第13話 行き先は?

「ええと、どうしようか……」


 コウキは途方にくれる。 

 隊長や巫女達がいるであろう場所に戻ったら、誰もいなかったのだ。

 どうやらコウキは置いて行かれたようであった。

 理由はわからない。

 緊急事態があり、出発したのかもしれない。

 だけど、コウキだけを置いて行ったのはどういう事だろうかと思う。

 他の方面を警戒していた従騎士もいない。

 コウキだけが置いて行かれたのだ。


「追うべきだよな……、だけどどこに行ったのだろう。」


 コウキは悩む。

 追うべきなのは確かだが、隊長達がどこに向かったのかわからないのだ。

 先に行ったのか?

 それとも、来た道を戻ったのか?

 追跡の魔法が使えれば簡単にわかるだろう。

 しかし、コウキはその魔法が使えない。

 来た道を戻れば半日ほどでサレリアに戻れるだろう。

 コウキは足に自信があるのですぐに戻れる。

 だが、隊長達が戻ったとは思えなかった。

 使命感強い白鳥の騎士ならば先に進むだろう。


「仕方がない。先に向かうか……。とにかく、走ろう」


 コウキは隊長達を追って先に進むのだった。




(すまない……。コウキ……)


 ネッケスは心の中でコウキに謝る。

 ネッケスはコウキを助けるよう求めたが、隊長であるヒュロスの決断は冷徹であった。

 たかが従騎士ために戦力を割くわけにはいかないと。

 また、倒れた巫女のためにも早急に移動する事にしたのだ。

 コウキを除く従騎士達を呼び戻し、その場を後にして移動を開始した。

 ネッケスとしては自分だけでも戻りたかった。

 しかし、従騎士でもあっても騎士団の一員である。命令に背く事はできない。

 ただ、心の中で謝るだけだ。

 また、隊長の命令は間違っているとはいえない判断であった。

 従騎士の命1つで狼人を足止め出来るのなら問題はなく、巫女の命の方が大切なのだ。

 結果、コウキを見殺しにしてしまったのである。

 ネッケスを乗せた馬車はそのまま進む。

 そんな時だった。

 馬車が急に止まる。

 

