第15章 新たなる冥王

第1章 死の翼

 ワルキアの地は常に暗き雲に覆われた場所である。

 雲は瘴気を含み、汚れた風がワルキアに吹く。

 そんなワルキアの中心にその都市はあった。


 幽幻の死都モードガル。


 死神ザルキシスが本拠地とする場所である。

 そのモードガルの中心にある死の玉座にてザルキシスは悩んでいた。


「御父様……。ザシュスス兄上が戻って来たようです」


 ザファラーダがそう報告する。

 その報告にザルキシスはさらに憂鬱になる。

 ザシュススは大母神ナルゴルの不興を買って封印されたザルキシスの息子である。

 最初の子であり、強く全盛期のザルキシスに匹敵する力があった。

 だが、欲望も強く。

 ザシュススはナルゴルが所有する天命の石板を奪い取ろうとして、不興を買う事になった。

 その結果従う者も含めて南大陸の中心の山中に封印されてしまったのである。 

 しかし、その息子が最近になって復活した。

 誰が復活をさせたか。

 それがわからぬザルキシスではない。


(ディアドナめ……。やってくれたな)


 ザルキシスは遥か遠くにいる蛇の女王を思い浮かべる。

 ザシュススを復活させたのはディアドナである。

 復活したザシュススがザルキシスと争う事を見越しての事だろう。

 ザシュススを封印する行為にはザルキシスも関わった。

 要するにザシュススは実の父親に見捨てられたのだ。

 当然ザシュススはザルキシスに思う事があるだろう。

 そう思ってディアドナはザシュススを復活させたのだ。


「戻ったぜい。親父殿よう」


 死の玉座の間に誰かが入ってくる。

 人型の姿に四つの翼に三つ目、獅子の牙を生やした男。


 死の翼ザシュスス。


 ザルキシスが拠点とする北方とは別に南方の地に拠点を持つ熱病を司る死の神である。

 ザルキシスが北を拠点にしていたのに対し、ザシュススは南を別に拠点にし別に勢力を広げ、第二の冥王と呼ばれていた。

 そのザシュススはザルキシスに不敵な笑みを浮かべる。


「戻ったか……。奴らはどうした?」


 ザルキシスは険しい顔をしてザシュススを見る。


「ふん、あのような奴ら敵ではない。弱かった。何であんな奴らがでかい顔をしているかわからねえな」


 ザシュススは笑って言う。

 

「そうか、弱かったか……。以前よりも力が強くなったな。ザシュスス」


 ザルキシスはザシュススを見る。

 ザシュススは前よりも強くなっている。

 ザシュススは封印される前は死の御子で最強であった。

 だが、最強であってもモデスやフェリオンはもちろん全盛期のザルキシス自身よりも弱かった。

 それが今のザルキシスを超える力を持って復活したのである。  

 その理由は何となく察する。

 ザシュススはディアドナが持つ混沌の霊杯により力を得たようである。

 混沌の霊杯から出る封印されし混沌の海を飲めば強大な力を得られる。

 しかし、それには副作用があるようであり、場合によっては力を持つ者を破滅させるだろう。

 破滅するのがザシュススだけなら良いが、ザルキシスをも巻き込む可能性もある。

 それがザルキシスが恐れる事であった。

 

「そうだろうよ。今の俺は親父殿よりも強ええ。後の事は俺に任せてくれよ。俺が親父殿の望む世界を作ってやる。だから、このモードガルをよこしな。そうすりゃ、消さねえでいてやるよ」


 ザシュススは獰猛な笑みを浮かべて言う。

 その目は本気のようであった。

 

(くっ……。さて、どうするか? ここで拒否すればザシュススは実力行使にでるだろう。負けるつもりはないが、こちらもただではすまぬな……。うん? 待てよ?)


