第7話 不死の軍団

 クロキは遠くにいる不死者アンデッドの軍勢を見る。

 まだ昼だが、空が厚い雲に覆われているので周囲は暗いが、クロキの目ならどんな不死者アンデッドがいるのか細部までわかる。

 戦士姿の者もいれば、そうでない者もいる。

 おそらく、これまで襲った国の人間を不死者アンデッドに変えたのだろう。

 特に強そうな者はいない。

 数はクロキのいる人間の軍勢と同じぐらいであり、普通に戦ったら勝てるだろう。

 だが、相手に高位の不死者アンデッドがいればわからない。

 たった一騎で人間の国を亡ぼせるほどの者もいる。

 そのため、油断はせずに慎重に行動すべきだろう。

 マゾフェチェから出立した軍団司令部は少し高い丘の上に陣を敷いて、遠くのアンデッド軍団を見据える。


「敵は我々とほぼ同じ数のようです。ゾンビにスケルトンがほとんどで鼠人の姿も見えます」


 軍の司令部へ報告が届く。

 それを聞いた総司令官のドエームは頷く。


「なるほど。ポイズンゾンビやプレーグゾンビが少し怖いが普通に戦えばないはずだが……。どう思うかね、吸血鬼狩人ヴァンパイアハンター殿」


 ドエームは隣にいるやせ細った男に聞く。

 かなり老けて見えるがもっと年齢は若いのかもしれない。

 不死者と戦い続ける事は精神と肉体にかなりの負担である。

 そのため吸血鬼狩人ヴァンパイアハンターの寿命は短いらしかった。

 その吸血鬼狩人ヴァンパイアハンターの彼はワルキアへの案内人だ。

 何度もワルキアへと入りこみ生還している、凄腕だとクロキは聞いている。

 案内人として騎士団に雇われたのだ。


「吸血鬼はいないのか? おかしいな、あれ程の数なら貴族がいてもおかしくないはずだ。本当にいなかったのか?」


 吸血鬼狩人ヴァンパイアハンターは念を押すように聞く。

 

「それはわかりません。視認で確認出来る事のみを伝えています。危険ですが、もっと奥まで行きましょうか?」


 報告者はそう言う。

 その表情は険しい。

 敵陣の奥まで入り込むことは危険である。

 斥候に出た者のうち何人かは死ぬかもしれない。


「その必要はないよ。吸血鬼ヴァンパイアはいない。奥にいる不細工な鼠が指揮官だね。僕が言うんだから間違いないよ」

 

 そう答えたのは竪琴を奏でているアルフォスだ。

 実はクロキとレイジもアルフォスも、司令部にいる。

 女神から選ばれし者として、司令部がここにいてくれとお願いしたのだ。

 はっきり言って目立たずに行動すべきなのにこれは目立ちすぎではないだろうかと思う。

 アルフォスはクロキと同じように人間よりも遥かに良い目を持っている。 

 クロキと同じように敵の指揮官までわかるようだ。


「鼠人が指揮官とは珍しいな。おそらく死霊術師ネクロマンサー死の司祭デスプリーストかまたはその両方だろう。しかし、奴らは臆病ですぐ逃げる、なぜ正面から挑んでくる。何かあるかもしれない」


 吸血鬼狩人ヴァンパイアハンターが疑念を口にする

 死霊術師ネクロマンサーは死霊術を使う魔術師で死の司祭デスプリーストは死の神かその眷属を信仰して力を貰った者の事だ。

 どちらも死霊魔法を使う事は同じであり、あまり違いがない。

 また死霊術師ネクロマンサーが力を貰う事もであったり、死の司祭デスプリーストが死霊術を学ぶ事もあったりするので、ますます違いがなかったりする。

 そして、吸血鬼狩人ヴァンパイアハンターの危惧はあたっている。


「それは指揮官が何かの魔法の道具を持っているからだ。さすがに何が起こるかはわからないがな」


 レイジは面倒くさそうに言う。

 レイジも気付いていたようだとクロキは思う。

 敵の指揮官らしき鼠人は何か魔法の道具を持っていた。

 その道具はおそらく危険だろう。

 

「そこまで、わかっているのですか……。できれば、何とかしていただきたいのですが」


 ドエームはレイジとアルフォスを見て言う。

 ここまで来るまでの間にレイジとアルフォスは名高い戦士達を叩きのめして、その力を示している。

 もはやレイジとアルフォスの力を疑う者はいない。

 もっとも、クロキにしてみれば目立って良いのだろうかとも思う。


「まあ、良いよ。僕が少し何とかしてあげる。君達は前面にいる不死者アンデッド達をどうにかしたまえ」


 アルフォスはそう言うと何もない空間から弓を取り出す。

 美しい装飾が施された魔法の長弓だ。

 遠くから射るつもりらしい。

 

