第11話 獣神子との戦い

 ヒュロスの目の前で巫女は水晶玉を空に掲げる。

 星の霊力を感じ過去を視る。

 それが過去視の魔法だ。

 星の霊力を得た水晶玉は輝き始める。

 巫女は水晶玉を降ろし、覗きこむ。

 少し離れたところにいるヒュロスには見えないが、巫女の目には見えているだろう。

 ヒュロス達は静かに巫女の行為を見守る。

 

「うう……。ゴブリンの影……。それにこれは昨夜の暗黒騎士……? どうして、昨夜の暗黒騎士が見えるの……、うう……」


 しばらくすると巫女は呻くように言うと倒れこむ。


「巫女様!」

「危ない!」


 ギルフォスとルクレツィアが巫女に駆け寄る。

 間一髪地面にぶつかる前にギルフォスは巫女を支える。

 慌ててヒュロス達も巫女に駆け寄る。


「大丈夫ですか!? 巫女様!?」


 ルクレツィアは巫女に呼びかける。

 しかし、巫女は何も答えない。

 見ると巫女の目から血が流れている。


「力を使いすぎたようです。早く巫女様を休ませないと」


 御付きの侍女であるモブーナがそう言う。

 過去を遡って見る程に魔力を使う。

 どんなに腕の良い占星術師でも1ヵ月前が限界らしい。

 事件が起きてからかなり時間が経過しているので見るのにかなりの無理をしたようであった。

 今は休ませるのが先決である。


「騎士ギルフォスよ。急ぎ巫女様を馬車へ!」


 ヒュロスはギルフォスに命じる。


「はい。隊長殿」


 ギルフォスは巫女を抱えると馬車へと運ぶ。


「これでしばらくは無理だな……。しかし、昨夜の暗黒騎士と言っていたな。どういう事だ」


 ヒュロスは呟く。

 ヒュロスは暗黒騎士が支部を襲った時に現場にいなかった。

 しかし、報告は受けている。

 その昨夜の暗黒騎士が見えたと巫女は呟いていた。

 気になる言葉であった。


「わかりませんね……。巫女様が目覚めるのを待つしか……」


 フリョンがそう言った時だった。


「ホプロン様! 大変! 大変です!!」


 大声で誰かが駆け寄ってくる。

 従騎士ネッケスである。


「どうした!? ネッケス!? 何があった!?」


 ホプロンはネッケスに聞く。


「し、襲撃です! 魔物が襲って来ました!!」

「「「何だと!?」」」


 ネッケスは叫ぶように言うと騎士達が驚く。


「い、今! コウキが食い止めています! は、早く助けにいかないと!!」


 さらにネッケスは慌てたように言う。

 ヒュロス達は顔を見合わせる。


「隊長殿! 急ぎ救援に!」


 ホプロンが言うとヒュロスは首を振る。


「ダメだ! ホプロン卿! これは陽動の可能性がある!! 一番に守るべきは姫様だ! ここは動くな!」


 ヒュロスはホプロンを止める。

 当然の判断だった。

 従騎士1人のために巫女を危険にさらす事はできない。

 そもそも、従騎士1人で食い止められる戦力なのがおかしい。

 別に襲撃する魔物がいるかもしれなかった。


「そ、そんな……。それじゃあコウキが……」


 ネッケスが絶望的な目でヒュロスを見る。

 そんなネッケスの目をヒュロスは無視する。


「各々、警戒を怠るな! 魔物が来るかもしれん!」


 ヒュロスは騎士達に命令を出すのであった。






「おらあ!! 行くぞ!!」


 狼人から若様と呼ばれていた少年が大剣を振るう。

 

「くっ!!」


 コウキはその大剣を剣で受け流す。

 すごい力である。

 少年が大剣を振るうたびに風圧が草木をしならせ、大地を削る。

 正面から受けていたらそのまま押し斬られていただろう。

 コウキは何度か大人と剣を交えた事がある。

 その中でこれほどの力を持った者はいなかった。

 そもそも、かなり重そうな大剣を軽々と振っている時点で少年の力がかなりのものだとわかるだろう。

 同じぐらいの背丈なのに力は圧倒的に上であった。

 それでもコウキが戦えているのは日頃の鍛錬の成果である。

 

(クロキ先生の動き……。受けるのではなく、受け流す。軸をしっかりと見定めるんだ)


 コウキはクロキから習った事を何度も練習し、ある程度再現できるようになっていた。

 その動きを駆使して少年の大剣受け流す。

 少年の大剣はコウキに当たる事なく、周囲の大地を削るばかりだ。

 

