第12話 夢か現実か
「ここが夢の暗黒騎士を作った魔術師の施設か……。まさかこんな所にあるなんて……」
クロキは驚きを隠せない。
ここは聖レナリア共和国の近くにある巨人の遺跡だ。
かつて危険な魔物が住み着いていたがレイジ達によって倒された。
その後騎士団と聖レナリア共和国の魔術師協会が共同で管理する場所となった場所である。
件の魔術師は遺跡のある部屋を隠し、そこを拠点にしていたのだ。
主に魔術師協会が管理していたことから考えても、魔術師は協会に協力者がいたようだ。
そうでなければこうも上手くいかないだろう。
またクロキは彼と契約を結んだ
魔道博士ウェストル
ウェストルはデイモン族出身で魔宰相ルーガスの弟子、そしてデイモンロードであるウルバルドの副官である。
優秀な魔術の研究者だが、その性格には難がある。
研究のためならどんな事でもするところがあり、問題を度々起こしている。
それでも処罰されないのは優秀であり功績もあるからだ。
ここで行われている魔術の研究もウェストルの助言があってのものらしかった。
クロキは研究施設を歩く。
防御や警報の魔法がかけられていたが、クーナの蝶のおかげで気付かれずに入る事が出来た。
魔術師の事を聞いたが、あまり良い研究とは思えない。
止めるべきか悩む所であった。
「今ここには誰もいないみたいだな。クロキ、どうするのだ? 」
となりを歩くクーナがクロキに聞く。
施設に入ったのは良いが誰もいない。
魔術師は留守にしているようだ。
「そうだね。どうしようか? 待つのも良いのだけどね。その前にこの施設をくまなく見てみようか?」
クロキは施設のある部分を見る。
棺のようなものの中に多くの人が眠らされている。
おそらく攫われた人々だろう。
夢の生物を作るために多くの人の精神を利用しているのだ。
クロキとしては良い事には思えない。
ましてや暗黒騎士の紛い物を作るのはもっての他だ。
クロキとクーナは施設の中を歩く。
入り口に警報等があっただけで、中に警備用の何かはないようだ。
だから、一度入ってしまえば好きに歩ける。
不用心だと思うが、この施設を作った時期を考えると、そこまで用意は出来なかったようである。
「うん、これは……。暗黒騎士」
クロキは施設の奥、そこで暗黒騎士の鎧を着ている者が立っているのを発見する。
目の前にいても反応しない。
眠っているような感じである。
「これは夢の暗黒騎士だな。もう一体あったようだぞ」
クーナが暗黒騎士を見て言う。
クーナの言う通り、真に生きた存在には感じられない。
「そのようだね。可哀想だけど夢は覚めなけばいけないんだ……。君には消えてもらうよ」
クロキは魔剣を呼び出すと夢の暗黒騎士を斬る。
斬られた暗黒騎士はそのまま消えてしまう。
夢の暗黒騎士は夢ではあるが意思がある。
しかし、それでも紛い物の暗黒騎士を放置するつもりはない。
また、彼が生きている限り、この施設に眠っている者達の精神を消耗させてやがては殺してしまうだろう。
夢見る者が死ねば夢も消える。
結局消滅してしまうのが夢の存在であり、儚い存在なのだ。
こういった命を無駄に使う行為をクロキは好まない。
だからこそ夢の暗黒騎士は消さねばならない存在である。
「さて、ここで眠っている者達をどうするかな……。ここの魔術師に帰させるのが一番だけど。ねえクーナ? 彼はどこにいるかわかる?」
クロキは魔術師の居場所を聞く。
「ここから少し離れた場所にいるぞ。何者かと話をしているようだ」
「何者かと? 誰かな? 何の話をしているのかな?」
「ふむ、ちょっと待ってくれ、クロキ」
クーナは集中して虫を操る。
魔術師が何の話をしているのか聞き取ろうとしているのだ。
「ふむ、どうやら話をしている相手は蛇の信徒だな。どうやら蛇の信徒の主に夢の暗黒騎士を連れて行くようだぞ」
クーナが説明するとクロキは驚く。
「蛇の信徒? それに蛇の信徒の主に夢の暗黒騎士を連れて行くだって?」