「ありがとうございます。これで犠牲なく勝てますでしょう」


 ドエームが礼を言う。

 そんな時だった。

 丘から不死者アンデッド達を見張っていた者が大声を出す。


「敵が動きました! こちらに来ます!」


 クロキの目にも不死者アンデッド達が向かって来るのが見える。

 低位の不死者アンデッドであるゾンビやスケルトン等の大半は動きが鈍い。

 こちらに来るまでの間に時間がかかる。

 そんな不死者アンデッドに火矢や投石器を放つ。

 服に引火してゾンビ達に燃え広がり、投石でスケルトンが打ち砕かれる。

 毒や疫病を持ったゾンビとはなるだけ距離をおいて戦うべきであり、最前列の戦士と接敵するまでの間に多くを倒す事ができるだろう。


「さて、自分も行くかな……」


 クロキは丘の上からこっそり移動する事にする。


「行くのか?」


 そんなクロキにレイジが声をかける。

 当然のようにレイジも気付いているようだ。


「うん、まあね。後ろからこっそり来るのは自分がやるよ」


 本陣の背後には物資を乗せた馬車と非戦闘員が待機している。

 そこに向かって鼠人ラットマンが多きく迂回して向かってきているのだ。

 鼠人ラットマンは強い種族ではないが、潜入や隠密が得意であり、また不浄を体に纏わせているので食料に近づけるのは危険である。

 騎士団も鼠人ラットマンがいると聞いて警戒しているようだが、クロキが動いた方が早い。

 ここで進行が遅くなるべきではない。

 だから自分が動こうとクロキは行動するのだった。



 ブラグは遠くから自軍の様子を見る。

 予想通り不死者アンデッド達は次々と倒されている。

 人間ヤーフ共は遠くから火矢や投石で応戦してくる。

 それも当然だろう。

 ポイズンゾンビやプレーグゾンビに近づくのは危険であり、また不死者アンデッドで飛び道具が使えるのはスケルトン弓兵アーチャーぐらいで他は使えない。

 飛び道具を使って数を減らそうとするのは当然であった。

 だが、不死者アンデッドは普通の人間なら死んでしまうような攻撃でも耐える事ができるので簡単には歩みを止めない。

 腕や腹に穴が開いても怯むことなく進む。

 だが、それではダメだ。

 前線にいる人間ヤーフ共を引きつけなければならない。

 指揮をしている鼠人隊長ラットマンリーダーには近づきすぎず、こちらに誘いこむようにと命令している。

 また、なるだけまとまらずに散開せよとも伝えている。

 矢も投石も散らばった相手には効果がうすい。

 互いに相手に近づかないので膠着状態になる。


「くく、上手くいったようだな。これはいざという時に使うべきだからな」


 ブラグは手に持つ魔法道具を握りしめて笑う。

 既に鼠人ラットマンの隠密部隊が迂回して人間ヤーフの戦士共の後ろに回ろうとしている。

 上手くいけば相手に大打撃を与える事ができるはずである。

 魔法道具は一度しか使えないので出来れば温存したい。


「大変です!! ブラグ将軍閣下!!」


 そんな時だった鼠人ラットマンの伝令が慌てた様子でブラグの側に来る。


「どうした!!? 何があった!!?」

「奴らの後ろに回ろうとした別動隊が消滅しやした!!」

「はあっつ!!?」


 その報告にブラグは変な声を出す。


「どういう事だ? 全滅ではなく消滅? 訳が分からんぞ」

「それが……。よくわからないんで……。たまたま隊を離れていた奴がいて、戻ると仲間が全員消えていたようなんでさあ」


 報告した鼠人ラットマンも状況がわからないようだ。

 

「ぐっ!! くそ!! よくわからんが、作戦は失敗したようだな!! ならこれを使う!!」


 ブラグは手に持つ魔法の道具である壺を掲げる。

 この中には大量の悪霊ラルヴァが入っている。

 大量の悪霊ラルヴァ群体レギオンは死の叫びで多くの人間ヤーフを死に至らしめるだろう。

 ブラグはその封印を解き、人間ヤーフに向けようとする。

 その時だった。


「あれ?」


 ブラグは間抜けな声を出す。

 先程まで持っていた壺が跡形もなく消えている。

 消えているのは壺だけではない。

 自身の手も消えている。


「しょ、将軍閣下……。あの……、お腹は大丈夫でしょうか?」


 側にいた鼠人ラットマンがブラグの腹を見て驚く声を出す。

 ブラグは自身の腹を見る。

 見えたのはブラグの後ろの光景だ。

 ブラグの腹に大きな穴が開いており、そこから後ろの景色が見えるのだ。


「なっ、ぐほっ……。そんな……」


 ブラグは血を吐いて前に倒れる。

 

「しょ!! 将軍がやられたーーー!!」


 側近の鼠人ラットマンが叫ぶとその場から逃げ出していく。


「な、何が起こった……」


 ブラグは状況がわからないままその生を終えるのだった。


 

 



 



 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新しました。

 ブラグの最後ですがあっけないですね。

 まあ良いか。

 鼠人ラットマンも色々と設定を作り込みたいですが、スケ●ブンの設定を超えられる気がしません。


 また調子にのってバニーキャラを沢山作ってしまいました。

 チユキ、シロネ、キョウカ、サホコ、トトナ、ポレン。

 誰を最初に出すか迷っています。

 

 カクヨムネクストもお願いします。

 ギフトを下さった方ありがとうございます。この場でお礼を申し上げます。


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