「やるじゃねえか! 何者だ! お前!」


 少年は一歩下がると吠える。

 少年の口から牙が見える。

 その牙は人のものではない。

 わかっていた事だが、人間ではないのだろう。

 おそらくは狼人の一種なのだろう。


「ええと、何者と言われても……」


 コウキは答えに困る。

 何者と聞かれてもコウキは自身を特別な何かだと思っていない。

 だから、何も答えられない。


「ふん、答えねえのかよ! この我が父の牙から作った剣を受けるその剣も普通じゃねえ! 名乗りな!」


 少年は大剣をコウキに向ける。

 父の牙から作られた剣と言われても、それで何がすごいのかわからない。

 そもそも、この少年の父親の事を知らないのだから。


「自分の名はコウキ……。何者と言われても特に何でもない者だよ」


 コウキは答える。


「そうか、俺の名はテリオン! 全力で行くぞ! 出てこい! 雪狼スノーウルフ!」


 テリオンがそう言うとその体から冷気が発せられると周囲から冷気を纏った狼が出てくる。

 氷の下位精霊雪狼スノーウルフである。

 精霊を呼び出す力があるようだ。

 

雪狼スノーウルフよ! 我が剣に宿れ!」


 雪狼スノーウルフ!がテリオンの剣に纏わり付く。

 大剣か青白く輝く。


「さあ、お前も本気を出せ! 何で自分を縛っているのかわからねえけどな!」


 テリオンはそう言って冷気を帯びた大剣をコウキに向ける。


「えっと、自分を縛る……。何の事……?」


 コウキはテリオンの言っている事がわからない。

 だが先程までのテリオンは本気でなかったはわかる。

 そして、そこからさらに全力を出そうとしている。


(何だろう……。ヤバい気がする。このままだと負ける) 


 コウキは焦る。

 頼みはネッケスが救援を連れて来てくれる事だ。

 ギルフォスと共に戦えばこのテリオンとか名乗る少年に勝てるかもしれない。

 それまで、持ちこたえなければならない。

 そんな時だった。

 コウキは遠くから凶悪な視線を感じる。

 その視線を感じた時、背筋が冷たくなる。

 テリオンも感じたのか視線を感じた方を見る。


「何だ? この視線は……? これは蛇? ちっ! やめた……。お前達下がるぞ!」


 テリオンは剣を背中に担ぐと来た道を戻る。

 狼人達もそれに続く。

 倒れていた仲間も当然連れて行く。

 コウキはただ1人その場に残される。


「助かったのか……」


 狼達は去りコウキは地面に膝を付くのだった。




「何だ? あれは!? アルフォスの子とやらと戦わせるのではなかったのか!?」


 魔法の映像でテリオンを見ていたダハークは激昂する。

 事前にアルフォスの息子の事を聞いていた。

 そのアルフォスの息子と戦わせる予定が、誰かわからない何者かに手間取っている。

 魔法の映像ではその者の事が良くわからない。

 しかし、アルフォスの子ではないらしいのでどうでも良い奴に違いない。

 神の子が他にいるとも考えにくい。

 そのためダハークはそんな者を簡単に倒せないテリオンにイライラするのである。

 そのため、つい魔眼を使ってしまった。

 ダハークの魔眼は映像越しでも影響がある。

 魔眼に気付いたテリオンは撤退したようであった。


「申し訳ございません!」


 側にいた者が頭を下げる。


「あの狼の子を連れてこい! 俺が直接見定めてやる!」


 ダハークは吠える。

 蛇の王子は怒りに震えるのだった。



 コウキ達からかなり離れた場所。

 そこにクロキはいる。

 コウキ達に近づきたいが、コウキ達を監視している者達が多く近づけない。

 倒すのは簡単だが、下手に倒せばクロキ達の存在に気付かれるだろう。


「色々と……。変なのが湧いているなあ。これじゃあコウキに近づけないよ」


 クロキは呟く。

 監視しているのは蛇の信徒。

 なぜ蛇の信徒がコウキ達を監視しているか不思議であった。

 コウキの素性に気付いたのかもしれず。

 クロキはコウキ達から離れる事が出来なかったのである。

 そんな時だった。

 光る蝶が突然現れクーナが戻って来る。

 

「クロキ。どうやらあの夢の暗黒騎士を作った奴の事がわかったぞ。やはり、デイモンと契約をしていたようだ」


 戻って来たクーナが報告する。

 あの暗黒騎士を夢の存在だと仮定して、生み出した者がいるはずであった。

 おそらくは魔術師だろうと予測し、誰か契約をしている者がいないかナルゴルのデイモン達に照会したのだ。

 その結果を聞きにクーナは少し離れていたのである。 


「やっぱりか……。だとしたら、その者の居場所もわかるよね、訪ねてみようか。もしかすると蛇の動きもわかるかもしれないからね」


 デイモンと契約した魔術師は何らかの精神的なつながりを持つ、だから契約したデイモンならその者の居場所もわかるはずであった。


「ああ、わかったぞ、クロキ。案内するぞ」


 そう言ってクーナは笑う。

 こうしてクロキとクーナは夢の暗黒騎士を作った者の所へと向かうのだった。

 

 

 

 


 


 



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 金曜の夜から喉が痛くてつらいです。

 病院行ってないけど某疫病だったらどうしよう?

 月曜の朝に病院行きます。

 とりあえず今日はもう寝ますね……。

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