第14話 北の都2
「初めまして、姫君。私はパルシスと申します。あなたのような美しい方と踊れるとは光栄でございます」
パルシスがキョウカに頭を下げる。
パルシスの顔を見てキョウカの顔が引きつる。
カヤが額に手を当てている。
シロネも人の顔をあまり悪く言いたくはないが、パルシスという男性の顔はゴブリンに似ていた。
はっきり言ってすごいブサイクだ。
ブサイクだけなら我慢もできるが、いやらしそうな目でキョウカの全身を嘗め回すように見ているので、正直に言えば、あまり一緒にいたい相手ではない。
(うう、彼も好きでこんな顔に生まれたわけではないのだから、あまり悪く思うのはやめよう)
シロネはそう思いながらキョウカに同情する。
また、シロネには気になる事が1つあった。
パルシスという男性は、魔法で姿を美しく見えるようにしているみたいなのである。
シロネ達程の魔力の持ち主なら彼の本当の姿を見る事が出来るので、パルシスのいやらしく欲望に満ちた顔がはっきりとわかる。
シロネ達には及ばないまでも人間にしてはかなりの魔力を持っている事は間違いない。
シロネはこの世界に来た時からなんの修行もせずに魔法が使える。
だけど、この世界の一般的な人間はかなり魔力を持っている者でも、かなりの修行をしないと魔法は使えない。
きっと彼もかなりの魔法の修行をしたに違いないとシロネは推測する。
容姿を変える魔法を習得する事は難しかったのかもしれない。
パルシスは、優雅な動作でキョウカさんに礼をしている。
嬉しそうなパルシスに対してキョウカは自分の好みとあまりにもかけ離れた男性を紹介された事で顔が強張っている。
舞踏会のパートナーがいないシロネ達にエカラスが紹介したのが、このパルシスと横のオミロスである。
エカラスはパルシスをキョウカにオミロスをシロネのパートナーとした。
エカラスの目ではパルシスは美男子に見えている。
キョウカがシロネ達のリーダーとなっているからエカラスはキョウカに一番良い男性を紹介したつもりなのである。
しかし、真実の姿なら、パルシスよりそれなりの容姿のオミロス方が良いと誰もが思うだろう。
「これで美男美女のカップルの誕生です。明後日の舞踏会が楽しみですな」
エカラスは笑いながら言う。
パルシスを美男子だと思って疑っていない。
シロネはエカラスにパルシスの本当の姿をいうべきだろうかと思う。
だけど、今まで彼は容姿で苦労したかもしれないので言わないでおく。
しかし、相手をするキョウカとしては嫌だろう。
「申し訳ございませんお嬢様」
カヤがキョウカに謝る。
ちなみにカヤは踊らない。
シロネはズルいと思うが、裏方だから出ないと聞かなかった。
参加すると言い出したのに1人だけ舞踏会に出席しない。キョウカと同じくシロネも少し納得できなかったりする。
「ねっ!ねえ!!シロネさんパートナーを交換してもよろしくてよ」
「ごめんなさい、キョウカさん……。私もちょっと……」
相手の交換をお願いしてきたキョウカに頭を下げてシロネは断る。
パルシスには悪いがシロネもパルシスは遠慮したい。
キョウカがシロネに恨めしそうな目を向けるが知らぬ顔をする。
「ううっ……」
キョウカがうなる。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありませんわ……。舞踏会はよろしくお願いしますわ……パルシス卿」
観念したキョウカが、うな垂れながら言う。
善意でパルシスを紹介されただけに文句も言えない。
その言葉を聞いたパルシスが嬉しそうに笑う。
嘘の顔ならきっと爽やかなのだろうけど、真実の顔が見えるシロネ達にはいやらしい笑いにしか見えなかった。
「それでは後は若い方でお話をされてください。では私はこれで」
エカラスは笑いながら部屋をでる。
後にはシロネ達5人が残された。
パルシスがキョウカに楽しそうに話かけている。
(よほどキョウカさんと踊れる事が嬉しいのかな? 確かにキョウカさんはとても美人だし。前から綺麗だったけど、この世界に来てからさらに美しさに磨きがかかったのじゃないかな?)
シロネはキョウカを見る。
明るい髪の色はこの世界に来てから黄金に輝き、白い肌はさらに艶を増した。
パルシスで無くてもキョウカと踊りたいという男性はきっと多いだろう。
もっとも、今のキョウカの顔色は悪く、美しさに少し陰りが出ていたりする。
シロネは心の中でキョウカさんに合掌をして自身のパートナーの方を向く。
「よろしくね……。えーと、オミロスさんで良かったかな?」
「はい、よろしくお願いします、シロネ姫。私はアルゴアのオミロスです」
オミロスがシロネに頭を下げる。少し気になる事を言った。
「アルゴア? リジェナ姫の所の?」
「リジェナを知っているのですか!!」
シロネがリジェナの名を口にするとオミロスが大声を出す。
「ええ……。前にアルゴアに行った時に少し見た事があるぐらいだけど」
「そうですよね、勇者様と一緒だったのなら会った事はありますよね。私はその時にアルゴアにいなかったので……」
オミロスが俯きながら言う。
顔の表情がとても暗い。その様子はただ事ではない。
「ねえ、オミロスさん。もしかしてリジェナ姫に何かあったの?」
一応シロネはレイジがリジェナの事を気にしていたから、聞いておこうと思う。
「はい、実は……」
オミロスがアルゴアで起こった事を話始める。
「そんな事があったの……」
シロネはオミロスの話を聞いて茫然とする。
まさか、リジェナ姫がそんな酷い事になっているとは思わなかったのである。
「本当に悲しい話ですわね」
横で話を聞いていたキョウカが涙ぐみながら言う。
「敵対し合う家、引き裂かれた2人。過去に読んだ事のある物語みたいですね」
カヤもまたしんみりと言う。
「ええ、私も読んだ事がありますわ……。とても悲劇的なお話でしたわ」
「私も読んだ事がある。確か10人ずつ代表を出して殺し合う忍者の話だよね……。悲しい話だよね……」
シロネがそう言うとキョウカとカヤが変な顔をする。
「私の読んだ話とずいぶん違いますわね……」
「はい、そんな魔界じみた話ではなかったと思います」
「えっ!? 何でそんな残念そうな目で見るの!?」
2人から残念そうな視線を向けられシロネは慌てる。
当然、何が違ったのかわかっていない。
「リジェナ姫の事は私も残念に思いますよ、王子。それを忘れるためにも舞踏会を楽しもうじゃありませんか!!そう思いませんか、キョウカ姫」
パルシスがキョウカの手を取って言う。
手を取られたキョウカの顔が青ざめる。
「えええええ、そうですわね」
キョウカが手を振りほどきながら言う。
シロネはさすがにパルシスに悪いのではと思うが、言わないでおく。
もし、自身が当事者なら同じ事をしたかもしれないからだ。
オミロスは少し離れた所で違う所を見ていた。
(リジェナ姫の事を考えているのかな?)