「どうしたんだ?」


 一緒に乗っているデイブスが怪訝な声を出す。


「街道の様子がおかしい……。明らかに変だ」


 御者のノッポスが言う。

 ネッケスは窓から外を見る。

 霧が立ち込めていて、外が良く見えない。

 先程まで晴天だったはずだ、霧が立ち込めるはずがない。

 外にいる騎士達が動揺しているのがわかる。


「うろたえるな! 街道を進めば問題はない! このまま進むぞ!!」


 隊長のヒュロスが号令を出す。

 街道は国と国を繋いでいる。

 だから、街道を真っすぐ進めばどこかの国に辿り着くはずであった。

 そのため騎士達はそのまま進む。

 しかし、ネッケスも含め全員が不安を感じるのであった。





 「まさか、かの有名なダハーク様にお会いできるとは光栄でございます」


 3の首と呼ばれる仮面を付けた男がダハークに頭を下げる。

 香水でごまかしているが、ほのかに瘴気を体から発しているのがわかる。

 アンデッド、そして吸血鬼ヴァンパイアだろう。

 鮮血姫ザファラーダの眷属であり、何度も見た事がある相手だ。

 大して興味も惹かれない。

 吸血鬼は大袈裟な美辞麗句を述べている。


「そうか、ご苦労……、下がって良いぞ」


 うんざりするほど中身のない話が終わり、ダハークは面倒臭そうに言う。


「それでは何か御用がありましたらお呼びください」


 3の首はうやうやしく礼をすると下がる。

 もう、会うのはこれで終わりにしたかった。


「おい、こんなくだらない奴と話をするために来たのではないぞ。凶獣の子はどうなっている」


 ダハークは苛立ちながら1の首を呼ぶ。


「はい、手の者がこちらに来るように誘導しております」


 1の首は頭を下げて言う。

 ダハークは相変わらず、蛇を信仰する女王が治める国にいる。

 人間の国の中では小さいらしいが、王城はそれなりに広く、ダハークのいる謁見の間には数人は入れるだろう。

 ここで凶獣の子に会う予定である。

 それまでは暇であった。

 半裸の人間の女共が寄り添って来る。

 下半身に鱗がなく2つに別れた女の達はかなりの美女なのだろう。

 しかし、ダハークが興味を持つことはない。


「そうか、ではアルフォスの子はどうなっている」

「はい、それもこちらに来るように誘導しております。いずれこの地に来るでしょう」


 1の首は続けて言う。

 アルフォスの子にもここに来るように工作を仕掛けている。

 ダハークとしては過去にアルフォスと因縁があるので、凶獣の子よりも興味がある。

 実はダハークは凶獣の事をあまり知らない。

 とても強いと聞いているだけだ。

 しかし、封じられその眷属も力をなくしている現在、凶獣の子と聞いても何が凄いのか理解できないのだ。

 そんな時だった。

 ダハークのいる謁見の間の外から緊急を知らせる声が聞こえる。


「何事です? 入りなさい」


 1の首が言うと男が1人入ってくる。


「申し上げます2の首殿が参られました」

「2の首殿が? おかしいわね。結構遠いところにいたはずだから、来るのはもっと遅くなると思ったのだけど」


 入って来た男がそう言うと1の首は驚いた顔をする。


「2の首? 何者だ? そいつは?」

「は、はい。魔術師でございます。王子様。非常に役立つ魔法を使え我らの助けになっております」

「そうか……」


 ダハークは興味なさそうに言う。

 所詮下等な人間の魔術師である。

 魔力の弱い人間風情の魔術などに期待が出来る訳がない。 


「あの……。お通ししてもよろしいでしょうか?」


 1の首がおそるおそる聞く。

 ダハークが飽いている事に気付いているのだろう。

 仮面で表情はわからないが、少し怯えているようだ。


「ふん、構わん通せ」


 ダハークがそう言うと魔術師が謁見の間に入って来る。

 1人ではない後ろにはもう1人いる。

 そして、その者を見た瞬間、ダハークは立ち上がり槍を取る。


「あ、暗黒騎士だと!? なぜここに!?」


 ダハークは槍を向ける。

 魔術師の後ろにいるのはかつて出会った暗黒騎士であった。

 

「お待ち下さい! ここにいるのは本物の暗黒騎士ではありません! 夢で作られた偽物でございます!」


 ダハークが暗黒騎士に攻撃しようとするのを1の首が止める。


「夢だと……? どういう事だ?」


 ダハークは暗黒騎士を見る。

 夢の生物の事はダハークも少しは聞いた事がある。

 竜王等の強大な力を持つ者が眠っている時、その夢が具現化するというものだ。

 ただ夢の主よりも遥かに弱い生き物しか作る事ができない。

 人間のような下等な生物ではそもそも具現化させる事すらできないだろう。

 しかし、暗黒騎士から強烈な威圧感を感じる。

 とても偽物には思えない。

 

「そうですよね。2の首殿……。2の首殿?」


 1の首が2の首に呼びかけるが何も答えない。

 2の首もまた仮面を付けているので表情はわからない。

 だが、様子からまるで半分眠っているような感じがする。


「ええと、主様はここまで魔法で急いで来たので疲れているのです。代わりに自分が答えます」

 

 代わりに答えたのは暗黒騎士だ。


「そ、そうか……。ではお前は夢の存在なのだな……」

「はい、そうですよ。蛇の王子様。自分はか弱き夢の存在です。それにしても偉大なる蛇の王子様とお会いできるとは光栄だな~」


 暗黒騎士はわざとらしく言う。

 先程の3の首の美辞麗句比べると全く洗練されていない。

 槍を持つ手に力が入る。

 どうしても警戒を解く事ができない。


「夢の暗黒騎士よ。王子がお前を警戒なされている。何かするのだ」


 1の首が暗黒騎士に命じる。


「ええと、何かしろと言われても……。とりあえず踊りましょうか……。あんこつら~みよ~めは~」


 暗黒騎士が歌いながら踊りはじめる。

 とんでもなく下手だった。

 側の女達も顔をしかめている。


「ええい、下手くそが! もういい!! 下がれ!」


 ダハークは暗黒騎士に下がるように命じる。


「ええ、下手ですか……。すみません……。主殿下がりましょう」


 下手糞と言われて傷ついたのか暗黒騎士が魔術師とともに下がる。

 背を向けているのに隙がない。

 暗黒騎士が見えなくなるとダハークは槍を傍らに置き、大きく息を吐くのだった。







 



★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。

実はクロキは歌が下手な設定だったりします。

でも本人は歌が好き、でも下手なのを自覚しているので滅多に人前で歌う事はしません。

また、最後にテリオン達の事を書く予定でしたが、その気力がわいてきませんでした。

もっと筆を早くしないといけないと思う次第です……(>_<)。


最後にAIイラストですが、次は誰を作ろうかと迷っています。

出来ているキャラで公開していないのは、レイジ、サホコ、リノ、ナオ、キョウカ、ナオ、イシュティア、アルフォス、リジェナです。

本当に迷います。

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