第42話 迷宮都市ラヴュリュントス17 迷宮からの脱出

 クロキの合図でシロネは光の翼を背中から生やすと部屋の入口から祭壇に向かって飛ぶと、魔法装置を作動させる。

 祭壇の起動方法は前もって知らされていたので、何とか起動させる事ができた。 

 魔法装置は起動して、あの場にいた全員が迷宮の外へ転移している。

 これは前もってクロキと打ち合わせていた事であった。

 ラヴュリュスはあの迷宮にいるかぎり無限の力を得る。

 だから迷宮からラヴュリュスを引きずり出さなければいけない。

 そのためにシロネとクロキは設計図にあった緊急のための転移魔法装置を使う事にした。

 クロキがラヴュリュスを引き付けている間に、シロネが魔法装置を起動させる。

 全てうまくいった。

 魔法装置が起動して全員が迷宮の外へと強制的に転移させられる。

 転移先は迷宮の地表部分の広場である。

 シロネは空中で1回転するとチユキさん達の所へと降り立つ。


「「「シロネさん!!!」」」


 シロネの元にチユキ達が集まる。


「良かった!みんなが無事で!!!」


 シロネは仲間達を見る。疲れているみたいだけど大丈夫そうである。


「ええ助かったわ、シロネさん。彼のおかげでね」


 チユキはクロキの方を見る。

 まだ戦いは終わっていない。

 クロキとレイジ君がラヴュリュスとまだ対峙している。

 だけど、シロネは勝利を確信している。


「すごいっすよ、シロネさん! 2人の息がぴったりだったっす!!」


 ナオは興奮した声を出す。


「本当にそうだよね。初めて一緒に戦っているはずなのに……」


 シロネも部屋の入口から2人の戦いを見ていた。

 2人が共に戦う姿は感動的だった。

 きっと、これがシロネの望んでいた光景なのだろう。

 そう思っているときだった。突然空が光り輝く。

 シロネ達は頭上を見る。

 そこには巨大な船が飛んでいる。

 船の周りには武装した女天使達が飛んでいる。

 そして船の先頭に誰かが立っている。


「あれはレーナ?」


 船の先頭には武装した女神レーナが立っている。

 どうやら、迎えに来てくれたようであった。

 





