第7話 女神との再会

 勇者達がこの国に来た後、クロキはレンバー達と共に勇者達の護衛をするべく滞在する館の前に集まる。

 クロキはシロネ達の格好を思いだす。


(すごい格好だった……)


 その姿は脳内のフォルダに保存済みだ。いつでも引き出せる。

 シロネ達の姿に通りにいる男達は食い入るように見ていた。

 そりゃ見るだろう。クロキもふらふらと引き寄せられそうになったぐらいなのだから。

 ひさしぶりに見た刺激的な物に下半身がのっぴきならない状態になっている。

 今のクロキは外套で隠さなければ完全に変質者だ。

 そもそもナルゴルは刺激が少ない。クロキの周りには人外しかいない。唯一人間に近い姿をしている魔族の女性とダークエルフはモーナの側近であり、モーナがあまり自分の事を好きではないので近づく事もできない。

 クロキはこの間助けた人間の姫であるリジェナを思い出す。

 奴隷なのだから頼めばエッチな事もさせてくれそうな気がする。しかし、リジェナの将来を考えれば、一時の劣情によって傷物にするわけには行かなかった。

 一度身柄を預かった以上出来る限り最後まで面倒をみてあげたい。

 クロキは将来的には彼女を人間の社会に帰そうと思っているのだ。将来彼女の夫になる人物とうまくいくように無傷で帰すのが良いだろう。


(それにしても歩きにくい)


 クロキは昨日の浴場での冗談で言っていた事のように本当にその手の店に行こうかと考える。

 あの時は、冗談でああ言ったがなんとなくお金で女性を買うようなのであんまり良くないと思う。


(それもこれもシロネ達が悪い。あの姿は本当にいけない。シロネのおしりが丸出しではないか)


 小さい頃は一緒にお風呂に入ったが、成長してからは水着姿も見ていない。

 あんなに成長してたのかとクロキは幼馴染の成長にこっそり感激する。

 胸は大きくふくらんで腰はくびれていて、その成長ぶりにドッキドッキである。

 シロネは自分の知らない所でレイジの前ではいつもあんな格好をしているのであろうか?

 クロキはそんな事をを考える。

 通りを歩いていたレイジの顔を思いだす。

 レイジの顔は得意満面だった。

 レイジの表情が物語っている。どうだ、お前達にはこんな良い女を連れて歩けないだろう。と見せびらかしているのだ。

 あのレイジを見た通りにいた男達は、レイジにもげろと念じていたに違いないとクロキは推測する。


(レイジがすっごく羨ましい。自分が頼んでもシロネはあんな格好をしてはくれないだろう。そんな事を頼めば無言で拳が飛んでくるに違いない)


 考えていると落ち込んでしまう。だがおかげで下半身が落ち着いてくる。

 

「どうしたんだ? クロ?」

「何でもないです。ガリオス」


 隣のガリオスが心配するが、クロキは何でもないよと答えるしかなかったりする。


「そうか、それにしてもレンバーは遅いな。何かあったのか」


 現在レンバーは護衛の打ち合わせのため、館の中に入っている。

 クロキ達は館の外で待機中だ。


「もしかすると、昨夜のゾンビの事で何か話し込んでいるのかもしれないな。もしかするとストリゲスの生き残りがいるのかもしれないからな」

「ストリゲス? 昨夜話をしていた魔物ですか? ガリオス殿?」

「そうだクロ。昨夜のゾンビはそのストリゲスが操っているのかもしれねえ」


 クロキは昨晩ガリオスから聞いた事を思い出す。

 ストリゲスという魔物がいる。

 その姿は鳥と人間の女性を掛け合わせた物だ。

 中央山脈に生息しているハーピー族や南の海に出没するセイレーン族によく似ている。

 違うのはハーピー族は鷲の翼を持ち、セイレーン族は海鳥の翼を持つのに対してストリゲスは梟の翼を持つ。

 梟と人間の女性を掛け合わせた姿のためかストリゲスは夜行性である。

 だがそれだけなら危険はない。ストリゲスの恐ろしさは人間の血を吸う所にある。また彼女達は種族の特性として死霊魔術に長けていた。

 そのストリゲスの一族がいつの頃かロクス王国の近くに塔を築き住み着いたのである。

 そのストリゲスのせいで周辺諸国のたくさんの人間が犠牲になった。それはこのロクス王国でも同じである。

 翼を持ち空を飛ぶ彼女達を前に城壁は意味がなく防ぎようがなかった。

 彼女達は日中は動く事ができないので、倒すなら昼に向かわなくてはならなかった。しかし、昼の間ストリゲスは塔に引きこもっていて、中に入っても巧妙に仕掛けられた罠や彼女達が呼び出したアンデッド等に阻まれて討伐は上手くいかなかった。

