第41話 迷宮都市ラヴュリュントス16 光と闇の輪舞

 クロキが第13階層の奥に辿り着いた時だった。

 牛頭の邪神ラヴュリュスがチユキに対して斧を振り降ろそうとしているのを目撃する。

 考えている暇はなく、クロキは思わずチユキを助けてしまう。

 彼女にクロキは以前に殺されかけた事がある。また、殺しに来るかもしれない。

 それでもクロキは彼女を助けずにはいられなかった。

 クロキの後ろではチユキが尻もちをついている。

 チユキはクロキを見ている。

 切れ長の瞳と目が合う。

 綺麗だけどきつい目だ。クロキは何故か責められているような気がした。


「チユキさん! 大丈夫っすか?!!!」


 短い髪の女の子ナオがクロキ達の方へと来る。


「ええ、大丈夫よナオさん……。彼が助けてくれたから」


 チユキが指さすとナオがきょとんした瞳でクロキを見る。

 クロキは彼女には言わなくてはいけない事がある。

 そう思い彼女に手を差し出す。


「何っすか?」


 急に手を差し出されナオが首を傾げる。


「仲間を返してくれませんか?」

「おや、お兄さんはルビーを迎えに来たみたいっすね。ルビー、迎えが来たっすよ」


 ナオはそう言って腰の袋からナットを出すと縛っていた紐を外す。


「クロキ様~!!!」


 ナットがクロキに飛びつく。


「えっ? そのネズミ喋るの?!!」


 チユキは驚きの声を出す。

 それに対してナオは平然としている。


「助けに来てくれるとは思わなかったでヤンス!!!」


 ナットがクロキの顔にへばりついて泣く。


「もちろん助けるさ。それから下がっていてくれるかいナット。今から邪神と戦うから」


 クロキは顔からナットを離し床に置く。

 彼女達の防御魔法の範囲に入っていればナットは無事であるはずだった。


「わかったでヤンス」


 ナットが離れるとクロキはラヴュリュスを見る。

 倒れたラヴュリュスは起き上がりこちらを見ている。警戒しているのか近づいてこない。


「援護するわ」


 チユキが助力を申し出るがクロキは手で制止する。


「大丈夫です。貴方は疲れているみたいだし下がっていてください。後は自分がやります」


 クロキはそう言ってラヴュリュスの方へと向かう。


「何故暗黒騎士がここにいる?! なぜ勇者を助ける?!!!」


 邪神ラヴュリュスが叫ぶ。

 クロキとしてはレイジを助けるつもりはない。

 これはただのなりゆきなのである。


「この炎は邪魔だな……」


 クロキは黒い炎を出して部屋に充満している赤い炎を打ち消す。


「馬鹿な!!俺のモロクの火を消しただと!!!」


 驚愕するラヴュリュス。


「悪いけどヘイボス神から頼まれているんだ。貴方を倒して欲しいとね……」


 クロキは剣を構える。


「待て!!!」


 クロキが向かおうとすると後ろから声を掛けられる。

 振り向くとレイジがこちらへと来る。


「何かな……」

「お前の助けなんかなくても俺は勝てる! 余計な事をしないでもらおうか!!!」


 そう言って2本の剣を構える。その内の1本は折れている。


「別に助けるつもりはないよ……。好きにすれば良いよ」


 クロキがいなくても助かっていた可能性はある。

 それにクロキは恩に着せるつもりもない。

 クロキはレイジを無視してラヴュリュスに剣を向ける。


「なぜ光の勇者と暗黒騎士が共に俺に向かってくる! どういう事だ!!」


 ラヴュリュスが斧を構える。

 クロキとレイジがラヴュリュスに向かう。

 暗黒騎士と光の勇者と邪神の三つ巴の戦いが始まるのだった。






「ねえチユキさん、これはどういう状況なの?」

「そんな事を言われても私にも状況がわからないのだけど……」


 チユキの目の前ではレイジと暗黒騎士がラヴュリュスと戦っている。

 援護をする必要はない。

 なぜなら、明らかにレイジ達の方が押しているからだ。

 ラヴュリュスは2人の攻撃に押されている。

 これなら援護をしなくても大丈夫そうであった。

 それにチユキも魔力を使いすぎて余裕がない。

 休まなければならないだろう。

 レイジを除く他の仲間達も疲れた顔をしている。

 特にサホコの負担は大きかった。

 ずっと治癒魔法と防御魔法を唱えていたのだ、無理はない。

 今サホコは横になっている。

 チユキはお疲れ様と言いたかった。


「状況はわからないけど助かったっす……」

