第16話 湖中神殿
クロキとポレンとトヨティマとプチナはロドス島に上陸してから数分で島の中央へと辿り着く。
島は広く人間の足でなら数時間はかかるがクロキ達なら僅かな時間しかかからない。
島の中央には湖があり、そこに住むテルキーネス達が出迎えてくれる。
「ようこそ、ダラウゴン様の姫君。エボン様からこちらに来ることは伺っております。お待ちしておりました」
テルキーネス達の中から代表が出て来てトヨティマに頭を下げる。
初めて見るテルキーネスの姿は直立した獣の姿であり、背丈は人間の平均よりも一回り小さい。
彼らのしっぽは魚のような形をしているところから、泳ぐことができ、実際に海辺や水辺に住んでいる。
ただ、水は得意でないのか、特殊な油を体内から分泌して体を覆い、濡らさないようにしている。
むしろ、テルキーネスは火を使う事の方が得意だ。
また、火を防ぐ特殊な粘液も出す事ができ、その粘液で体や住処を火から守る。
手先はかなり器用で、冶金の技術に長けている。
水棲生物でありながら、火を使う彼らはこの世界でも珍しい種族と言えるだろう。
「エボン? 初めて聞く名やな?」
「えっ、ご存知ない? 確かアンモン様にお仕えしているとお聞きしていますが」
「ああ、オジジの? そういや、この地を守護しとる奴がいる言うとったな。その守護者ちゅう事かな?」
アンモンの名を出されトヨティマは納得する。
「はい、エボン様は我々を守ってくれています。」
「なるほどな。それじゃあ出迎えありがとうな、テルキーネスはん。早速やけどセアードの額環は取りに行かせてもらうで」
トヨティマは用件を言う。
トルキッソスを助けに行かねばならないので、テルキーネスの歓待を受ける暇はない。
「はい。姫君。セアードの額環はこの湖の底にあるエボン様の神殿の中にあるはずです」
テルキーネスの代表は湖を見る。
湖はそれなりに広く、水深も深い。
しかし、澄んでいるので水底にある神殿らしきものは見る事が出来た。
あそこにセアードの額環があるのだろう。
「なるほどなあ、それじゃ行こか、ポレの字」
「うん、トヨちゃん」
トヨティマが言うとポレンは頷く。
海から陸、陸から水。
移動が激しかった。
「うう~。また、水なのさ~」
陸の時のトヨティマと同じようにプチナが嫌がる。
「もう、嫌がらないの、ぷーちゃん。行くよ。先生も用意出来てるよね?」
「もちろんです、殿下」
クロキは当然のように頷く。
こうしてクロキ達は湖の中へと入るのだった。
◆
「海と同じ水の味だね。ここ」
「そうですね、殿下。どうやら塩湖のようです」
クロキは湖の中を歩きながら周囲を見る。
湖は海と同じように塩気がある。
ポレンが言うように塩湖のようであった。
魚も海の小魚が泳いでいる。おそらくテルキーネスの主食だろう。
程なくして水中神殿へと辿り着く。
「さて、着いたけどどうやって入るんやろ? ウチが来ている事は知っとるはずやし、中にいるもんが開けてくれるんやろか?」
神殿の入口は巨大な門で閉じられていて、中に入れない。
「鍵穴もないようですし、どうやったら門を開けられるのでしょう。それとも中からなら開けられるのでしょうか?」
クロキは門を叩く。
門は固く軽く押したり、引いたりしたぐらいでは開きそうもなく、無理やりこじ開ける事は可能であってもしたくはない。
クロキ達がどうしようかと思っている時だった。
突然門が開きだす。
「あっ、門が開いたよ。それに誰か出て来たよ」
ポレンの言う通り、門が開くと何者かが出てくる。
その数は複数であり、その全員が上半身は人間で下半身は魚であった。
「マーメイド? どういう事や? 何でここにおるんや?」
トヨティマは出てきたマーメイド達を見て驚く。
マーメイドはダラウゴン率いるマーマン達と争っている。
当然トヨティマにとっても敵である。
そのマーメイド達が神殿から出てきたのだ、驚くのも当然であった。
「ようこそ、姫様。貴方様が来られる事は我らが神エボン様の託宣で伺っております」
出てきたマーメイド達はトヨティマに頭を下げる。
その様子に敵意はない。
「さあ、どうぞ姫様。ご案内いたします」
「え、ああ、うん」
驚くトヨティマをよそにマーメイド達は神殿の中へと案内する。
中に入るとマーマンの戦士達が槍を掲げてトヨティマに敬礼する。
「どういう事やろか? 変や、ここは変や?」
トヨティマは周囲を見て言う。
神殿の中には小さな町があり、マーマンとマーメイドが共に生活をしている。
彼らは楽しそうに談笑し、子どものマーマンとマーメイドが仲良く遊んでいる。
この湖は海とは全くの真逆である。
それはありえない光景であった。
対立している種族がここでは共に生活しているのは普通では考えられない。
「う~ん。確かに変だね。トヨちゃん。ここのマーメイドさん達。何だか変な感じがする。夢や幻を見ているみたい」
ポレンがそう言った時だった。
クロキは何かに気付く。
(夢を見ているみたいか……。この感じは以前にもあったな。あっ、そうか!?)