 幸いかどうかはわからないが、ストリゲスは餌である人間を滅ぼすつもりがなく周辺の国が亡ぶような事まではしなかった。しかし、それでも犠牲は出る。

 そして、ある日の事だった。

 ストリゲス達は自らが崇める神の生贄とすべく、ロクス王国に対して姫であるアルミナを攫おうとしたのである。

 もちろんレンバーやガリオスは抵抗した。

 しかし、ストリゲスは強くどうしようもなかった。

 そんな時だった。アルミナに救世主が現れる。

 それが、勇者レイジとその仲間だ。

 レイジにとって何百体ものアンデッドなど敵ではなく、魔法で疑似的な太陽を作り出してアンデッド達を一瞬で消滅させ。

 また、ストリゲスが住む塔に向かうと一匹残らず殲滅したのだった。

 だから、ストリゲスはもういない。

 そのはずだった。

 だが、祭りの日に合わせたかのように再びゾンビ達が現れた。

 ストリゲスの生き残りがいたのかもしれないとガリオスはクロキに説明したのである。

 ストリゲスはこの国を恨んでいるに違いない。

 だが、ロクスの人達で対処するのは難しい。だから勇者達の力を借りたい。

 その事をレンバーは勇者に言っているのかもしれなかった。


「なるほど、それで遅くなっているのかもしれませんね。あれ、ガリオス殿。どうやら戻って来たようですよ」


 やがて、レンバーが戻ってくる。

 浮かない顔だ。

 何かあったのだろうとクロキは推測する。


「すまない、みんな集まってもらったのに、どうやら護衛はいらないみたいだ」


 レンバーが説明する。

 何でも 勇者について来た神殿騎士達によって護衛を断られたそうだ。

 そして、勇者様に仇なす者がいないかどうか、見回りをするように言われたそうだ。

 完全にこちらを下に見ている。

 その神殿騎士達の無礼な態度に選抜された自由戦士の中には憤る者もいる。

 レンバーは短い間に信頼できる者を集めたようだが、その努力は無駄だったようだとクロキは思う。


「すまない。折角集まってもらったのに……」

「仕方がねえぜ、あの名高い神殿騎士が護衛についているんじゃ俺達の出る幕はないぜ」


 レンバーは集まってくれた全員に謝ると、ガリオスが慰める。


「まあ仕方ないですよレンバー殿。努力をしても実らない事もあります」


 もちろんクロキも特に気にしていない。

 集められた自由戦士の中には怒る者もいるが、それはガリオスが説得してくれた。

 クロキが聞いた所によると、聖レナリア共和国の神殿騎士団は大陸東部で最強だそうだ。

 その騎士が20名も来ているのだ、クロキも自分達の出る幕はないだろうと感じていた。

 神殿騎士がいうように見回りでもするしかないだろう。

 レンバーは少し情けなく思っているようだが、クロキとしてはこれで良かったのではないかと思っている。

 こうしてレンバーは見回りにそんなに人はいらないので自由戦士達も解散させた。

 残っているのはクロキとガリオスだけとなる。


「俺はレンバーに付き合って見回りをするが、お前さんはどうする、クロ?」


 ガリオスがクロキに尋ねる。


「そうですね、自分も見回りをしてみます。そして、特に問題がなければ祭りを見学してみようと思います」

 

 クロキがそう言うとレンバーが手伝ってくれてありがとうと感謝する。

 

「別に構いませんよレンバー卿」

「そうだ、クロ。見回りが終わったらこの国に来ている女をひっかけてみたらどうだ」


 クロキがそう言って去ろうとした時だった、突然ガリオスがクロに女性を誘う事を進める。

 観光客目当てで沢山の娼婦がこの国に来ている。それを狙えとガリオスは言う。


(そうは言っても、今までナンパとかした事ないのだけどな……。それともそんなに物欲しそうに見えたのだろうか?)

