第40話 迷宮都市ラヴュリュントス15 合流

 戻って来るクロキ達を出迎えるために女神レーナと戦乙女達は迷宮の上空に来ている。


「レーナ様。大丈夫でしょうか、レイジ達は」


 ニーアが心配そうに空船の上から下を見ている。


「そんなに心配なの、ニーア?」

「いっ、いえ! 別に心配などしてはおりません!!」


 ニーアは慌てた声を出す。

 その態度はわかりやすかった。


「大丈夫ですよ、ニーア。きっと助かります」

「レーナ様は信用しているのですね。彼を……。きっと生きて戻ってくると」

「もちろんですよ」


 レーナはレイジ達が戻って来る事を疑っていない。

 何しろ自身の騎士であるクロキが迷宮に入っているのだ。

 だから心配する必要はないのである。

 だけどニーアは違うようだ。

 他の戦乙女も心配そうに下を見ている。

 それを見てレーナは溜息を吐く。

 レイジは美男子で戦乙女達にも人気がある。

 中にはレーナの許可があればレイジに近づきたいと思っている者もいるようであった。

 その為レイジの事が好きになれないレーナとしては複雑な心境だ。


「皆、そこまで心配する必要はありませんよ。必ずレイジは帰ってきます」

「はい、わかりましたレーナ様」


 戦乙女達が笑う。 


(少しは気が晴れただろうか?)


 そんな事を考えてレーナはナルゴルの方向を見る。

 クロキが戻って来ないのでしびれを切らした娘がアリアディアに向かって来ているのだ。


「速く帰ってきなさい……。あの子が迎えに来ているわよ」


 レーナはそっと呟くのだった。





「もうすぐだグロリアス!! もうすぐクロキの所だ!!」


 白銀の髪の少女クーナは魔竜グロリアスに乗って空を飛ぶ。

 クーナの左手にある魔法の指輪はクロキの居場所を教えてくれる。

 長い間クロキに会っていないのでクーナは限界であった。

 だから、迎えに行っているのだ。


「待っていろクロキ!! すぐに迎えに行くぞ!!」





「もう限界だよ、チユキさん」

「ナオも動けないっす」


 リノとナオは疲労した顔でチユキに言う。

 その顔を見てチユキは焦りを感じる。

 2人とも可愛い顔が台無しだ。

 いつもリノとナオは元気はつらつで、疲れた顔を見せない。

 それが、こんな風になるとは思わなかったからだ。


(おそらく、この迷宮ではラヴュリュス以外はいつもの力が出せなくなっているのだわ。私の魔力の消費もいつもより大きい……)


 チユキも同じように疲れを感じていた。

 チユキの横にいるサホコも治癒魔法と防御魔法を何度も唱えたせいで疲れ切っている。

 唯一元気なのはレイジだけであった。

 レイジだけはラヴュリュスに挑んでいる。

 それもいつまで持つのかわからなかった。

 ラヴュリュスは迷宮から力を貰っているため、この場所なら永遠に戦う事ができる。

 最悪な状況である。

 しかし、チユキもまたレイジと同じように戦わなくてはならない。


「立って、リノさんサホコさん……。レイジ君を助けないと」


 チユキは杖を構える。

 限界まで戦うつもりである。

 目の前でレイジとラヴュリュスが戦っている。

 レイジは諦めない。

 どんな劣悪な状況でも諦めずに戦い。そして最後には勝利して来た。

 だからチユキも諦めない。

 すると同じようにリノもサホコも立ち上がる。


「なんなんだ、お前達は! なぜまだ戦える?!」


 ラヴュリュスは叫ぶ。

 その声は明らかに苛ついている。

 いい加減面倒臭くなっているのだ。


「ふん、俺達が諦めるかよ!!!!!」


 レイジは2本の剣を構えて笑う。

 それを見てラヴュリュスがさらに不機嫌になる。


「もういい! この手だけは使いたくなかったが! もう面倒だ!!全力で殺してやる!!!」


 そう叫ぶとラヴュリュスの体が赤くなる。


「まさか、今までは本気じゃ無かったっすか!!!」


 ナオは驚きの声を出す。

 チユキは信じられなかった。まだ奥の手があるのだろうか?