 クロキの頭上に光る船が浮かんでいる。

 その船の先頭に槍と盾を持ったレーナが立っている。

 おそらく迷宮の遥か頭上で待機していたのだろう。

 クロキ達が迷宮の地表部分に転移して来たので降りて来たようだ。

 クロキだけでなくレイジもラヴュリュスも戦いをやめて空を見上げている。


「久しぶりですね、ラヴュリュス」


 船の上からレーナはラヴュリュスに向かって優しく微笑む。

 離れた所にいるがクロキの視力ならその顔をはっきりと見る事ができる。それはレイジもラヴュリュスも一緒のようだ。


「レ、レーナ! 俺の所に来てくれたのか?! 俺の愛を受けてくれるのか?!!!」


 ラヴュリュスは自分に都合の良い事を言う。


「御免なさい、ラヴュリュス。私が愛するのは彼だけです。だから、貴方の愛を受けることはありません」


 そう言ってレーナはクロキとレイジがいる方向を見る。


「その男を選ぶと言うのか!!!!」


 ラヴュリュスが叫ぶ。


「そのとおりですよ、ラヴュリュス。私は彼の事を愛しています。彼の事を想うと夜も眠れないほどなのですよ」


 そう言うとレーナの蕩けそうな笑みを浮かべる。

 そのレーナの瞳が熱っぽい。

 女神の愛の告白に周囲がどよめく。

 横にいるレイジが嬉しそうに笑っている。

 それもそうだろう。レーナは美しい女神だ。その女神から愛していると言われて喜ばない男はいない。


「くそがあああ! 殺してやる!」


 ラヴュリュスは叫ぶとレイジに攻撃する。

 しかし、レイジはそれを簡単に避ける。


「小さい男だな、邪神ラヴュリュス! 好きな女が自分に振り向いてくれないからその男を攻撃するのかよ! 男だったら好きな女の幸せを願って黙って身を引けよ!!!!」


 レイジは楽しそうに笑いながらラヴュリュスの攻撃を避けている。


「黙れええええええ!!!!!」


 ラヴュリュスはなおも攻撃をする。


「どんどん来いよ、ラヴュリュス! 俺はお前のような男を返り討ちにするのが好きなんだ! 男としての格の違いを教えてやる!!!」


 レイジとラヴュリュスの戦いが始まる。

 後ろにいたシロネや他の女の子達もレイジを援護する。

 また、空にいる武装した天使達も参戦するために舞い降りる。

 もはやラヴュリュスに勝ち目はない。

 クロキはそっとその場から離れる。

 もはやクロキが戦う必要はない。ナットも助けた。

 そもそも、何が悲しくてリア充男を助けなければならないのだろう。


「クロキ様~~!!」


 ナットがこちらに来る。ナットも地表へと転移してきたようだ。


「ナット。先にナルゴルに戻ってくれないか?」

「先にでヤンスか?」

「ああ、クーナがこちらに向かっているみたいだ。迎えに行ってやらないと」


 クロキは指輪をはめた左手を見る。

 クーナがこちらに来ている。どうやら待ちきれず迎えに来ているようであった。


「わかりやしたでヤンス。陛下にはこちらから報告しておくでヤンス」

「ありがとう、ナット」


 クロキは魔法の道具を使いナットを転移させる。

 そしてラヴュリュスとレイジ達の方を見る。

 ラヴュリュスは迷宮にいなくても強い。

 だけど、レイジ達の方が優勢だ。

 徐々に追い込まれている。


「行くかな……。これ以上はここにいる必要はないみたいだし……」


 この場を離れようとした時だった。中央山脈の方角から何かが飛んで来るのを感じる。

 クロキは急いでレーナの方向に飛ぶと、向かって来る何かを叩き返す。

 飛んで来たの槍だった。

 槍はそのまま来た方向へと戻る。

 クロキはそのまま空船へと着地する。

 助けるつもりはなかったのに体が勝手に動いてしまった。


「ありがとう、クロキ。守ってくれて」


 クロキは空船の甲板を見ると誰もいない。全員がラヴュリュスに向かっていったようだ。

 何人かは残ってレーナを守るべきだろうと思ってしまう。

 お陰でクロキがレーナを守るはめになってしまった。

 クロキとレーナは槍が飛んで来た方向を見る。

 中央山脈から巨大な鳥がこちらへと向かって来るのが見える。


「あれはルフ鳥! 何でこんな所に?!!」


 レーナは驚きの声を出す。

 ルフは南大陸に生息する巨大な鳥である。この地域には生息していないはずだ。

 クロキが良く見るとルフ鳥に誰かが乗っている。


「あれはザルキシス? それに他に誰か乗っているみたいだ……。レーナ、何者かわかりますか?」


 ルフ鳥に乗っている者は2人。

 1人はザルキシスだ。被っている仮面には見覚えがあり間違いはない。

 そしてザルキシスと一緒に女性らしき者が乗っている。

 女性は右手に槍を持ち赤い法衣を纏っている。


(彼女がレーナに槍を投げたのだろうか?)


