第5話 空の上と地上にて

 雲の上、レーナの空船の1室でチユキ達は集まっている。

 そこには巨大な鏡があり、その鏡にチユキ達は注目する。

 1人地上に行ったレイジの様子を見るためにレーナが高性能の魔法の鏡を用意したのである。

 魔法の鏡は遠視の水晶玉よりも遠く離れた景色を見る事ができ、簡単な結界に守られた内側すら見る事が出来る。

 ただ、しばらく使っていなかったので調整に時間がかかり映し出されるまでに時間がかかった。

 鏡面にどこかの部屋が映し出される。

 部屋にはレイジとアルフォス以外にもう1人の女性と1人の男性がいる。

 その男性の顔にチユキは見覚えがあった。


「どうしてクロキがいるの!!? 何で!!?」


 男性を見たシロネが大きな声を出す。

 男性は暗黒騎士であるシロネの幼馴染のクロキであった。

 

「うむ、どうやら魔王も新たな冥王を脅威と思っているようだな。最強の暗黒騎士を送り込んでいたようだ」


 レーナの部下である天使のニーアがそう説明する。

 確かにそれは考えられる話であった。

 かつて魔王と死神は仲間だったが、今は敵となっているらしかった。

 死神の後継者である新たな冥王が気になっても仕方がないだろう。


「確かにそれはわかるっすが、それだけじゃ一緒にいる意味がわからないっす。どうして彼がいるっすか?」


 ナオが聞くとチユキ達は一斉にうんうんと頷く。


「ナオさんの言う通りよ。彼がどうしてレイジ君達と一緒にいるの? 気になるわ」


 チユキもナオに同調して聞く。


「それはレーナ様の指示だ。どうやら、暗黒騎士が来ている事に気付いた者がいたらしく、それをレーナ様に伝えたらしい。どうせなら、その力を利用してやろうというわけだ」

 

 ニーアはそう説明する。


「でも、良いのかな……、協力しあえるのかな? 喧嘩しないと良いんだけど」


 リノが不安そうに言う。

 確かにその通りだ。

 そもそも、暗黒騎士の彼とレイジとの間には因縁がある。

 協力し合えるとは思えない。


「それについては大丈夫よ。上質な餌をちらつかせておいたから、きっと協力してくれるわ」


 答えたのはレーナだ。

 レーナは先ほどまで何かを考え込んでいるようで、会話に加わっていなかった。

 だけど、解決したのか前を向いて鏡を見ている。


「餌? クロキに何をちらつかせたの? レーナ?」


 シロネが首を傾げて聞く。

 やはり気になるのだろう。


「ふふ、それは言えないわね」


 レーナは笑って言う。

 チユキも正直気になる。

 だけど、レーナは答える気はないようだ。


「でも、クロキさんが来たなら安心ですわね。カヤ。帰りますわよ」

「はい。お嬢様」


 これまで静かに見ていたキョウカとカヤが立ち上がり部屋から出て行く。

 レーナも止めるつもりはないようだ。

 だが、その気持ちもわかる。

 はっきり言って彼が協力してくれたら何とかなりそうである。

 地上にいてサーナ達の相手をしているサホコも安心するだろう。

 唯一の心配は喧嘩して足を引っ張りあうかもしれない事だ。

 レーナは大丈夫と言っていたが心配になる。


(本当にどうやって? 協力する事を承諾させたのかしら?)