「我が内にあるモロクの火よ! この場にいる者を焼き払え!!!」


 ラヴュリュスは叫ぶとその体から炎が噴き出す。

 炎はやがて部屋全体へと広がろうとする。


「光よ!!!」


 サホコは魔力を振り絞り全力で防御魔法を唱える。

 チユキ達の体が光に包まれ炎を防ぐ。


「ありがとう、サホコさん!!」


 チユキはサホコを見る。

 笑っているが、魔法を使う事がきつくなっているのか、その顔は辛そうであった。


「きゃあああああ!!!」

「いやあああああああ!!!」


 叫び声がラヴュリュスの背後から響く。

 炎はラヴュリュスの後ろにいた女性達の方にも向かっていたのだ。

 女性達は逃げるが炎に巻かれて消えていく。


「あなた! 彼女達も殺すつもりなの?!!」

「ふん!! メスの代わりなどいくらでもいる! また攫えば良いだけの事だ!!!」


 ラヴュリュスはつまらなそうに言う。


「なんて奴なの!!!」


 チユキはラヴュリュスを睨む。


「エウリア!!」


 レイジは急いで炎から逃げるエウリアの所に駆けつける。

 間一髪エウリアはレイジにより炎から守られる。

 エウリアを助けたレイジは飛び上がると、チユキ達の方に戻る。


「どうして? レイジ様? 私は貴方を騙したのに」


 エウリアは不思議そうにレイジを見る。


「俺は自分の女を見捨てない。安心しろよ、エウリア」

「レイジ様……」


 エウリアの潤んだ瞳でレイジを見ている。


(助けるのは良いけど、防御する対象が増える分サホコさんの負担が増えるのだけど。その事がわかっているのかしら?)


 チユキはそれを冷たい目で見る。


「このモロクの火は俺の魔力が尽きぬ限り消える事はない。いつまで防ぐ事ができるかな?」


 ラヴュリュスは近づいて来る。

 レイジはエウリアを下がらせると1人ラヴュリュスに向かう。

 チユキとリノは水の魔法で援護しようとするが発動しない。

 モロクの火がある所では水の力が弱くなる。

 迷宮の力と合わさり、チユキ達が水の魔法を使う事を阻害していたのである。


「もはや援護は望めないぞ、勇者!!」

「それがどうした! 俺だけでも戦ってやる!!」


 レイジとラヴュリュスが戦い始める。

 チユキは見ている事しかできなかった。

 それが、とてももどかしかった。


「なぜだ! 何故戦える! お前にとって絶望的な状況のはずだ何故絶望せずに戦える!!」

「俺の女が背後にいるんだ! カッコ悪い所を見せられるかよ!!!」

「ならば! その女の方から殺してやろう」


 レイジに向かうと見せかけたラヴュリュスがチユキ達の女性陣の方に来る。


「みんな散開して!!」


 チユキが叫ぶと仲間達がばらばらに逃げる。

 一番動きの遅いサホコにはナオが支援する事でラヴュリュスから逃れようとする。


「いやーーーーー! お父様!」


 エウリアが叫び声を上げる。

 ラヴュリュスはエウリアを狙ったようだ。


「自分の娘を狙うのかよ!」


 レイジは猛烈なスピードでエウリアの前に立ちラヴュリュスの攻撃を防ぐ。

 エウリアは腰が抜けているのか動けない。完全な足手まといだ。

 エウリアが後ろにいるため動けないレイジにラヴュリュスが攻撃する。

 レイジは2本の剣で攻撃を防いでいるが危ない状況だ。


「うわあああああ!!」


 レイジの持つ剣の1本が折れて背中のエウリアと一緒に弾き飛ばされる。


「レイジ君!!!」


 チユキは叫ぶとありったけの魔力を込めて魔法弾をラヴュリュスに放つ。

 注意をこちらに向けてレイジに向かうのを阻止しなければならなかった。


「このメスが! 五月蠅いぞ!!!」


 レイジに向かっていたラヴュリュスがチユキに向かう。


「えっ、こっちに来るの! 逃げないと! あれ……」


 チユキは逃げようとして転ぶ。立ち上がろうにも力が入らない。


「魔力切れ……」


 チユキは魔力を使い過ぎた事で力が入らなくなってしまっていたのである。

 足を動かそうにも言う事を聞かない。


「チユキさん!!!」


 ナオがチユキを助けようと向かうが、逆方向に逃げてしまったので遠く間に合わない。

 近付いたラヴュリュスはチユキに向かって斧を上から振るう。

 チユキは迫ってくる斧がスローモーションに感じる。


(嘘、私死ぬの? 嫌だ! 誰か助けてよ!)


 チユキは思わず目を瞑る。


「ブモオオオオオオオ!!!!」


 突然ラヴュリュスの叫び声がする。

 斧はチユキに当たっていない。

 チユキが目を開けると何者かがチユキの前に立っていた。

 ラヴュリュスはチユキから離れた場所で倒れている。


「大丈夫ですか?」


 チユキを助けた何者かが振り向かずに声を掛ける。

 チユキはこの声を聞いた事があった。

 ロクス王国の地下で助けてくれた男性の声だ。

 男性が振り返りチユキを見る。


「貴方は……」


 呟きチユキは男性を見る。


(どうして彼がここにいるの? どうして、私を助けてくれたの?)

 

 チユキは混乱する。


「後は自分がやります。下がっていてください」


 そう言うと男性の体が黒い炎に包まれる。

 黒い炎が消えるとそこには漆黒の鎧を身に纏った暗黒騎士が立っていた。


(ロクス王国で私達を助けてくれたのは、彼だったのね……)


 そこでチユキは気付くのだった。


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