「ええ、そうね……」


 チユキは頷く。

 暗黒騎士の彼が来たことで状況は逆転した。

 ラヴュリュスは暗黒騎士に炎と雷で攻撃するが、全く効いていないみたいだ。

 斧や槍や剣で攻撃するが簡単に受け流されている。

 また、暗黒騎士の怒涛の攻撃を盾で防ぎきれていない。

 暗黒騎士はラヴュリュスを圧倒している。とんでもない強さだ。

 それにレイジもいる。

 レイジは暗黒騎士の彼と共にラヴュリュスを攻撃している。

 レイジの光の剣と彼の黒い炎が踊るように舞う。

 それは光と闇の輪舞曲であった。





「閃光烈破!!!」


 レイジの剣がクロキの後ろからラヴュリュスを襲う。

 クロキは体を反らしながらレイジの剣を避ける。

 レイジの攻撃は自分がいる事を考慮していない。

 レイジからしてみればクロキは仲間でもなく、ただ同じ敵を攻撃しているだけの存在だ。

 だからクロキが前にいるにも関わらず平気で広範囲の魔法を使ってくる。

 もっとも、レイジが第1に狙う相手はラヴュリュスなので、クロキが気を付ければ済む話だ。

 背中から来るレイジの斬撃を身をかがめて躱す。

 斬撃はそのままラヴュリュスを斬る。

 クロキが間に立っている事でレイジの攻撃に対応するのが遅れてしまったのだ。

 ある意味連携が取れていると言える。


「何故だ! 何故光の勇者と暗黒騎士が協力している!!!」


 レイジの攻撃を受けたラヴュリュスが膝を付いて叫ぶ。

 本当は協力なんかしていない。

 連携しているように見えるかもしれないが、後ろから来るレイジの攻撃をクロキがただ躱しているだけだ。

 息を合わせて戦っているわけではない。

 ラヴュリュスが口から炎を角から雷撃を出す。

 だけどクロキには炎も電も効かない。

 ラヴュリュスが斧や槍を向けて来る。

 しかし、振りが大きすぎるのでクロキならば受け流すのはたやすい。

 クロキは斧と槍を受け流して返す剣でラヴュリュスの腕を斬り裂く。

 そして、そのまま横へと逃れる。

 それまでクロキがいた位置をレイジが剣を構えて突っ込んで来る。少しでも遅れていたらクロキも串刺しになっていただろう。

 レイジはそのままラヴュリュスに向かう。

 ラヴュリュスは盾で防ごうとするが間に合わず、吹き飛ばされる。


「ブモオオオオオオオ!!」


 ラヴュリュスは床を転がる。

 しかし、すぐに部屋が光り回復する。

 ラヴュリュスは何事もなかったように立ち上がる。


「これぐらいでやられるかああああああ! 俺は負けんぞ!!!!」


 ラヴュリュスは叫ぶ。

 ラヴュリュスの攻撃はクロキには効かず、クロキ達の攻撃もダメージを与えてもすぐに回復される。

 そのため、戦いは膠着状態になってしまっていた。


(いい加減、面倒臭い。そろそろ決着をつけよう)


 クロキはこの部屋の奥にいる者にそれとなく合図を送る。


「シロネ! 今だ!!!」


 クロキが叫んだ時だった、この部屋の入口から奥にある祭壇に向かって猛烈なスピードで何かが飛ぶ。

 入って来たのは当然シロネである。


「何だ?!」


 ラヴュリュスはシロネに気付くがもう遅い。

 猛烈なスピードで飛んで来たシロネは祭壇に辿りつく。


「何をするつもりだ!」


 ラヴュリュスが祭壇に戻ろうとするのをクロキは前に立ち阻止する。


「悪いけど行かせないよ!」


 クロキがそう言った瞬間だった。突然、部屋全体が光に包まれる。

 光が収まると周囲の景色が変わる。


「ここは?」


 ラヴュリュスは周りを見る。

 今いる場所は第13階層の地下ではない。迷宮の地表部分だ。


「緊急の転移魔法だよ。ヘイボス神はもし迷宮が攻め落とされるような事態になった時のために、脱出装置を第13階層に作っていた。これは貴方も知っているはずだよ」


 クロキは剣をラヴュリュスに向けて言う。

 第13階層は普通の転移魔法は使えない。だけど緊急用に脱出する方法が用意されていた。

 ラヴュリュスが座る玉座の後ろの祭壇にある魔法装置を起動すると、あの部屋にいる全ての者が迷宮の外へと強制的に転移させられる仕組みがあったのである。


「これでもう回復する事ができない! もちろん逃がすつもりもない! 貴方の負けだラヴュリュス!!!」


 そう言ってクロキは魔剣をラヴュリュスに突き付けるのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る