第17話 流水剣舞

「海神の姫。もちろん邪魔をするつもりはない。俺達の用はただ一つだ。俺達も同行させてもらう。無理やりにでもだ」


 そう言ってレイジは笑うと剣を向ける。

 もちろん剣を向けた先はクロキである。


「どういうつもりだ? 邪魔をするつもりがないのなら剣を向ける必要はないはずだ」


 クロキがそう言ってレイジを睨む。


「いや、あのフェーギルとかいう奴が現れた時、お前の動きは鈍かった。水の中で戦えば遅れを取るかもしれない。違うか?」

「……」


 レイジが首を振ってそう言うとクロキは何も答えない。

 いや、答えられない。

 レイジの言った事は図星だからだ。

 クロキは海の中での戦いになれていない。

 フェーギルが襲ってきた時にトルキッソスがいなければトヨティマを守る事ができなかっただろう。


「海神の姫よ。海の王子を助けるために動いている事は感謝する。だけど、そんな貴方を危険な目に合わせるわけにはいかない。クロキだけでは不安だ。だから、俺達も手伝わせて欲しい」


 レイジは剣を下すとトヨティマに頭を下げる。


「え、えーと。でもなあ……」


 トヨティマは言葉を詰まらせる。

 何と答えて良いかわからないみたいだ。

 そして、その視線がポレンを向かう。


「むうー、トヨちゃん。いくら勇者が美男だからって、もう……」


 ポレンが冷たい目でトヨティマを見る。


「いやな、そうは言ってもポレの字。めっちゃ強くて良い男がうちに頭を下げとるんよ。くらっと来てもしゃあないやろが。ポレの字も少しはわかるやろ、うちらと同格の良い男が側におらんもんの気持ちは……」


 トヨティマはポレンに慌てて言い訳する。


「うーん。確かに少し前なら、その気持ちは良くわかるけど……。でも、ちょっと聞き捨てならないよ。先生が頼りにならないはずがないよね。そこは訂正して!」


 ポレンはレイジを指さす。


「ええと、何と言って呼ぶべきかな……」

「ぶー! 別に何でも良いですっ! 先生はとーっても強いんです! 貴方の力がなくても大丈夫ですよーだ!」


 ポレンはレイジに向かって言う。

 

「そうか、それなら、手合わせをしよう。苦戦するようなら大丈夫とはいえないだろう?」

「「ちょっとレイジ君!?」」


 レイジがクロキに再び剣を向けると黒髪の少女チユキとシロネが慌てる。

 どうやら、予定になかった行動のようだ。

 

「安心しろ、チユキにシロネ。ただの手合わせだ。どうだ?」

「……」


 クロキはレイジに問われて迷う。

 受ける義理はない。

 しかし、クロキは逃げるべきではないと思っていた。


(レイジの言う通りだ。自分は海の中での戦闘に慣れていない。このまま行っても良いのだろうか?)


 ポレンとトヨティマ。

 守るべき者も多い、そしてフェーギルの強さはわからないところがあった。

 だから、クロキはこう答える。


「わかった。受けよう。殿下、下がっていて下さい」


 クロキは魔剣を構え前に出る。


「ああ、受けてくれると思っていたよ。だから、全員下がっていてくれ」


 レイジはチユキとシロネに下がるように促す。

 クロキとレイジは剣を構え近づく。

 周りの者は両者から離れて見守る。

 

(水の中ではレイジの方が有利だよな……)


 クロキはレイジを見てそう考える。

 クロキの黒い炎は水の中では使いにくい。

 対してレイジの光の魔法は炎に比べて使いやすいはずであった。


「安心しろ、光の魔法は使わない。純粋に剣だけで戦ってやる。いくぞ!」


 クロキの思考を読んだレイジは剣を構えると向かってくる。


(速いっ!!?)


 クロキは少し後ろに下がると魔剣を盾にレイジの攻撃を防ぐ。

 それは明らかに逃げの動きであった。

 レイジは一撃を繰り出すと流れるように旋回して再び向かう。

 それは獲物を取るための肉食漁のような動きであった。

 クロキは先程と同じように少し後ろに下がりレイジの攻撃を防ぐ。

 

(強い! レイジは水に対応している!!)


 クロキは歯軋りする。

 思い出せばレイジはスポーツ万能で水泳も得意であった。

 贅肉のない均整な体はしなやかで、特に練習もしていないのに水泳選手と同じくらいの泳ぎができる。

 それに対してクロキは泳げない事はないが、得意でもない。

 その差が今現れているのだ。


「どうした? 逃げ腰じゃないか?」


 攻撃を一時中止したレイジは不敵な笑みを浮かべる。

 明らかにレイジが優勢であり、それはクロキも理解している。

 そのため、何も言い返せない。


(逃げるか……。嫌だな……。逃げたままじゃ、負けだもの……)


 クロキはこの世界に来る前の事を考える。

 過去にレイジに敗北した記憶をクロキは一度だって忘れた事はない。

 2度と味わいたくないために常に剣を振ってきたのだ。

 このセアードに来ても練習を欠かした事はない。

 レイジがいると想定して水の中でも何度も剣を振るった。

 しかし、レイジの動きは想定以上であった。

 クロキは考える。

 レイジと同じ動きは出来ない。

 それに対応する策も思い浮かばない。

 良くない状況であった。


(でも、やるしかない……。今までやってきた事の全てを出す。我武者羅にやるしかないんだ!)