 チユキは鏡に映るクロキを見てそう思うのだった。




 騎士団長ドエームに連れられてクロキ達は城の中庭から広間へと行く。

 収集をかけられたのか数名の騎士達も広間に来ている。

 おそらく上級騎士だろう。

 身なりが良く、装備も良い。

 騎士団に所属する騎士はほとんどが貴族の出身であり、団長のドエームもどこかの貴族出身らしかった。

 貴族といえば優雅なイメージだが、このチューエンにおいては勇ましい者がほとんどで次男三男も幼い頃から乗馬や武術を学んでいる。

 また、規律に従う事も教えられているので、庶民出身の戦士団よりも騎士団の方がはるかに強い。

  

「団長。およびですか?」


 集まった上級騎士達は胸に拳をあてて団長に敬礼する。


「ああ、良く来てくれた。彼らを紹介したくてな。ここにいる御仁達は女神レーナ様に選ばれた勇者様だ。今回の遠征では彼らに来てもらう」


 ドエームはクロキ達を紹介する。

 騎士達はクロキ達を見て驚いた顔をする。


「この二人が……」


 騎士はレイジとアルフォスを見て何かを言いかける。

 おそらく、こんな優男が強そうに見えないと言いたいのだろう。

 しかし、隣にいたコロネアに遠慮して言えなかったようだ。

 コロネアはレーナの使徒であり、レーナの地上での代理人だ。

 疑う事は女神に対する不敬になりかねない。

 後、普通にいる事を忘れられているのでクロキは抗議したくなる。


「その通りです、フマレル卿。女神様の啓示にあった勇者様です。私達はむしろ彼らを補助するために行動します。それから、この事はここにいる者だけの秘密です。心しておいて下さい」


 コロネアはそう言って騎士達を見る。

 騎士達は敬礼して同意の声を出す。

 コロネアの言う事に異を唱える事はできないのだろう。


「では、そういう事だ。ところで募集をかけた戦士達はどうなっている?」

「はい、順調に集まっています。あれだけの者を動かすのは大変そうですな。言う事を聞かない者もいますでしょうし。それにかなり金がかかります」


 騎士が窓の外を見て言う。

 曇り空の昼、マゾフェチェの街の郊外に多くの戦士達が集まっている。

 数はどれ程いるかわからないが、かなりの数だ。

 聖鉄鎖騎士団の招集に応じて集まったチューエン各地にいる戦士達だ。

 自ら志願しただけに戦意は高そうである。

 問題は彼らを組織し、運用するのは難しいだろう。

 荒くれ者が多く大人しく騎士達の命令を聞いてくれるとは限らない。

 また、物資もかなり必要だろう。

 騎士団に仕える商人達はさぞ大変だろう。

 短い期間の間に物資を集めなければいけないのだから。

 商人達は騎士団に随行して、物資の運搬を行う事になっている。

 戦士の数が増える程に物資も必要なので、今度の遠征に行く人はかなりの数になる。

 そうなると金もかなりかかる。

 騎士団の資金が今回の遠征でかなりの負担になるのは想像できた。


「確かにそうだな。だが、死の軍勢が各地に広がろうとしている。行軍中に選別していくしかない。使えない者は切り捨てる。それに金には代えられん。行くしかない」


 ドエームは険しい顔をして言う。

 クロキはレイジとアルフォスを見る。

 面倒くさそうな顔である。

 おっさんが話してばかりではつまらないのだろう。

 早く話が終わって欲しそうだ。

 まあ、この両者なら外に集まっている戦士達が束になっても敵わない。

 隠れ蓑になってくれさえすれば良いのだ。

 そう思うのが当然だった。


「とにかく集まった戦士達の名簿を早急に作り、すぐにでも行けるようにしてくれ。すでにグンナル王国から救援要請が来ている。急がねばならん」


 ドエームが言うと騎士達は頷く。

 出発はもうすぐであった。 


 




 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。

ちょっと短いけど、これ以上ネタが思い付かない。

そろそろ敵陣営を書きたいなとも思ってます。


また、よく考えたら聖鉄鎖騎士団ってベルセルクにも出ましたね。

多分頭の片隅でおぼろげに覚えていて、つい使ってしまったのでしょう。

問題があったら変えます。

しかし、既に出ている白鳥騎士団や、まだ未出の黄金の鷲騎士団もどこかで使われている気がするのでどうしましょう。

名前が被らないようにしたいけど、ネーミングセンスがない自分が付けると余計変になりそうです。


最後に限定近況ノートにてですがバニー姿レーナを作成しました。

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