第15話 北の都3
シロネが鏡を見ると、水色のドレスを纏った自身が見える。
そして、くるっと1回転をするとスカートがふわっと舞う。
「うん、我ながら綺麗じゃない。でも隣には負けるかな」
シロネはそう呟くと隣を見る。
隣には薔薇色のドレスを着たキョウカがいる。
すらりとしたスタイル。きゅっとしまったウエスト。大きく開いた胸元からは彼女の豊かな胸の谷間が見えている。
思わず同性のシロネも覗き込みたくなる。
「姫様方、とても似合っていますよ」
エカラスの妻であるコルフィナがドレス姿のシロネ達を褒める。
その態度には全く偉ぶった所がなく、好感が持てる。王の妻であるはずなのにコルフィナは全く王妃らしくない。
シロネはエカラスと同じくコルフィナに会うのも2度目であった。
コルフィナは元々は商人の娘であり、父親と共にヴェロスに商売に来た時にエカラスに見初められ、そのまま妻になった。
いわゆる玉の輿である。
ただ身分が低いコルフィナが王妃になる事に反対する者も多かったとシロネは聞いている。
しかし、婚約者がアルゴアの王と駆け落ちして以来、ずっと落ち込んでいたエカラスの事を考えれば周りの者達は了承するしかなく、最後には2人の結婚を認められた。
コルフィナは奥ゆかしい美人であり、そんなコルフィナと結婚したエカラスは明るくなった。
コルフィナは商人の娘なだけあって帳簿にくわしく、夫を財政の面から支え、ヴェロスはさらに豊かになった。
今では誰もが彼女を王妃として認めている。
そしてエカラス王との間には今年で5歳になる息子がいる。
シロネはチユキが良妻の見本と言って彼女を褒めていた事を思い出す。
この国に来てから一晩経ち、シロネ達は舞踏会で着るためのドレスをそのコルフィナから借りている所だ。
エカラスはコルフィナのために、沢山の衣服や貴金属をプレゼントしたらしく。
衣装部屋には全く使っていないドレスが沢山あるので、そのいくつかをシロネ達は借してもらえる事になったのである。
この世界の服飾技術は国によってまちまちであり。
やたらと高い国もあれば、やたらと低い国がある。
そして、ヴェロス王国ような大きな国の服飾技術は高い。
シロネとキョウカが着ているボールガウンに似たドレスは、かなり優美で元の世界にも引けを取らない出来であった。
「胸元が開きすぎですわ……」
キョウカが文句を言う。
コルフィナは細っとした体形で胸もあんまり大きくない。
シロネであれば胸がきついだけですむが、胸の大きいキョウカは苦しそうであった。
そのため、胸元を大きく開く形に修正しなければならず、結果、かなり色っぽい衣装になった。
「確かに開きすぎですね。ですが、とても魅力的だと思います。パルシス殿も喜ばれるでしょう」
コルフィナがパルシスの事を口に出すとキョウカは微妙な顔をする。
そもそも、キョウカはパルシスと踊りたいと思っていない。
シロネもオミロスには悪いが、どうせならレイジと踊りたいとも思う。
一度だけ踊った事があるが、レイジと踊りたい女の子は多くて順番待ちなどもあって、短い時間しか踊れなかった。
もし、また踊る機会があるなら今度はゆっくり踊りたいとも。
(クロキとも踊ってみたいな。だけど、舞踏会とか目立つ事や華やかな場所に出る事が苦手だから嫌がるかも。まあ、今の私の姿を見れば考えを改めるかもしれないかな)
シロネは幼馴染の事を思い出す。
幼馴染のクロキの容姿はそんなに悪くない。だから、もっと明るい所に出るべきだとシロネは思っている。
暗いナルゴルにいるべきではない。絶対に取り戻してやると改めてシロネは誓う。
「大丈夫ですよ、お嬢様。もし、お嬢様に不埒な事をしようとしたならば、きっちり潰してねじ切って差し上げますから」
カヤの言葉にシロネとコルフィナが苦笑する。
もちろん、どこを潰してねじ切るのかは聞かないでおく。
こことは違う所でダンスを教えてもらっているパルシス達には聞かせられない話であった。
(でも、美人なキョウカさんと踊れるのだから。それぐらいは覚悟してもらわきゃね)
シロネは笑う。
何はともあれ明日は舞踏会である。シロネはさっさと終わらせてクロキの情報を集めたいと思うのだった。
◆元代官のエチゴス
「くそ……これからどうすれば良いんだ……」
ヴェロス王国の道を歩きながらエチゴスは今後の事を考える。
エチゴスとダイガンはあの後、鬼のような女達に鎖で拘束されるとヒポグリフに運ばれて、この国へとやって来た。
途中何度もヒポグリフを休ませていた。
エチゴス達を運ぶ事でヒポグリフに負担が大きくなったらしい。
だったらさっさと解放しろとエチゴスは言いたかった。
ダイガンは今でも牢屋にいる。
人狼を野放しにできるわけがないからであった。
エチゴスは普通の人間だと言う事であり、牢屋に閉じ込めておく事で費用がかかると言う事で一晩牢屋に入れられただけで釈放となった。
無事に釈放になったのは良いが、一文無しである。
(これから、どうすれば良いのだろう……)
コキの国のエチゴスの屋敷の隠し部屋には、ため込んだ金貨が隠されている。
何としても取りに戻らねばならない。
しかし、コキの国に戻るには金がかかる。当面はこの国で金を稼がなけれならなかった。
(どうやって金を稼ごうか?)