クロキはマーメイドとマーマンを見る。
彼らの気配は外で出会ったマーメイドとマーマンと明らかに違っていた。
「確かに変なのさ。水の中だからかと思ったけど、外の者と違うのさ」
「言われてみれば、確かに変な感じや」
プチナとトヨティマも気付く。
「自分も気付きました。ここの者達はおそらく夢の存在だと思います」
クロキは思った事を口にする。
するとポレンとトヨティマがクロキを見る。
「夢の存在? どういう事や暗黒騎士」
「どういう事ですか? 先生?」
「はい、殿下。彼らは何者かが作り出した夢が形を持ったものと思われます。過去に自分は
ポレンに問われクロキは説明する。
夢の生物。
神族やそれに同等の力を持った存在、もしくは特定の種族が眠ると、夢が形を持ち外に出てくる事がある。
その夢は様々であり、町や島、そして生物もある。
クロキは過去に漆黒の魔竜王の夢から生まれた
また、生み出した者が目覚めると、すぐに消えてしまう。
そんな儚い存在が夢の生物なのだ。
目の前のマーメイドが夢の生物だと気付いたクロキは気配を探る。
すると神殿の地下深くに巨大な蛤がいる事がわかる。
(おそらく、この巨大蛤がエボンなのだろうな)
巨大な蛤は静かに動かずじっとしている。
眠っているみたいであった。
しかし、眠っていても夢の生物を作りだす事で戦う事ができる。
もし、テルキーネス達に異変があれば
「夢の生物か、聞いたことあるなあ……。初めて会うけど、そうなのかもしれへん。それなら納得や」
「私も聞いた事があるよ、トヨちゃん。夢見る島を作り出した風の魚の物語は有名だもの」
トヨティマとポレンは頷き納得する。
「どうかなさいましたか? 姫様?」
目の前の夢のマーメイドが首を傾げる。
クロキは彼女から
おそらくエボンが目覚めない限り、普通の生物と同じように生き続けるのだろう。
「何でもない。案内頼むわ」
「はい、姫様。こちらへ」
トヨティマが言うと夢のマーメイドは神殿の奥へ案内する。
やがて巨大な広間へと辿りつく。
「申し訳ございません、姫様。私が案内できるのはここまでです。私達はこの中に入る事が許されていないのです」
夢のマーメイドは頭を下げる。
クロキは広間を見る。
広間の中には複数のマーメイドの像が置かれている。
その真ん中のマーメイドの頭に額環が見えた。
あれがセアードの額環かもしれない。
「わかったありがとな」
「いえ、姫様。これが巫女としての役目ですから。それでは私はこれで」
トヨティマがそう言うと夢のマーメイドは微笑むとお辞儀をして去って行く。
「さあ、行こか」
トヨティマを先頭にクロキ達に入る。
広間は円形になっており、壁にはマーメイドの像が並ぶ。
気配から夢の産物ではなさそうである。
クロキ達は入り口から一番奥のマーメイド像へと近づく。
「うっ、この像は!?」
奥のマーメイド像を見たトヨティマが嫌そうな顔をする。
「どうしたの? トヨちゃん?」
「いやな、この像誰かに似ている思ってな。嫌な気持ちになったんよ」
ポレンに答えたトヨティマは自身の額を2本の指で押さえる。
「似ている? そういえばマーメイドの姫に似ているね」
ポレンはマーメイドの像を見て答える。
ポレンの言う通り、像はマーメイドの姫に似ていた。
「いや、ポレの字。この像はおそらくあの女……、メローラを模したもんや、お父ちゃんやっぱりあの女に……。本物に比べて胸が大きく作られているから最初気付かんかったわ」
トヨティマは吐き捨てるように言う。
クロキは人魚の女王メローラに会った事はないが、像はその女王を模して造られているようであった。
「他の像も胸が大きいのさ、実際に会ったマーメイドは小さかったような気がするのさ」
プチナは像を見て言う。
確かにどの像の胸も大きく作られている。
「おそらく、お父ちゃんの趣味やな……。まあ、ええわ気にせんどこ。おそらくこれがセアードの額環のはずや、さっさと持って帰ろ」
トヨティマは溜息を吐く。
(そういえば、夢のマーメイドの胸も大きかったな)
クロキは神殿の会ったマーメイド達を思い出す。
どのマーメイドも巨乳であった。
ダラウゴンが来た時に歓待するためであるのかもしれない。
クロキも何だか頭が痛くなる。
「何者です貴方は? 私の額環に触らないでください?」
トヨティマが額環を取ろうとした時だった。
メローラ像が突然喋りだす。