 

 クロキは以後気を付けようと思う。

 勇者の連れた女性達のあの姿を見たせいで、今この国のその手の店は大盛況になっているだろう。今頃劣情を刺激された男達がわんさか押しかけているに違いないとも思った。


「ええと、頑張ってみます……」


 クロキは苦笑いを浮かべながら言う。

 そもそも、ガリオスの言葉は冗談ぽかったのだから気にする事もないと思うのだった。

 そして、クロはそのまま歩き出す。言ったとおり見回りに行くつもりだった。


「うまくいったら部屋に連れ込め、ペネロアには言っておくからよ」


 なおもガリオスがクロの背中に声を掛ける。

 クロキは後ろ向きに手を振るしかないのだった。


(さて、見回りを開始するか、だけどレイジ達を護衛するのは馬鹿らしいな。だけど、約束した事でもあるし、適当に見ておくか)


 クロキはこの国で一番高い建造物である城壁の上まで登るとロクス王国の街並みを見る。

 この世界に来てからクロキの視力は格段に良くなっていた。

 城壁の上からでも人々が何をしているのか細部まで見る事ができる。

 怪しい奴がいないか見てみる。

 中央を見る。そこには見るからに危なそうなグヘグヘ言っている1団がいた。

 聖レナリア共和国でも見かけたリノの親衛隊だ。リノの絵が描かれた旗を持っている。


(こんな所まで追いかけて来ていたのか……。危ない連中だけど、あの程度なら神殿騎士でも対処が可能だろう。あれは放っておこう……)


 クロキは呆れて違う所を見ようとして異変に気付く。


(そういえば、なんで彼らの周りに人だかりができているのだろう?)


 クロキは目を凝らして見て気付く。


 彼らはレイジの側にいる女の子達の肖像画を売っていたのだ。リノだけでなく、シロネの他にも全員分がある。しかも今日着ていたコスチュームの肖像画だ。

 おそらく版画か何かで量産したのだろう。かなりの数を持ってきているようだった。

 こんな重要な情報を見落としそうになるとは、クロキは自分のうかつさに歯噛みする。


(危なく見落とすところだった。よし後で買いに行こう)


 次にクロキは右側を見る。特に誰かいないか探してみると神殿騎士が5人程見つかった。

 先程会った神殿騎士とは違う人達だ。

 彼ら神殿騎士と会うのは2度目だ。レーナ神殿に侵入したときと同じように統一された鎧を着ている。

 

(なぜこんな所にいるのだろう? 考えられるのは交代で護衛を休んでいるからだけど……。何か様子が変だな)


 見ると彼らは一般人の男性達と争っているようだった。

 クロキは耳をすませ彼らの会話を聞く。どうやら娼婦の取り合いになっているようだった。


(神殿騎士はレーナに愛を誓い、他の女性に心惹かれるはずがないはずなのだけど、実際は違うのなか? まあ、あんな格好をしたシロネ達の側にいたら蛇の生殺しだろうし、おかしくなっても仕方がないだろう。むしろ人間らしい反応だ)

 

 クロキは神殿騎士達のサボりを見なかった事にすると、最後に左側を見る。

 特に何もないようだ。

 だがそこで1人の女性らしき者に目が留まる。その女性はフードをかぶり顔を隠している。姿かたちはそこらにいる観光客と同じだ。

 しかし、クロキは何故か目が離せなかった。

 なぜだろうと思い目を凝らす。そして彼女の正体に気付き驚く。


(意図的に見なければ気付かなかった!? なぜこんな所に彼女がいる!? まさか、本当に勇者達にとって危険な存在が来ているとは思わなかったぞ!)


 クロキは急いで城壁を下りると走る。

 そして目当ての女性の所まで行く。

 女性がこちらに気付く。


「あ……、暗黒騎士!?」


 女性がこちらを見て驚愕する。


「おひさしぶりです。女神レーナ」


 クロキは女性の前で礼をする。

 普通の人間の振りをしているが、クロキの目は誤魔化せない。

 目の前にいる女性は間違いなく女神レーナであった。

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