 クロキは赤い法衣の女性を見る。

 女性は普通の人間のように見えるがザルキシスと一緒にいるのだから人間ではないに違いなかった。


「嘘……。蛇の女王ディアドナ。彼女が何でこんな所に……」


 レーナは目を開いてルフ鳥に乗る女性を見ている。

 クロキも蛇の女王ディアドナの事は聞いたことがある。

 南海諸島に住むゴーゴンとラミアに崇められる女神だ。

 そして、破壊神ナルゴルの配下だった女神でもある。

 彼女はザルキシスと同じように魔王モデスと敵対している。

 ルフ鳥は一定の距離まで近づくと止まる。

 その場にいた全員がルフ鳥に気付き戦闘を止める。


「助けに来たわ! ラヴュリュス!!」


 ディアドナはルフ鳥から降りる。

 降りながらディアドナが法衣を脱ぐと体が変化していく。

 背中から巨大な蝙蝠のような翼が生え下半身が巨大な蛇へと変わる。

 頭には巨大な2本の角が生え。瞳が黄金に輝く。


「いけない! 盾よ! その力を解放しなさい!!!」


 レーナは自身の盾を天にかざす。

 すると盾が青い光を放つ。

 ディアドナの瞳が輝きを増し辺りが光に包まれる。


「何だこれ……?」


 クロキは思わず呟く。

 強力な魔法の光だ。その光により周囲が見えにくくなる。

 そして光が消えた時、そこにはザルキシスもディアドナもラヴュリュスもルフ鳥もいなくなっていた。


「今のは……」

「ディアドナの魔眼ですよ、クロキ。まともに浴びれば神族であってもただでは済みません。しかしそれよりも……」


 そう言ってレーナはルフ鳥がいた方を見る。


「どうやら逃げられたようですね……。まさかディアドナが来るとは思いませんでした」


 レーナの表情が暗くなる。

 しかし、逃げられた以上はどうにもならなかった。


「元気を出して下さい、レーナ。逃げられましたがラヴュリュスの企みを阻止できたのです。貴方の勝ちですよ。ここは笑うべきです」


 クロキがそう言うとレーナが笑う。


「そうですね……。少し元気が出てきました。それから、もしまた彼らが現れたら、貴方が私を守ってくださいね」


 そう言ってレーナが顔を寄せて来る。


「いや、あの……」


 綺麗な顔が近づきクロキは慌てる。

 レーナはそんな様子を楽しんでいるのか嬉しそうに笑う。


「さて、そろそろ私も下に降りますね。レイジを出迎えねばなりません。また会いましょう」


 レーナはそう言うと空船から降りる。

 クロキが空船から下を見るとレイジの周りに女の子達が集まっている。

 女の子達はレイジを中心に笑い合う。

 再会を喜び合っているのだろう。

 その中にシロネもいる。

 シロネは仲間に抱き着き、再会できた事を喜んでいる。

 それを見て良かったと思う。

 できればシロネには幸せになってもらいたい。

 レイジの周りには可愛い女の子が沢山いるからシロネはなかなか愛してもらえないかもしれない。

 だけど、それもシロネの選んだ道であった。黙って見送るしかない。

 何より、クロキはもうこの事でシロネと喧嘩をしたくない。

 やがてシロネ達にレーナが合流する。

 レーナが来たことで女の子達は道を開ける。

 レイジがレーナの手を取る。

 レイジとレーナが並ぶと美男美女のカップルでとても絵になる。

 それを見て羨ましいとクロキは思う。

 シロネや他の美少女を手に入れておきながら、レーナという美しい女神を手に入れている。

 見ていると何だか悲しくなる。


「うう……やめよう……。これ以上見るのは。悲しくなるだけだ」


 クロキはそう呟くと魔法を使い空を飛ぶ。

 他人を羨んでも仕方がない。

 クロキは自分の幸せを追い求めるべきだ。

 ナルゴルの方向へと飛ぶ。


(クーナと合流しよう)