エチゴスは考える。
この国は商人に優しい。それはこの国の王妃が商人出身であるためだ。
王妃は貞淑な権化、淑女の鏡等と呼ばれている。
だが、エチゴス達商人仲間では別の評価を受ける。計算高い女と。
王妃は元々は身分の低い商人の出身である。
今では王の寵愛を受けてこの国の影の支配者だ。
かつて、エチゴスはこの国の大商人の手代だったが、王妃のせいで得意先をすべてなくし没落した。
おかげでエチゴスは放浪するはめになったのである。
王妃は一見穏やかで優しそうに見えるが、かなりのやり手だ。
何時の間にか王妃の思いどおりになっている。
その王妃の作った商法は隙がなく、抜け穴が見つからない。
つまりズルい手段で稼ぐ事は出来なかった。
だからと言って地道に稼ぐ気はエチゴスにはない。
「待ちな!」
エチゴスがどうやって金を稼ごうかと考えている時だった。
後ろから声を掛けられる。
振り向くと大柄な男が2人とその間に老婆が1人いる。
声は大柄な男の1人から発せられたようだ。
この3人に見覚えがない。
「あの、何でございましょうか?」
エチゴスは丁寧に答える。
大柄な男からは暴力的な気配を感じたからだ。
この男達の太い腕ならエチゴスなど簡単に殺せるだろう。
だから下手に出る。
「お前、確かゼングの所にいた人間だな。確か名前はエチゴスだったよな?」
ゼングの名を聞いたとき、エチゴスの背中から冷や汗が出る。
「どうやら当たりのようだな」
大柄な男が笑う。
その口から牙みたいなのが見えた気がした。
ゼングの名を出すと言う事は、この3人はオーガと言う事になる。
エチゴスはオーガが強力な魔法を使う事を知っている。
人間に化けても不思議ではない。
そして、老婆を見る。
オーガでゼングの名を出すと言う事はこの老婆の正体は、あの怖ろしいゼングの母親であるかもしれない。
(逃げなければ!)
エチゴスは何とかこの場から逃げる方法を考える。
「あ、あの人違いではないでしょうか?」
エチゴスは後ずさりながら言うと踵を返して走ろうとする。
「ぐへっ?!」
そこで転んでしまう。まるで足と地面がくっついたような感触だった。
「お前の影は押さえた。このクジグから逃れられると思ったのかい?」
エチゴスが上体を起こし足元を見ると老婆の杖が自身の影にあたっている。どうやら魔法で動けなくされたようだ。
クジグと言う名前をエチゴスは知っていた。
ゼングの母親で、蒼の森の女王と呼ばれるオーガの魔法使いだ。
エチゴスの予想通り、老婆はオーガであったのだ。
魔女クジグの名前は大陸北部で有名だ。
蒼の森の奥深くにある砂糖菓子の宮殿に住み、その甘い匂いは遥か遠くの人間の国まで届く。そして知らないうちにその甘い匂いに引き寄せられ、クジグの餌食になってしまうのだ。
老婆がエチゴスに近寄る。
その口には怖ろしい牙が生えているのが見える。
エチゴスの体が恐怖で震える。
「さあ、知っている事を全部喋ってもらおうかねえ」
クジグが笑う。
その笑みはエチゴスにはとても恐ろしく感じられた。
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