 ザルキシスは少し悩んだが妙案を思いつく。


「なるほどな。良いだろう。ザシュススよ。お前に全ての力を与えてやろう。このザルキシスの後を継ぎ、冥王となるが良い。ククク」


 ザルキシスがそう言った瞬間だった側にいたラーサやザファラーダ等が信じられないという顔をする。

 だが、別に狂ったというわけではない。

 ザルキシスにはある妙案を思いついたのだ。

 ザルキシスの言葉にザシュススすらも驚いている様子がわかる。


「それは本当か? 親父殿?」


 ザシュススは信じられないという顔をして言う。

 それもそうだろうザルキシスとザシュススの関係は決して良くない。

 疑問に思うのは当然だ。

 


「もちろんだ。ザシュススよ。新たな冥王となり、世界を死であふれさせてみよ」


 そう言ってザルキシスは笑う。


(ディアドナめ! 何もかもが思い通りにいくとおもうな!)


 ザルキシスは笑う。

 幽幻の死都モードガルに死神の笑い声が木霊するのであった。



ザシュススに玉座を譲った後、ザルキシスはラーサとザファラーダと共に別の部屋に行く。


「どういう事じゃ? 御前様よ? ザシュススめに全ての力を与えるとはな……」


 部屋に入った瞬間ラーサが咎めるように言う。

 万死の女王ラーサ。

 ザルキシスの妻であり、多くの死の御子を生んだ死の女神である。

 ラーサはザルキシスが突然引退を宣言した事を納得していない。

 納得していないのはラーサだけではない。同じ部屋にいるザファラーダも同じである

 ザファラーダもまた疑問に思っているようだ。


「ふふ、それはなあ、少し側によれ。これはこういう理由だ……」


 ザルキシスはラーサとザファラーダに近くによるように言う。

 

「なるほど、そういう事か……。まあ、ディアドナめの策略を躱すにはそれしかないかのう……。ザシュススの奴と争うよりはましかもしれぬな」


 ラーサは納得して頷く。


「御父様の考えはわかりました。しかし、私達はどうしたら良いのでしょう? このままザシュスス兄上に従った方が良いのでしょうか?」


 ザファラーダは困った顔をして言う。

 ザシュススが復活する前はザファラーダが死の御子筆頭であった。

 だが、ザルキシスに匹敵するザシュススが復活したので彼女は2番目とならざるを得ない。

 他の兄弟もどうしたら良いかわからないだろう。


「あの者達らはそれぞれの判断に任せる。消えたくなければ上手くやるのだな。だが、ザファラーダよ。お前にはやってもらいたい事がある」


 ザルキシスは冷たく言う。

 能力のない者は消えても仕方がないと思っている。

 それは我が子であっても同じ事であった。


「やってもらいたい事ですか?」

「お前には西大陸に行ってもらう。そこである事をしてもらいたい。それはな……」


 ザルキシスはそう言ってザファラーダに小声で言う


「まさか、そのような事を……。御父様、あまり気が進みません」


 ザファラーダは首を振る。


「やるのだ、あの陰湿な女を痛い目に合わせるのはそれしかない。やれ、ザファラーダ。これは命令だ」


 ザルキシスは語気を強めて言う。


「わかりました。御父様……。ですが、上手くいくとは……」


 ザファラーダは気が乗らなさそうに言う。

 その気持ちはザルキシスもわかる。

 このような事がなければザルキシスもやらなかっただろう。

 下手をすれば世界の半分が崩壊するかもしれない。


(だが、ザシュススの事もそうだが、それを黙って見ているわけではなかろう。エリオスの者共よ)


 ザルキシスは心の中で笑う。

 ザシュススはこれから新たな冥王として行動するつもりのようだ。

 それを防ぐためにエリオスの者達は動くだろう。

 できれば共倒れになってもらいたいと思うザルキシスであった。

 

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 先週は休んで申し訳ないです。色々とやらなければいけない事があり大変でした。

 確定申告は終わりましたが、終わってないのもいくつか……。

 


 さて、15章を始めましょう。

 14章のほぼ続きですね。

 プロローグです。

 死の翼ザシュスス登場。

 元ネタの神は多分わかりやすいですね。

 ちなみにこの回は14章の最後のちょっと前の話になります。

 

 コメントはすぐにではないですが全て読んでいます。

 あまり返信できなくてごめんなさい。

 またギフトを下さった方。本当にありがとうございます。


 

 

 

 

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