第28話 白銀の聖竜王
クロキは白銀の聖竜王が住むであろう山の中腹の洞窟の入り口へとグロリアスを降ろす。
洞窟は大きく、身体が巨大なグロリアスでも簡単に中に入る事が出来る。
今クロキは暗黒騎士の格好になっている。もしかすると突然戦闘になるかもしれないからだ。
もっとも、そうなったらすぐに逃げるつもりである。
クロキは無理やり角を奪う事には抵抗があった。
だから、なんとか交渉して角を貰えないだろうかと考える。
洞窟の中は広く深く、奥には闇が広がっていた。
クロキはグロリアスと共に洞窟を奥へと歩く。
どれだけの距離を歩いただろうか突然広い空間に出る。その広い空間は太陽の光が届かない場所であるはずなのに明るい。
洞窟の中には光る水晶が無数にあり、それが明かりとなって洞窟を照らしていた。
そして、その空間の中央にその竜が一匹いた。
クロキはその竜が聖竜王だろうと思う。
聖竜王はグロリアスよりもはるかに大きく、そしてなにより、とても美しかった。
一般的な竜と違い鱗が見えず白銀の体毛に覆われており、その一本一本の毛が光輝いている。
そして、白銀の体躯が水晶の光に照らされてキラキラと輝く光景はとても幻想的だ。
クロキは思わず見惚れてしまう。
聖竜王がクロキに気付いたのかこちらに向く。
竜の蒼い瞳がクロキを捕える。
敵意はなく、むしろその気配は優しく包み込まれるようにクロキは感じた。
「よく来たね、暗黒騎士。君が来る事はわかっていたよ」
クロキは澄んだ声で語りかけられる。
(来る事がわかっていた? もしかして予知能力があるのだろうか)
どういう事だろうとクロキは首を傾げる。
「モデスから連絡があったからね」
しかし、竜から出たのは意外な言葉だった。
「モデスから連絡があった?」
「そうだよ暗黒騎士。角が伸びすぎて困ってたんだ。君ならこの角を綺麗に斬ってくれるだろ?」
「はっ、はあ……」
クロキはその竜の言葉に脱力する。いきなり襲われる事も覚悟して来たのに拍子抜けであった。
だがここは戦わなくて良かった事を喜ぶべきである。
(そういえばモデスは角を取って来てとは言ったが、無理やり角を取れとは言わなかった)
クロキが勝手に勘違いをしていただけであった。
ようするにただの簡単なお使いである。
クロキは心の中で疑った事をモデスに謝ると、竜の頭を見る。周りの水晶よりも輝く透き通った立派な角がついている。
その角は大きく巨体である竜の体とあわせると天井にぶつかってしまう。
確かにこれでは不便そうであった。
「中ほどの所からバッサリ斬ってくれないかな。どうせ5000年もすれば同じくらいに伸びるから、その時はまたお願いするよ」
5000年後もいるかどうかわからないが、クロキは頷く。
「わかりました。まかせてください」
数時間後。
クロキは聖竜王の角を斬り落とし、グロリアスに縄で結び付ける。
するとグロリアスは少し体を揺らす。
「すまない、グロリアス。少し我慢をしてくれ」
クロキはグロリアスに謝る。
角は大きく、グロリアスと同じように転移先の魔法陣に収まらない。
またクロキが飛翔で運ぶ事も大きすぎて出来なかった。そのためグロリアスに結び付けて運ぶしかなかった。
「いやあ、助かったよ」
聖竜王がお礼を言う。
「お礼を言うのはこちらです。ありがとうございます、白銀の聖竜王」
クロキもまた聖竜王に頭を下げる。
「ふむ……」
クロキが頭を下げる様子を聖竜王が見つめている。
「何か……」
「やはり君には竜使いの能力があるようだね。君から良い匂いがする」
聖竜王が鼻を寄せてくる。
少し戸惑うが鼻をなでると嬉しそうにする。グロリアスがそれを見て自分もと鼻を寄せて来る。
それを見て聖竜王が笑う。
「君の事はこの地に来てからずっと見ていたよ」
クロキは聖竜王の言葉に驚く。こんな巨大な竜が近くで見ていたらさすがに気付くはずだ。
「千里眼の能力があるからね。その力で見る事ができる。それに、さすがに君も敵意が無ければ感知する事はできないみたいだね」
クロキが疑問に思ったのを感じたのか聖竜王が答える。
