第2話 ワルキアの異変

「えっ、ザルキシスが消滅して……。新しい死の王が誕生ですか?」


 魔王宮に戻ったクロキはとんでもない事をモデスから聞かされる。

 謁見の間にはモデスとルーガス、クロキしかいない。

 最近、クロキと話す時はこの3名だけの時が多い。

 一応魔王とその配下という立場なので、大勢の者が見ている前では立場を考えなければならず話にくいからである。


「そうなのだ……、クロキ殿。ザルキシスに成り代わったザシュススは冥王を名乗り、世界を瘴気で満たす事を宣言した。現に瘴気の風がワルキアから広がり始めている。」


 モデスは額を押さえて言う。

 瘴気は死の眷属以外の者達を病気にして、死に至らしめる。

 瘴気に覆われた世界では死の眷属以外は生きていけないだろう。

 神族は強い肉体を持っているから死ぬことはないが、瘴気は気持ちよいものではない。

 死の眷属とそれ以外の者達は相いれない存在なのだ。

 クロキはキソニアの上空に吹いていた瘴気の風を思い出す。

 まだ、しっかりと吹いていないがあれが広がれば多くの生き物が死ぬだろう。


「それだと争わざるを得ないですね……。ザシュススとは何者なのですか?」


 クロキはザシュススの事を聞く。

 キソニア上空であった双頭の鳥人が言っていた名だ。

 気になるのも当然だった。


「そうですな。クロキ殿はザシュススを知らないのですね。このルーガスが説明いたしましょう」


 モデスの隣にいるルーガスが説明してくれる。

 ザシュススはザルキシスの息子で最強の死の御子であった。

 しかし、ナルゴルの不興を買い、封印刑にされてしまった。

 それが、突然復活したようなのである。

 誰が復活させたのかわからない。

 だが、復活したザシュススはザルキシスの力を奪い新たな冥王となり、世界に宣戦布告をしたのである。


「はあ、そんな奴がいたのですね……。それが復活するなんて……」

「うむ、しかも封印される前よりも強くなっているようだ。以前よりも弱体していたとはいえ、あのザルキシスが遅れを取るとはな」


 モデスは信じられないという顔をする。

 ザルキシスはまだ往年の力を取り戻してはいない。

 しかし、それでもザシュススに負けて力を奪われるとは考えられない事だった。


「新しい情報によりますとザシュススはアルフォス率いるエリオスの軍勢を破ったようです。事態を重く見たレーナは、光の勇者達をワルキアへと送ったようです。共倒れが一番ですが、それも難しそうですな。そして対応を考えていたところです」


 ルーガスは首を振って言う。


「アルフォスが敗れ……。レイ……、光の勇者が向かったのですか? かなり危ないですね。あのザルキシスを簡単に倒した相手ですから……。止められないかもしれません。もし良ければ自分が様子を見てきましょうか?」 


 クロキはそうモデスに提案する。

 ザルキシスは強く、それを簡単に破ったザシュスス相手ではレイジ達だけでは厳しいだろう。


「申し訳ないな……。クロキ殿。アルフォス達すら勝てない相手だ。こちらから様子を見に行ける程の強さを持つのはクロキ殿しかいないのだよ。行ってくれるか?」


 モデスは申し訳なさそうに言う。


「行きましょう。ザシュススは聞いた限りではかなり危ない相手。放置できないでしょうから……。とりあえず様子を見に行きます」

「ありがとう。クロキ殿。必要なものがあったらルーガスに言ってくれ、用意させよう」


 こうして、クロキはワルキアへと向かう事になったのであった。




 レイジとチユキ達はレーナに呼ばれて彼女の空船へと行く。

 船に来たのはサホコを除く仲間達である。

 サホコは空船の真下にある人間の街でコウキとサーナと共にいる。

 


「レーナ。エリオスの軍勢が敗れたって!? どういう事なの?」


 空船に着くとチユキはさっそくレーナに聞く。

 レーナは困った顔をして額を押さえている。


「ええ、そうよ……。トールズはアルフォスが止めるのを無視して突撃して、窮地に陥り。それを助けるためにやむなくアルフォス達も突撃したわ。そして、相手の領域で戦う事になり、かなり損害が出たわ。アルフォスはこれ以上損害を出すのは良くないと思い、無理やりトールズを引っ張って空域を脱出した。まあ、こちらの負けね」