クロキは先程消した夢の暗黒騎士がいた場所を見る。
当然夢の暗黒騎士はもはやいない。
「まずいな夢の暗黒騎士はもういないし……。うん、そうだ」
クロキはある事を思いつく。
「どうしたのだ。クロキ?」
「ねえ、クーナ。自分が夢の暗黒騎士の代わりにならないかな?」
クロキはとんでもない事を口にする。
夢と現実が入れ替わった瞬間だった。
◆
(う~む、どうすれば良いのだ)
2の首は悩む。
先程1の首の使者から夢の暗黒騎士を連れてくるように言われたのだ。
何でも彼らの上位者に見せたいようだ。
彼らは2の首がいかに優秀な魔術師である事を上位者に伝えたいらしい。
彼らにとって上位者に会える事は喜ばしい事で、2の首にもその栄誉を与えようとしているようだ。
もっとも2の首にとっては良くない事である。
蛇が崇める存在がどのような者かある程度想像がつく。
間違いなく人を超えた存在だろう。
もしかすると邪神かもしれない。
邪神は大きな力を授けてくれるが、下手に付き合うと身を滅ぼしてしまう事になるだろう。
かつて交流があった魔術師協会の副会長タラボスの事を思い出す。
死の神と契約をした彼は悲惨な死を迎えたらしい。
大きな力を持つ者には気を付けるべきであった。
(人を超えた存在に間違いはないだろう。会うのは危険……、会わぬのも危険……。どうすべきか……)
2の首は頭を悩ませながら自身の魔術の研究所へと入る。
2の首は魔術師協会の上層部に協力者がいる。
その者の協力でこの場に施設を作る事が出来た。
だが、危険ならば逃げなければならないだろう。
自身と契約を結んでいるデイモンに相談しても良い。
しかし、契約を結んだデイモンは魔術に関する事には詳しいが、このような危機を脱する方法は教えてくれないだろう。
1の首の使者は外で待っているのでここにはいないが、逃げ出してもすぐに見つかるだろう。
2の首は悩みながら夢の暗黒騎士の元へと向かう。
「うん? 何だ? 蝶? 光る蝶が飛んでいる? どういう事だ? 何かおかしい……」
歩いている時だった2の首は研究所の様子がおかしい事に気付く。
目の前に青白く光る蝶が飛んだのだ。
また、誰かが入った形跡がある。
この研究所には警報の魔法があり、誰かが侵入すれば2の首に伝わるはずであった。
それが全くない。侵入者は只者ではない。
2の首は危険を感じる。
「1人とはちょうど良いぞ。ふん、では言う事を聞いてもらおうか」
突然後ろから声がする。
2の首が振り向くとそこには銀色の髪をしたとんでもない美少女が立っている。
美少女の金色の目が光る。
(ぐっ、これは……。精神魔法……? まずい)
2の首は美少女が何をしようとしているのか気付く。
しかし、隙を突かれた上に相手の魔力があまりにも強い。
抵抗する事が出来ず2の首は意思が朦朧となる。
「かかったぞ、クロキ。こいつに蛇共のところに案内させるぞ」
美少女の後ろに漆黒の鎧を着た者が立っている。
(暗黒騎士……。夢ではない……。どうして……)
そんな事を考えながら2の首は意識を失うのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
夢の暗黒騎士が出て来た時点で入れ替わるだろうと予測出来た方はいませんでした('ω')ノ
予測された方がいなかったのはモードガルが人型になった時以来久々です。
ちょっと勝った気分。
誰と勝負しているのでしょうね……。
魔道博士ウェストルはデイモン王ウルバルドの副官だったりします。
実は設定でランフェルド達にはそれぞれ副官がいる事になっています。
ただ、出す機会が全くありませんでした。
白衣片眼鏡のマッドサイエンティストみたいなキャラなので、どこかで登場させたいと思っています。
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