 クロキは夕焼けの空を1人で飛ぶのだった。




「チユキさん、何っすか今の光は?!!!」


 チユキの横にいたナオが叫ぶ。


「わからないわ……。おそらく何かの魔法なのでしょうけど……」


 突然、蛇女が現れると蛇女が目を光らせた。

 その目の光が消えるとラヴュリュスが消えてしまった。

 どうやら逃げられたようだ。


「見て! 天使達が!」


 チユキはリノが指した方を見る。

 そこには一緒に戦っていた天使が宝石のように透き通った彫像に変わっている。


「石化の呪いだわ……。多分死んではいないはずよ。後で解呪しなければならないでしょうけどね……」


 チユキは彫像になった天使を見て言う。

 石化の呪いは強力な呪いだけど死ぬ事はない。解呪すれば元に戻る。

 しかし、石化した状態で砕かれた時は別だ。

 早急に解呪する必要がある。


「それにしても強力な魔眼ね。レーナが防御魔法を使ったのに、まだこれ程の威力があるなんて……」


 チユキは戦慄する。


(蛇女が魔眼を発動させる前にレーナが防御魔法を使った。青い光が私達を守ってくれたから、私達は無事だったけど、私達よりも対魔力が低い天使達はそれでも抗えなかった)

 

 しかも普通の石像では無く、宝石の石像へと変えられている。

 エメラルドの綺麗な彫像へと変えられた天使達。生きてはいるだろうけど解呪するのは難しそうであった。


「あれと戦う事になるんすかね……」


 ナオはげんなりした表情で言う。

 チユキもあんな化物と戦うのはごめんだ。

 みんなの表情が暗くなる。


「もうみんな! 今はそんな事は良いじゃない! それよりも今は無事を喜ぼうよ!!」


 シロネが明るく言うとチユキに抱き着く。


「シロネ……」

「良かった、みんな!!!心配したんだよ!!!」


 チユキがシロネの顔を見ると泣きそうになっている。よっぽど心配していたのだろう。


「ああ悪かったよ、シロネ……。心配をかけた」


 レイジが笑うと仲間達全員も笑う。


「レイジ。無事で何よりでした」


 レーナがチユキ達の方へと来る。


「レーナ!!!」


 レイジはレーナの元へと向かう。


「すまない、レーナ! 心配をかけた!!」


 レイジがレーナの手を取り申し訳なさそうに言う。


「私はあなたの無事を信じていました。ですが少し不安だったのですよレイジ。彼が傷ついてしまうのではないかと……」


 レーナは少し憂いを帯びた表情で言う。

 チユキはレーナの今の言い方に少し違和感を覚える。

 ちょっと言い方がおかしい。そこは「貴方が傷ついてしまう」と言うべきだろう。

 だけどそんな些細な事はレイジにとってどうでも良い事みたいであった。

 レイジはレーナの言葉に感動した表情になる。


「悪かった、レーナ! もう心配をかけない!!」


 レイジはレーナに抱き着こうとするが、レーナはすっとレイジを躱す。


「レイジ……。無事を祝いたい所ですが今は皆を癒さねばなりません。だからまた後で会いましょう」


 レーナはそう言って彫像になった天使達を見る。

 天使達は全員が彫像になったわけではない。

 無事な者もいれば、部分的に石になっている者もいる。

 レーナはチユキ達から離れて無事な天使達に指令を出す。

 無事だった天使達は彫像になった天使達を空船へと運ぶ。

 そしてレーナ達はこの場を離れる。

 レーナ達が去りチユキ達だけが残される。


「レイジ君。私達もアリアディア共和国に戻りましょう」

「そうだな」


 エウリア達は地上に戻った時にアリアディア共和国に転移させている。

 チユキ達もアリアディア共和国に戻るべきだ。

 おそらくキョウカとカヤが待っているはずである。


「そういえばクロキは?」


 突然叫んだシロネが周囲を見る。

 だけど、ここにはチユキ達しかいない。


「そうよ、彼はどこに行ったのよ、シロネ? なぜ彼は私達を助けてくれたの? もしかして、取り戻したの?」


 チユキもシロネの幼馴染の彼を探す。彼にはまだお礼を言っていない。

 だけどシロネは悲しそうに首を振る。


「ううん……まだなの……。もしかするとまたナルゴルに行ってしまったのかも……」


 その表情見てチユキはシロネから詳しい話を聞かねばならないと思う。

 また、チユキは彼の事を良く知りたかった。


「詳しい話を聞かないといけないわね。でも今はアリアディア共和国に戻りましょう」


 クロキの事を思い浮かべながらチユキは転移魔法を唱えるのだった。


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