第4話 聖鉄鎖騎士団

 クロキの目の前に交差した鎖が書かれた紋章が描かれた旗が壁に飾られている。

 その旗の前にいるのは1人の女性だ。

 明るい茶色の髪に鎖帷子を着込んだ騎士風の恰好だ。

 実際に騎士なのだろう。

 彼女からはそんな育ちの良さを感じる。


「私は聖鉄鎖騎士団長ドエームの娘、騎士クッコロネア。コロネアと呼んで下さい。女神様の啓示により皆様を補佐いたします」


 コロネアと名乗った女騎士はそう言って頭を下げる。

 それを見てクロキは溜息を吐く。

 部屋の中にはレイジとアルフォスがいる。

 どちらも憮然とした表情だ。

 はっきり言って会いたくない相手である。

 それは向こうも同じだろう。


(くっ、やられた! でも何で? 自分の行動が? ……やっぱり、クーナか?)


 クロキはクーナの事を考える。

 レーナはクーナと繋がっている。

 しかも、レーナの方が優勢のようだ。

 クーナならこんな事は考えないだろう。


「はあ、全くレーナはなぜここに彼を呼んだのだね? 君に言っても仕方がない事だが」

「本当にな。本来なら俺一人で十分なはずなのに……。もしかして心配してくれたのか? 全く」


 レイジとアルフォスも溜息を吐く。

 3者共この状況を好ましく思っていない。


「女神様の啓示によりますと、皆様が協力すればこの危機を解決できるとの事です。どうかお願いです。私達を助けて下さい」


 コロネアはすがるような目で見る。

 コロネアはかなりの美人である。

 当然レイジとアルフォスが動かないわけがない。


「ああ、それはもちろんだ。そのために来たのだからな」

「安心しなさい。僕達に任せておきたまえ。ふふ」


 案の定レイジとアルフォスはお願いを聞く。


「お2人がいるのなら自分はいらないですよね。それじゃあ自分はこれで……」


 レイジとアルフォスと一緒の部屋にいたくないのでクロキは部屋から出ようとする。


(ちょっと待ちなさい!! 手伝ってよ!! クロキ!!)


 突然頭の中で声がする。

 おそらく、この部屋の様子をレーナは見ているようだ。

 しかし、大音量で通信の魔法を使って来るとは思わなかった。


(いやいや、ちょっと待ってよ! レーナ! レイジとアルフォスとかと組めるわけないじゃん! 何やってくれてんの!!)

(え~。貴方が協力したら、もっと簡単にすみそうじゃない。レイジとアルフォスだけを行かせるより、頼りになるもの。手伝ってよ)

(頼りになるって……。そうは言っても。協力するどころか、逆に喧嘩になるよ)

(そこは貴方なら何とかできるでしょう。ええと……、バニーだったかしら? 後で、あの恰好してあげるから……)

(えっ……!?)


 クロキは頭の中でレーナと激しくやり取りする。


「何をやっているんだ……」

「君、頭は大丈夫かね」


 背中からレイジの呆れた視線を感じる。

 傍らから見ているとクロキは急に立ち止まって変な動きをしているようにしか見えないだろう。

 レイジもアルフォスも何をやっている?と思うのも当然だった。


「急に立ち止まって……。何故前かがみになっているんだ?」


 アルフォスが何かに気付いたように言う。

 実はお前の妹と話をしているんだよとは言えない。


「やる気がないのなら、帰ったらどうだ」


 レイジはそう言ってジト目で見る。


「待ってください!! 女神様は3名で協力するようにと仰っています。お願いです!! チューエンの平和は貴方達にかかっているのです!!」


 コロネアはクロキの前に来ると頭を下げる。

 そして、レイジとアルフォスを次に見る。


「貴方方にもお願いです!! これは女神様のお願いでもあるのです!!」


 コロネアは真剣な表情である。

 今チューエンの地は大変な状況になっている。彼女としては必死なのだろう。


「レーナの頼みか……。少し癪だが、俺を心配しているのだろうな……。わかった協力してやろう」

「はあ、レーナも大変だな……。まあ、今回の事は僕にも責任がある。君と組むのは不本意だが協力してあげるよ」


 レイジとアルフォスはクロキを見て言う。

 何故かクロキがレイジとアルフォスに借りを作っているような言い方である。

 むしろ、こちらが協力してあげているのが正解なのではないだろうかとクロキは思う。


「良かった。これで皆様の了解も取れましたし。これでチューエンも救われます。まずは父……、団長の所へ行きましょう。皆様を紹介しなくては!!」

「いや、ちょっと待っ……」


 クロキは抗議しようするが、コロネアは構わず部屋を出る。


「さあ、行くよ。君達。僕の後について来たまえ」

「待て……。なぜ、お前が先頭なんだ? 俺が前を歩く」


 レイジとアルフォスが睨みあいながらコロネアの後を付いて行く。


(いや……、もう本当に何でだよ……。でも、仕方ない協力するか……。元々どうにかするつもりだったし。仕方ないか)


