。

 トトナのバニー姿はどうだったでしょうか?

 では、また。

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