「君以外に勇者達も見ていたよ。さすがに髪の短い子は自分の視線になんとなくだけど気付いていたようだね」
「そ、そうなのですか?」
クロキは驚く。
まさか、見られていたとは思わなかったからだ。
そして、髪の短い子というのは轟奈緒美の事だろうと判断する。
彼女の感知力はクロキよりもかなり高いようであった。
「だからあの国で起こった事も見ていたよ。ザルキシスの糸は神をも縛る。だから、あの領域に干渉する事は出来なかった」
「ザルキシスの事を知っているのですか?」
「ああ、もちろんだよ。もっとも、あの者の事を知りたければモデスに聞いた方が良い。昔は仲間だったからね」
「昔は仲間……」
その聖竜王の言葉でクロキはザルキシスがモデスを裏切り者と呼んでいた事を思い出す。
「だから君にはその事も含めて礼を言わなければならないね。君なのだろう?ザルキシスを止めたのは。さすがに結界が張られていて、その場面を見る事は出来なかったけどね。あの国と私は少しばかり関係があったからね。代わりに守ってくれて礼を言うよ。ありがとう暗黒騎士」
「いえ、そんな自分は……大した事は」
しかし、褒められて悪い気はしない。クロキは顔が赤くなるのがわかる。
「まさか君と勇者が共闘するとはね、やはり共通の敵には協力するのかい?」
「いえ、共闘したわけでは……」
クロキは否定する。一緒に戦ったつもりはない。ただの偶然だ。
「まあ良いけどね、モデスとレーナの争いには基本的には関わらないつもりだ。中立を保たせてもらうよ」
クロキはその事はモデスから聞いていた。竜族はこの争いに基本的に中立らしい。
「それと、君から竜の魂を感じる。おそらくザルキシスに捕らわれていた竜の魂を解放してくれたようだね」
「すごい。何もかもお見通しなのですね……」
「そうでもないよ、暗黒騎士。最初は伸びすぎていたとはいえ、角を渡すかどうか迷っていたんだ。だけど君を見てて、君になら角を渡しても良いと思ったんだ」
「そうだったのですか……」
「その角を使って女神を造ると良いよ。どうやら君もモデスと同じように、女性に恵まれないみたいだからね」
クロキはそれはちょっと余計なお世話だと思う。そう言われると泣きたくなる。
(だけど、これで自分のだけの女神を作れる。そこは感謝すべきだな)
クロキは角をなでる。角はこの場の水晶よりも輝いており綺麗だった。
「ありがとうございます聖竜王。女神が生まれたらまた来たいと思います」
「ああ、またおいでよ、竜を懐かせる者よ」
「はい。さあ行こうか、グロリアス」
クロキは頭を下げてからグロリアスを促し、洞窟の入り口へと戻る。
ナルゴルに帰ったらやる事が沢山ある。忙しくなるかもしれない。
その事に思いを馳せながら歩く。
そして洞窟の入り口へたどり着いた時、敵意と共に強烈な魔力の流れを感じた。
「ちょ……これは!!!」
クロキはグロリアスを止めると魔法を発動させる。
空間に穴を作り、対象を吸い込む魔法だ。
クロキは魔力を込めて通常よりも巨大な
クロキが
間一髪であった。
光は暗黒の穴へと吸い込まれ消えていく。
クロキはその光には覚えがあった。
昨日の夜にレイジが使った光の魔法である。
あの魔法を通常の防御魔法で受けようとしたらその防御魔法ごと消滅させられていただろう。昨日あの魔法を見ていた事でなんとか対処できた。
「グロリアス。ここで待っていて」
グロリアスを洞窟の入り口から少し入った所で待機させクロキは1人洞窟の外へと出る。
思ったとおり、そこにはレイジ達がいた。
その数は7人。レイジの妹であるキョウカという女の子を除き全員である。
もちろんその中にシロネもいる。
クロキは何故ここにいるのかわからなかった。
だから、完全に不意を突かれた。
「暗黒騎士!!」
黒髪の女の子、水王寺千雪が叫ぶ。
「あなたは確かに強いわ。私達1人1人が相手では敵わないでしょうね。でも私達全員が相手ならどうかしら?」
水王寺千雪がそう言うとレイジ達が武器を構える。
(ちょっと待て―――!!)
クロキは心の中で絶叫するのだった。
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