 クロキは剣を構える。

 結局やれる事やるしかない。

 それはいつだって変わらない。

 全力を出すだけだった。


 

「クロキ先生……」


 ポレンの前で暗黒騎士と光の勇者が戦っている。

 暗黒騎士はもちろんクロキである。

 戦況は誰が見ても光の勇者が優勢であった。

 光の勇者の動きはマーマン顔負けで、速く鋭い。

 クロキは剣を盾に防ぐのがやっとのようであった。

 

「くっ、暗黒騎士が押されとるな」


 ポレンの隣にいるトヨティマが悔しそうに言う。

 そのトヨティマに対して、マーメイドの姫達は嬉しそうであった。


「すごいわ、レイジ様。陸の者なのに、あんな動きができるなんて」

「ほんとすごいの。暗黒騎士は逃げ腰」

「顔も良いのに、強い。これほどの男が他にいるかしら? ずっとこの海にいて欲しいわ」


 マーメイドの姫達は光の勇者を褒め、クロキを嘲笑する。

 前にも似たような事があり、その事をポレンは思い出す。


「むう~。先生は負けないよ。絶対に盛り返すもん!」

「そうです。ポレンさんの言う通りですわ。クロキさんがこのまま逃げ腰で終わるとは思えません」


 ポレンは頬を膨らませて言うと側にいるキョウカも同意する。


「あんさん。どっちの味方なん。そもそも何でこっちにおるん?」


 トヨティマは呆れた顔でキョウカを見る。 

 なぜかポレンの側に勇者の仲間の女性達が来ていた。

 トヨティマと同じようにポレンも疑問に思う。


「まあ、良いじゃん、良いじゃん、硬い事言いっこなしだよ。ポレンちゃんも良いよね?」

「ええと……」


 後ろからリノに抱き着かれポレンは何と言って良いかわからなくなる。


「ごめんなさい。でも一緒に行動するなら、今からでも良いよね。私はシロネ。よろしくね」

「いや……、まだ一緒に行動すると、決めたわけやあらへんけど……」


 トヨティマは勇者の仲間達の強引さに小さく抗議する。


「ところで戦況はどうなの? レイジ君が押しているように見えるけど」

「チユキ様。レイジ様が優勢ですね。今のところは……」

「確かにカヤさんの言う通り、今の所はレイジさんが優勢っすね」


 トヨティマの抗議を無視して勇者の仲間達は会話を始める。

 クロキと光の勇者の戦いは続いている。

 勇者の仲間達を気にしている場合ではなかった。

 そして、じっと戦いを見ている時だった。


「あれ? 先生の動きが変わってる?」


 ポレンは思わず呟く。

 それは小さな変化であった。

 クロキの動きが逃げるだけでなくなっている。

 受ける動きから受け流す動きへと、それは小さな変化であった。


「うん確かにクロキの動きが変わってる」

「はい、レイジ様の動きに対応し始めています。やはり、とんでもないですね……」


 同じようにクロキの動きに気付いた勇者の仲間達が頷く。

 光の勇者は流れるような動きで剣を繰り出し、それをクロキは受け流し、剣を返す。

 両者の剣が動くたびに周囲の水の流れが変わる。


「何というか、踊っているみたいっすね……」


 ナオが笑いながら言う。

 ポレンもそれには同意であった。

 流れるように光と闇の剣が交差する。

 それはさながら流水の剣舞だ。


「やるじゃないか! それなら今度は2本でいくぜ!」


 光の勇者はそう言うと今度は両手に剣を構えてクロキに向かう。

 先程よりも激しい動き、クロキは再び防戦に回る。

 そして、光の勇者が左の剣を下から振り上げた時だった。

 クロキは避けきれず、剣は兜に当たり、その兜を弾き飛ばす。

 そのため兜を飛ばされたクロキは素顔を晒す事になる。


「「「えっ!!??」」」


 クロキの素顔を見たマーメイドの姫達から驚きの声が出る。


「えっ!? あれが暗黒騎士の素顔?」

「嘘!? 結構良い男じゃない!?」

「本当なの、どういう事なの?」

「なんでマーマン達の所にいるの?」


 マーメイドの姫達はクロキの素顔を見て話し合う。


(そうよ、先生は良い男だもん!)