驚いたトヨティマは慌てて手を引っ込める。
「なんや? どういう事や?」
「この額環は我が夫ダラウゴン様より与えられたもの。誰にも渡しません」
メローラ像はそう言うとどこからともなく武器を取り出す。
動き出したのはメローラ像だけではなかった。
周囲のマーメイド像も動き出す。
クロキ達は広間の中央へと下がる。
「これ、どういう事なのトヨちゃん?」
「うちにもわからん。何も聞いとらん。でもまあ、お父ちゃんの事やから伝え忘れたんやろうなあ」
トヨティマはそう言ってメローラ像を睨みつける。
この場にはダラウゴンぐらいしか入る事はない。
また、額環を隠してからかなりの時間が経過しているからメローラ像の事を伝え忘れたみたいであった。
「まあ、ええわ。ぶち壊してしまえば良いんや! 暗黒騎士! 頼むで!」
トヨティマはそう言ってクロキにお願いをする。
「はあ、仕方がないか」
クロキは剣を構える。
(でも壊すのはもったいないんだよな。だって、こんなに綺麗に作られているのに……)
マーメイドの像は美しくエロい。
そのため、クロキは壊すのをもったいないと思う。
しかし、そんな事を言えば軽蔑されるだろう。
マーメイド像が向かってくる。
クロキは心で泣きながら剣を振るうのだった。
◆
「さて、ようやく海に戻って来れたな。はよ、この額環を持って行かんとな」
セアードの額環を手に入れたクロキ達はロドス島の浜辺へと戻る。
トヨティマの手には額環がある。
美しい額環であり強い魔力を感じる。
ディアドナが欲しがるのも無理はない。
(はあ~、やっぱりもったいなかったな。一体ぐらい残しても良かったかも)
クロキはマーメイド像を壊した事を少しだけ後悔する。
像は戦闘用ではなかったのか、そこまで強くはなく、簡単に倒せた。
一つぐらい残しても良かったが、手伝ったポレンがあっさりと全部こわしてしまった。
いくら強くないとはいえ、オリハルコンで出来た像を簡単に壊すのだから、さすが魔王の娘と言えた。
「うう~。また海の中なのさ、もう塩の水は嫌なのさ」
「もう、何度も言わないの、ぷーちゃん。さっさと行くよ」
何度目のやり取りだろうか、ポレンとプチナの掛け合いを聞きながらクロキ達は海の中へと入る。
そして、しばらく海の中を進んだ時だった。
「待って下さい。何者かがいます」
何者かの気配を感じ、ポレンとトヨティマを止めてクロキは先頭に出る。
クロキ達が止まると待ち構えていた者達が出てくる。
マーメイドとトリトン達だ。
マーメイドはロドスとは違い夢の存在ではなさそうであった。
そして、待ち構えていたのはマーメイド達だけではない。
「さて、待っていたぜ、遅かったな」
「レイジ……」
クロキは新たに出てきた者を見る。
待っていたのはレイジとその仲間達であった。
「何やあんたら、お前らんとこの王子を助けたるんやから、邪魔すんなや」
トヨティマはレイジに吠える。
「海神の姫。もちろん邪魔をするつもりはない。俺達の用はただ一つだ。俺達も同行させてもらう。無理やりにでもだ」
そう言ってレイジは笑うと剣をクロキ達に向けるのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
テルキーネスはやっぱり書きにくいです。また、いつも通りちゃんと書けている気がしません。
文章でおかしいところがあったら教えて欲しいです。
そして、夢の生物ですが、蜃をモチーフにしています。
蜃は蜃気楼を生み出す魔物で、後西遊記では街一つを作り出したりします。
それにしても夢が作り出した幻の存在は儚く面白いですね。
こういった夢の存在をモチーフしたストーリーは名作が多い気がします。
FF10やゼ〇ダの夢を見る島等。ちなみにエボンの名もFF10から取っています。
またFF10に出てくる「シン」の由来は罪の「SIN」らしいですが、「蜃」とも呼べそうですね。
蜃は蛤とも竜だったりする非西洋のモンスターですが、出しても別に良いですよね?
ル〇ンクエストでもドリームドラゴンとか登場しますし。
最後にGW中の更新ですが、色々と用事があるので、執筆速度は特に変わらないです……。
感想は必ず読んでいます、なかなか返信できなくてごめんなさい。
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