パルシスではないが、舞踏会で少しでも元気がでたら良いなとシロネは思うのだった。
◆
白銀の髪を持つ美少女、クーナは再びカロンの女王の間に立つ。
クーナがこの国に来たのは女王のダティエから直接お伝えしたい事があると、クロキに連絡が来たからだ。
嫌がるクロキのためにクーナが代理で来たのである。
「あの……閣下は?」
ゴブリンの女王ダティエがクロキの姿を探す。
「クロキは来ていない。用件はクーナが聞く」
クーナがそう言うとゴブリンの女王は残念そうな顔をする。
(当り前だ。愛しいクロキをお前のような女の前に連れて来れる訳がない。そもそも、使者を送れば済むことをわざわざ会いたいなどと、お前の企みなどお見通しだ!)
冷たい目でクーナはダティエを見る。
ダティエも目論見が外れたので、とても残念そうだ。
「話はなんだ、ゴブリンの女王?」
ゴブリンの女王は溜息を吐くと用件を話し出す。
「実は先日報告したアルゴアの英雄パルシスの件なのですが……。実はパルシスは姿を変えたわたくしの息子であるゴズだったのです。息子はナルゴルに敵対する気はないと言って来たのです」
ゴブリンの女王の言葉でクーナはパルシスの事を思い出す。
姿を変えているみたいだったが、クーナの目はごまかせなかった。
「確かに、あの醜い顔はゴブリンだったな。それで? どういう事だ?」
「折角、閣下が動いてくれたにもかかわらず、申し訳ないのですが……、この件は終わりとしたいのです」
ゴブリンの女王は頭を下げる。
クーナは少し考える。
(悪いが、この件から手を引く気になれないぞ。あの時、あの者達はリジェナの名を口にしていた。なぜだ?)
クーナにはパルシス達がリジェナの名を口にしていたのかまではわからなかった。
そして、何とかその理由を確認したいと思う。
なぜなら、理由によってはリジェナをクロキの側から排除できるかもしれないからだ。
「わかった、それはクロキに伝えておくぞ。それでお前の息子は何をしている?」
クーナは内心を隠し聞く。
女王の息子が何をしようとしているのか?
それを聞いておかなくてはならない。
「何をしているのかまでは聞いていないのですが……。そういえば、今度ヴェロスとかいう人間の国で舞踏会に行くと言っておりましたわ」
そのゴブリンの女王の言葉をクーナは気になる。
(舞踏会だと?)
クーナは前にクロキが読んでくれた物語に舞踏会が出てきたのを思い出す。
その物語にクーナは何故か心が魅かれた。
クーナはその舞踏会にクロキと一緒に踊る光景を思い浮かべる。
中々良い光景だった。
「舞踏会か……」
「はい、舞踏会です。その舞踏会に行くから媚薬が欲しいとも言っておりましたわ」
「媚薬?」
「はい、男を奮いたたせる薬です。魔王城の西にある闇の森に住む妖蜂の蜜を元に作られた物です。それを男が飲めば、さかりのついたケンタウロスのように腰を振り、もし女が飲めばさかりがついたエルフのように腰を振るでしょう」
その言葉にクーナは興味が出て来る。
「もしよろしければお1つ差し上げますが?」
「本当か!!!」
「ただし、条件があります」
「むっ……なんだ……?」
ただではないと知って少し警戒する。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ただその御髪を一本いただきたいだけですわ」
ゴブリンの女王の言葉にクーナは拍子抜けする。
そして、髪の毛一本ぐらいならあげても良いだろうと思う。
「わかったぞ。髪の一本ぐらいならやろう」
クーナは髪を一本引き抜くとゴブリンの女王に渡す。
「確かにいただきました。薬は後で持って来させますわ。その薬をお茶に混ぜて閣下に飲ませると良いでしょう。グフフフフ」
ゴブリンの女王がいやらしく笑う。
(おそらくクロキの事を考えているのだろう。その笑みは不快だが今は我慢してやるぞ)
クーナは斬り殺したいのを我慢する。
やがて、一匹のゴブリンが薬を持ってくる。綺麗な小瓶に入った透明な薬だ。
「薬の事は礼を言うぞ、ゴブリンの女王」
クーナはそう言うと薬を受け取りカロン王国を後にしたのだった。
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