第6話 二人の勇者+1
マゾフェチェの街からワルキア征伐軍が出立する。
その数は1万以上であり、非戦闘員を加えると2万近くになる。
聖鉄鎖騎士団を中心に自由戦士達を募集して編成された軍団だ。
騎士団は日頃から訓練を受けているが、自由戦士達は急に集められた者達だ。
上手く連携とれるかわからない。
団長のドエームは行軍中に訓練をするつもりらしい。
正直上手くいくかクロキにはわからない。
だけど、死の軍勢が各地で動いている以上ゆっくりもしていられない。
こうしてクロキ達はワルキアに向かって進軍する。
「勇者達は剣を掲げ、死の大地へと赴く。愛しきあの人を守るために……」
軍団が小休止になった時であるアルフォスの歌声が聞こえる。
アルフォスは旅の吟遊詩人として軍に加わっている。
歌と芸術の神を名乗るだけあって、その歌と弦楽器が奏でる音は多くの者を魅了する。
特に近くにいるのは女性が多い。
戦士には男が多いが別に女性戦士がいないわけではない。
魔物が多い土地であり、戦いの女神であるレーナやアマゾナを信仰されやすい土壌があるのだ。
身を守るには男に頼るだけでは足りず、自らの身は自ら守らなければならない事が多い。
今回の遠征には多くの女戦士も参加している。
また、戦士ではない女性もいれば子どももいるようだ。
今回の遠征には家族連れで参加している者がいるからだ。
これは別に珍しい話ではない。
自由戦士にも家族おり、市民権を持っていない者は家族を連れて戦いに参加するのだ。
市民権を持たない者は城壁の中に入れない事が多く、むしろこういった戦士達の中に加わる方が安全だったりするのだ。
そのため、戦士の家族でない非戦士の女性や子どももこっそり付いて来ていたりする。
軍紀はどうなのだろうと思うが、今度の遠征が急であり、また黙認されている所もある。ようはしっかり戦ってくれれば良いのかもしれない。
また、今回のような大人数を動員して行動する事は滅多にないので、規律をしっかり守らせる仕組みもないのも原因だったりする。
もちろん、戦闘に巻き込まれても自己責任だったりする。
それに補給を担当している商人が連れて来る者はその商人の裁量に任されている。
その中には非戦闘員の女性もいるようだ。
そういった女性達はレイジやアルフォスに目を奪われている。
レイジ達は容姿が美しく男であっても目を引いてしまう。
ある意味仕方がないだろう。
だが、隠れて参加しているのに目立って良いのだろうかとクロキは思う。
先程も喧嘩を吹っかけて来た相手をレイジは叩きのめしていた。
かなり名の知られた戦士だったようでレイジはすでにこの中で有名になっている。
この地域では顔が良いだけでは男はもてない。
まず強くなければいけないのだ。
強さも見せた事でレイジの人気は高まっている。
今どこに行っているかわからないが、女性の所に行っているかもしれない。
また、当然のようにアルフォスも目立っている。
有名な吟遊詩人に自身の事を歌ってもらうのは名誉なことだ。
またアルフォスも喧嘩を売って来た者を叩きのめしている。
隠密行動に不向きな2人であった。
(はあ、とりあえずやる事はないし剣の練習でもするか……)
そして、当のクロキは片隅で剣の練習をしている。
周囲には誰もいないし気配も感じない。
レイジとアルフォスが目立つ傍らで全く無視されているのがクロキなのだ。
やがて小休止が終わり、再び軍は動き出す。
次に向かうのはグンナル王国。
そこは今死の軍勢に攻められている最中であった。
◆
グンナル王国はワルキアの北部、マゾフェチェの南にある国だ。
今そのグンナル王国は
既に5日が経過しているが陥落する気配はない。
「どういう事だ!! なぜ落とせん!! クソが!! 折角将軍になれたっていうのによう!!」
ブラグは
新しい冥王が誕生し、将軍へと抜擢された。
これは珍しい事であった。
1軍を指揮する事は普通あり得ない。
しかし、冥王の代理である刑務官アシャクはブラグを将軍に任命し、
これで人間の国を襲い死の勢力を拡大せよと命令したのである。
これにブラグは喜んだ。
これまでブラグは忠実に仕えて来たのにその待遇は良くなかった。
元は人間であり、
それでも耐えて、いつかは成り上がってやろうと思ったのである。
そして、将軍に任命された。
ここで多くの命を死の神に捧げればやがて死の貴族である
最初は上手くいっていた。
多くの小国を滅ぼし、殺した後は部下の
だが、それなりにグンナル王国を陥落させるのは難しく、行軍は止まってしまった。
そもそも、
その数が多くなればなるほど扱いが困難になる。
これまでの国は城壁がしっかりしておらず、単純な数で攻め落とせたが、堅固な城壁を持つグンナル王国を落とす事ができない。
「ブラグ将軍閣下。どうしやす? 奪った食料がつきました。このままだと兵士達が飢えてしまいやすぜ」
部下である
ブラグの配下は
城壁を突破するためには
どうやら、敵の中にそれなりにできる奴がいるようである。
同じ手は使えずどうするか決めあぐねているところだ。
「ふん、それならばゾンビやスケルトン共を食えと伝えろ!! この国を落とせば兵士の補充はできるのだからな!!」
ブラグはそう命令する。
「もう、そうしてやすぜ。そのため数が少なくなっていやす」
「何!? 命令を待たずにか!! クソが!!」
ブラグはそれを聞いて苛立つ。
特に食に関しては抑えがきかず、食料はあればあるだけ食べてしまう。
我慢をする事ができないのだ。
そのため、数が少ないにも関わらず食料が尽きてしまったのだ。
「た、大変だあ~!!!!」
ブラグが怒りに震えている時だった。
偵察に出ていた
その慌てぶりは普通ではなかった。
「どうした!! 報告しろ!!」
「へ、へい! マゾフェチェから騎士共が軍勢を率いてやって来ていやす!! もうすぐここに来ます!!」
ブラグが聞くと偵察に出ていた
「何だと!! いや、これは好都合だ!! 食料と兵士が同時にやって来たんだからな!! 迎え撃つぞ! お前ら!! くく、こいつを使う時が来たようだな」
ブラグは笑うと腰にある
アシャクから与えられた道具だ。
消耗品であり、いざと言う時にしか使えない。
だが、効果は抜群のはずだった。
ブラグは北を見る。
ブラグは人間だった時、みじめな生き方だった。
ブラグは貴族の生まれだ。
本来なら家督を継ぐ身分であった。
しかし、不死の魅力に取りつかれたブラグは吸血鬼になる事を望み、下等な身分の者を殺し、血を死の神へ捧げる儀式を始めた。
それを知った父親は怒り、気弱で小動物を愛するだけの愚鈍な弟に家督を与えたのである。
下等な身分の者を数名殺しただけでこの仕打ちだ。
ブラグは復讐をすべく死の教団に入った。
やがて、ブラグの願いはかなえられ、死の眷属に迎え入れられたのである。
だが、ブラグとしては面白くなかった。
死の眷属に迎えられたが、
貴族の生まれであるので死の貴族である
しかし、それでもブラグは耐えた。
いつか成り上がるために。
ブラグは配下の
北から来る人間共を殺すために。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。遅くなりました。
ブラグ再登場。忘れられているかもしれない。
まあ別に良いか……。
バニーガールクーナを近況ノートに上げています。
良かったらどうぞ。
限定近況ノートのネタとして、しばらくバニー絵でも作ろうかと思います。
とりあえず候補はチユキ、シロネ、キョウカ、トトナ、ポレンかな?
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