地図が……地図が……地図が更新されましたぁぁぁぁ

◇◇


 リーパー・リントヴルムの襲撃を運よく回避した俺たちは、島の南東へと進んでいった。

 奴は結局その日は山頂にとどまったまま夜を迎えると、俺はこの日の隠れ場所となる場所を早々に確保する。

 そして今夜中にやらねばならぬことを実行するために、来た道を引き返した。

 それは『たき火』をたくことだった。

 

「俺たちがここで過ごしていて、まだ近くにいるというカモフラージュをするためだ」


 火が朝まで消えぬように工夫し、周囲には木の実などの食べ物の残骸を散らばめておく。

 朝になって煙を目にしたリーパー・リントヴルムは、必ずやここら一帯を荒らしにくるだろう。

 

「明日は日中も動くぞ。早く隠れ場所に戻って一休みしよう」


 大きなあくびをしながらクリスティナに告げると、俺たち二人は再び東へと進んでいったのだった――

 


 翌日――

 奴の動きはまさに俺の読み通りで、もくもくと上がる煙目がけて一直線に飛んできた。

 うっそうと木々が生い茂る場所なため、昨日と同じように木々をなぎ倒すところから始めていることだろう。

 

「クリスティナ、動くぞ!」

「はいっ!」


 俺は奴が完全に地上に降り立った様子を確認すると、島の南東の端から一気に北上を開始した。

 昨日のエルフの村を破壊にかかった時間を考慮するに、奴は30分はあの場にいるだろう。


 そこで俺は一つの『賭け』に出ることにした。

 それはちょうど15分たった頃。そこで移動を中断し、近くの森の中へ入ったのだ。

 

「ここらで火を起こす。クリスティナは枯れ木を集めてくれ」


 そう指示をした俺は火起こしを始めると、彼女が木を集め終えた頃には、いつでも点火する準備を整えておいた。

 そして最初は煙を小さく、少し時間がたてばもくもくと立ち込めるように細工してその場を離れた。

 すると俺が移動しようとする方向を見て、クリスティナは目を丸くした。

 

「フィト!? なんで南に行くの?」

「知恵の働く奴ってのは、何でも『予想』したがるからな。そこを利用するってことだ」


 俺はそう答えると、今まで進行方向とは逆、つまり来た道を引き返すように南へと移動を開始した。

 そして10分ほど行った先で、適当な場所に身を隠したのだった。

 

 

 身を隠してからしばらくした後、リーパー・リントヴルムが上空に飛び立ったのが確認できた。

 奴は俺たちの最初の進路の通りに、北東へと進路をとると、煙が上がっている場所に降り立った。

 

 そしてさらに20分後のことだった。

 リーパー・リントヴルムは再び上空へ飛び立つと、とある方向へと向かっていったのである。

 その様子を見たクリスティナが驚いて口をぽかんと開けて言った。

 

「えっ……。どういうこと……?」

「ほらな。ざまあみろってんだ」


 その方向とは『北』であった。

 つまり俺たちから離れるように飛んでいったのだ。

 

「エルフの村、最初のたき火の場所、そして次のたき火の場所……。三点を線で結べば、自ずと次に俺たちが向かう場所の『予想』が成り立つ。まさか俺たちが来た道を戻っているとは思っていないだろうよ」


 そして何よりも大きいのは、『追われる立場』と『追う立場』が入れ替わったことだ。

 すなわち今までは『追われる立場』だったのは俺たちであり、リーパー・リントヴルムは『追う立場』であった。

 しかしここからは、俺たちの幻影を追いかけるリーパー・リントヴルムが先に『北』へと進んでいくだろう。

 その背中を音にだけ注意して俺たちは追いかけていけばよい。

 つまり完全に立場が逆転したのだった。

 

「いいか。とにかく慎重に進むぜ。基本は『隠れる』だ。そして一定の距離を取って『音』に注意を払う。これさえ守っていれば、そう簡単には見つからねえよ」

「うんっ!」


 ようやくクリスティナの顔に笑顔が戻ると、俺たちは再び北上を開始したのだった。

 

 

 そうして、リーパー・リントヴルムが出現してから五日目の日没を迎える頃――

 

――カシャッ!!


 と、俺はシャッターを切った。

 それはタブレットの画面に残り三分の一ほどになった地図が、少しだけ更新された瞬間であった――

 

◇◇


 一方、同じ頃。王国のギルド内では、真っ赤な顔をしたカタリーナの甲高い声が響き渡った。


「地図が……地図が……地図が更新されましたぁぁぁぁ!!」


――ウワアアアアアッ!!


 とたんにギルド内の冒険者たちが興奮のるつぼに包まれたのだった。

 

 もちろんその中には『真紅の戦乙女』リーサの姿もある。

 

「やった! やったわ! 姉さん!! フィトさんなら必ずやってくれると……ううっ」

「リーサまだ泣かないで! 地図が完成したわけじゃないんだから!」


 と、カタリーナとリーサは抱き合って喜びを爆発させていた。

 彼女たちだけではなく、フィトのことを心配していた多くの冒険者たちが各々に喜びを表現している。

 

 それもそのはずだろう。

 カタリーナがフィトへ『地図づくりの再開』を告げた後、実に2日間も地図はいっこうに更新されなかったのだから……。

 

――もしかしたらフィトは『死をもたらす龍』にやられてしまったのではないか……。

 

 と、地図が更新される前は、重い空気がギルド内に漂っていた。

 カタリーナはタブレットを通じて電話をかけて安全を確認したい気持ちにかられ続けていたが、『緊急時以外はこちらから電話することはない』という『規則』を健気に順守して、じっと待ち続けていたのである。

 

 そんな中でギルド内の地図に新しい海岸線ができたのだから、堰を切ったかのように感情が溢れだしたのは仕方ないことだ。

 

――フィトは、これから完成に向けてラストスパートをかけてくるに違いない!


 みなそう期待を膨らませていた。

 そして彼らの気持ちに応えるように地図は少しずつではあるが更新されていったのである。

 

 

 そうして……。

 それは、リーパー・リントヴルムが出現してから七日目の深夜のことだった。

 ギルド長室のドアをノックもせずに入ってきたカタリーナが感情を前面に押し出すような大声で叫んだ。

 

「ギルド長! エクホルム島の地図の完成と、新たなクエスト発行の決裁をお願いします!!」


 と――


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