 ポレンは思わず鼻で笑ってしまう。

 クロキは光の勇者に比べると、影になりがちだが、精悍で整った顔立ちをしている。

 ポレンがずっと側にいて欲しいと思うほど良い男なのだ。


「やるじゃないか。見切れなかったよ……」


 素顔を晒したクロキは後ろに下がり距離を取って言う。


「そりゃどうも。でもお前なら躱すと思っていたよ」


 光の勇者は笑いながら両手に剣を構え、再びクロキに向かう。

 戦いを楽しんでいる。

 そして、クロキもまたどこか楽しんでいるようにポレンには見えた。

 クロキは剣を真っ直ぐに構え、迎え撃つ。

 その動きに逃げはない。

 再び両者は剣を交える。

 剣舞は続く。

 その両者の動きは凄まじく、水の強烈な流れがポレン達の方まで伝わってくる。

 周囲の者達は固唾を飲んで両者を見守る。

 そして、何度目か剣を合わせた時だった。


「ここまでだな」

「ああ、そうだな……」


 両者は互いに距離を取ると剣を収め、並んでポレン達の方へと来る。


「レイジ君。もう良いの?」

「ああ、もう良いさ。チユキ。これでわかったと思うからな」


 そう言うと光の勇者はクロキを見て言う。


「トヨティマ姫。申し訳ございません。彼らに同行を許してはもらえないでしょうか?」


 クロキはトヨティマの前に立つと頭を下げる。


「ええと、どういう事や?」

「このまま自分達だけで行くのは危険です。今のでわかりました。恥ずかしながら自分の剣はまだまだ未熟です。より安全な方法があるのなら、その方法を取るべきです」


 クロキにとって敵の手を借りる事は恥だと思っている。

 しかし、そのためにポレンやトヨティマを危険さらす事はしたくない。

 そんな思いが言葉から伝わる。

 そのためトヨティマは何も言い返せなくなる。


「はあ、あんさんがそう言うなら、しゃあないわ。一緒に行くことを許したる」


 トヨティマはマーメイドの姫達に向かって言う。

 もちろんマーメイドの姫達に異論はないようで頷く。

 そもそも自身の弟を助けに行くのだから、当然と言えた。

 

「それにしてもなあ、ポレの字。な~んで、暗黒騎士の兜を外させんのかようやくわかったわ! 良い男を隠しとったな! この~!」

「痛い! 痛いよ! トヨちゃん!」


 トヨティマはポレンの頭を両端こぶしで押さえつける。

 

「まあ、ナルゴルで殿下の力に耐えられる良い男は閣下ぐらいしかいないのさ。まあ、隠したくなる気持ちはわかるのさ」


 プチナは溜息を吐く。

 ポレンが頑なに兜を外させなかったのはそれが理由であった。


(うう~。だって、先生の顔を見たらトヨちゃん絶対欲しがるもん。見せられないよ。うんあれ?)


 ポレンがそう思いクロキを見た時だった。

 クロキの側にマーメイド達が集まっている。


「ねえ、暗黒騎士。何で醜いマーマン達の所にいるの?」

「そうよ、そうよ」

「ねえ、私達のとこに来ない? 歓迎するわよ」


 マーメイド達は勧誘する。

 それを見たポレンは慌てる。


「ちょっと待ったーーーー!!!!!!」


 ポレンはトヨティマの手から離れるとクロキに抱き着き、マーメイド達を遮る。


「先生はナルゴルのなの! 私と一緒にナルゴルに帰るの! 私綺麗になるから先生がいなくなったら嫌なの! べーだ!」


 そう言うとポレンはマーメイド達を威嚇するように変身する。


「これは驚いたな……。可愛い子に変身したぞ」

「ホント、これは驚きっす」

「ええ、びっくりしたわ」

「本当だね。ポレンちゃんすっごく可愛い」


 ポレンの変身した姿を見た勇者達が驚く。


「なんだかなあ、ポレの字が大人びたと思ったら、急に元に戻ったな」

「申し訳ないのさ、これが殿下なのさ」


 トヨティマとプチナが呆れた声を出す。

 しかし、どんなに呆れられようがクロキは手放せない。

 ポレンにしがみ付かれたクロキは困った顔をする。


「クロキ。何だか人気ね~。もてもてじゃない」


 そんな中、シロネと呼ばれる少女はなぜか引きつった笑みを浮かべて言うのであった。


 



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


上手く書けません。

もう少し会話を多くすべきですね。

後で書き直すかもしれません。

7月初めまで忙しいので、それからになりますが……。

毎回こんな調子だとヤバいですね。

いつも通り文章が酷いので、誤字等があれば教えて下さると嬉しいです。


さて、次は鬼岩城へ向かいます。



最後に感想、いつもありがとうございます。返信が遅れてごめんなさい。

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