 レーナは戦いの経緯を説明する。

 エリオスの軍勢を指揮していたのはアルフォスとトールズである。

 だが、両者の仲は正直言って悪く、トールズはアルフォスの作戦に乗る事を嫌がり、自身の部下と共に正面から突撃したのである。

 その突撃をアルフォスは聞かされておらず、彼を助けるためにやむなく戦いに参加した。

 敵の作った結界の中で戦った結果、損害が大きくなりすぎて、アルフォスはトールズを無理やり連れて撤退する事にしたのである。

 天使や、人間の英雄で組織された聖戦士達の損害が大きく、軍勢の再編成に手間取りそうであった。


「そんな事が、やっぱりとんでもない異変があったのね」


 シロネは眉を顰めて聞く。


「そういえば、どうしてこうなったのか説明してなかったわね。ワルキアで何が起きているのか説明するわ」


 レーナはこれまであった事を説明する。


「死神ザルキシス……。かつて魔王の仲間だった奴が自身の息子にその地位を奪われたのか……。そして、奴は世界中を瘴気で覆うと宣言した。とんでもない奴だな」


 レイジが言うと全員が頷く。


「ザルキシスって、前にロクスで会った奴っすよね。そいつが自身の息子に地位を奪われる。ちなみにそいつはどうなったっすか?」

「消滅したらしいわ。相手の発表だけどね……」


 レーナが説明するとチユキは前に会ったザルキシスを思い出す。

 最初はロクス王国。次に会ったのはジプシールの地であった。

 かなりの強敵であったが、息子に地位を奪われてしまった。

 諸行無常である。


「地位を奪った息子はザルキシスとかいう奴よりも強いみたいですわね。名前は何というのでしたかしら?」


 キョウカは眉を顰めレーナに聞く。


「ザシュススよ。死の翼とか言われているわね。実はそいつの事は私もよく知らないの……。急にどこから湧いて来たのかしら?」


 実はレーナはザシュススの事を良く知らない。

 ザシュススはエリオスの神々との戦いに参加することなく、ナルゴルに封印されてしまったからである。

 一部の彼の眷属が崇めるだけで、世界から忘れられていたと言っても良い。

 それが急に現れて新たなる冥王を名乗っているのだから、レーナも驚いているのである。

 

「あの……。そろそろ要件を仰っていただけないでしょうか? 私達を呼んだ理由があるのですよね」


 カヤが冷たい声でレーナに聞く。

 チユキもそれが気になっていた。

 だけど、大体の理由はわかる。


「エリオスの軍勢が敗れたので……。貴方達に助けて欲しいのよ」


 レーナは小さい声で言う。

 

「……だと思ったわ」


 チユキは溜息を吐く。

 久しぶりのレーナのお願いであった。


「ああ、わかった。俺が何とかしてやるよ」


 案の定レイジが安請け合いをする。


「ちょっとレイジ君。そんな簡単に安請け合いをしないでよ。相手はかなり強いのよ」


 チユキはレイジを止める。

 相手はザルキシスを倒し、エリオスの軍勢を退けた程の強者である。

 そんな奴を相手に安請け合いをしてはいけないだろう。


「でも、チユキさん。瘴気をどうにかしないと小鳥さん達が困っているよ……。助けてあげないと」


 リノがチユキの袖を引っ張って言う。

 リノは精霊や動物の声を聞くことができる。

 瘴気はほとんどの生物にとって毒である。

 それが広がればまず死ぬのは小動物達だろう。

 ここに来るまでの間に鳥の声を聞いていたリノは放っておけないようだ。


「そういう事だ。チユキ。だけどチユキの言うとおり危険だ。だから今回は俺だけで行こうと思う」


 レイジがそう言うと他の仲間達は驚く顔をする。

 

「ちょっとレイジ君! それ危険だよ! 私も行くよ!」


 すかさず、シロネがレイジを止める。


「そうっすよ! 危険っすよ!!」

「そうだよ! ダメだよ!! サホコさんが心配するよ!」


 もちろんナオもリノも止める。


「いや、待ってくれみんな。ロクスの事を思い出してくれ、あの結界の中で窮地に陥った事を。奴の息子も同じ事が出来るかもしれない。中に全員で入ったら全滅する可能性が高い。だから、みんなは外から支援してくれ」


 レイジはそう言って笑う。

 それを聞いてチユキは何も言えなくなる。

 ロクスでの出来事は今でもトラウマであった。

 何も出来ず、もう少しで死ぬところだったのだ。

 あの中である程度戦えたのはレイジだけである。

 チユキ達が付いて行っても足手纏いになる可能性もある。

 だとしたら、全員で行くよりもいざという時に外から救援する方が良いかもしれなかった。

 

「ありがとうレイジ。でも、貴方だけでは危険よ……。はあ、どうしようかしら?」


 レーナも心配そうな顔をする。


「危険なのはわかっている。危ない時はすぐに撤退する。だから、大丈夫だ」


 こうしてレイジもまたワルキアへと向かう事になるのであった。

 





 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 鳥山明先生が亡くなられてショックです……。

 ドラクエのキャラはかなり好きでした。

 ちなみに自分はドラクエではアニメですがアベル伝説が好きだったりします。

 特に敵側の設定がすきです。 

 敵は清い水を苦手として、死せる水で汚染させる。

 暗黒騎士物語のアンデッドの瘴気の設定も近いところがあります。

 死の眷属とそれ以外の種族は相いれない関係。

 争うしかなかったりします。


 誤字脱字や文章でおかしい所があったら指摘してくれると嬉しいです。

 もうすぐ、カクヨムネクストが始動します。

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