 クロキは仕方ないと思いながら後ろについていくのだった。



 クロキ達はコロネアの後に付いて行く事にする。

 マゾフェチェの街を歩くと好奇な視線にさらされる。

 耳を澄ませると噂話が聞こえる。

 この街ではコロネアはかなり有名なようであった。

 騎士団長の娘であり、敬虔なレーナ信徒。

 彼女を戦乙女ワルキューレと呼ぶ者もいる。

 戦乙女ワルキューレはレーナに選ばれた女戦士の事であり、多くは天使から選ばれるが地上の守り手として人間の女性が選ばれる事もある。

 コロネアもレーナの声を聞けるので実際に戦乙女なのだろう。

 この地域でも守護の女神であるレーナを信仰している者は多く、その声を聞くコロネアは騎士団長ドエームより人気があるようだ。

 だから、多くの者が彼女に注目する。

 そして、彼女が連れている2人の美男にも注目が集まっている。

 レイジとアルフォスに熱い視線を向ける婦女子が沢山いる。

 戦乙女コロネアとの関係を噂しているようだ。

 麗しい戦乙女と美男の勇者。

 目を引くのも当然であった。


「コロネア様。いつも凛々しいわね。後ろにいる顔の良い殿方は誰かしら?」

「すごく良い殿方ね。それも2人も」

「本当に誰なの? あの2人の麗しい殿方はコロネア様とどういう関係なのかしら?」

「両脇に見目好い殿方を連れているなんて……。気になる~」


 話している声が聞こえるがクロキは蚊帳の外だ。


(まあ、この2名と一緒に歩いていたらそうなるよね……。まあ、良いけど)

 

 レイジもアルフォスも顔が良すぎるのだ。

 クロキも決して悪くないはずなのだが、どうしても影に隠れてしまう。

 やがて、街で一番大きな建物へとやってくる。

 騎士団が所有する城で団の本部のようであった。


「おお、コロネア様。今までどちらへ? うん、後ろにいる者は?」


 城の門番がクロキ達を見て怪訝な顔をする。


「この方達は女神様の啓示による勇者様だ。父に……。団長にお会いしたい。通してくれ」

「何と女神様の!!? 後ろにいる2名の方がそうなのですね。わかりました! どうぞお通り下さい! 団長はいつもの所にいるはずです!!」


 門番はそう言って道を開ける。

 クロキ達は城の中へと入る。

 そして中庭に入った時だった。


「はあっ!!」


 下着姿の中年男性が自身に鞭打っている所に遭遇する。

 自分に鞭打つたびに喘ぎ声を出し、尻を揺らしている。

 それを見てクロキとレイジとアルフォスはの顔が強張る。

 男は背を向けて鞭打ちに集中しているためか気付いていないようだ。

 いわゆる鞭打ち苦行という奴なのだろう。

 このチューエンは人が生きるには厳しい土地である。

 だが、その艱難辛苦はむしろ神の試練であり、むしろ喜びをもって受け入れよと説く者達もいるのだ。

 試練に打ち勝てば天国の門は開かれる。

 厳しい土地に生きる者に希望あたえるための方便かもしれないが、その教えに救われている者もいるだろう。

 鞭打ち苦行は、さらに自身に痛みという試練を与え天国に近づこうという考えである。

 痛みを受け入れて天国に近づくことを喜びとする、それが、鞭打ち苦行の考えだ

 目の前の男もそうしているのだろう。

 だが、クロキ達としては筋肉隆々の男が鞭打って悶えている姿なぞ見たくない。

 早々に帰りたくなる。


「父上……。少し前に話した。啓示の勇者様達を連れてきました」


 コロネアは男に近づいてそう言う。


「何!!? 女神様の!!?」


 鞭打っていた男が振り向きクロキ達を見る。

 コロネアと同じ色の髪をし、髭を生やした紳士的な男である。

 男はクロキ達を見て嬉しそうな顔をする。

 

「良く来てくださった!! 私は団長のドエーム!! 皆様を歓迎したしますぞ!!」


 

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。花粉がきつく、鼻と喉が痛いです。

でも、仕事に行かなきゃいけない……。いやですね。


マゾフェチェは実際にある名称マゾフシェからであり、他の名前も特に他意はないです。


カクヨムネクストの登録もできればお願いします。

また、ギフトを下さった方々!! この場で厚く御礼申し上げます!!




 

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