わおドク! ヘヴィだね!
前回はエンジン上部のカバーを取り外して内部の様子を軽くチェックしたところで終了しました。今回はシリンダーヘッド及びシリンダーをチェックします。
「では、続きです」
エンジン上部のヘッドカバーのナット四個、そのうち三つは何とか外れました。問題は最後の一つ、グニャリとした嫌な感触が有りました。小説『スーパーカブ』で小熊さんがねじ切ってしまった場所(シリンダースタッドボルト)です。
「ナットは回るけど、ナットが緩むのではなくてスタッドボルトごと回っています」
スタッドボルトはクランクケースに取り付けされている埋め込みボルトです。一本の長い両頭ボルトがクランクケースから伸びてシリンダー・シリンダーヘッドを貫通してヘッド上部まで伸びています。
「シリンダーヘッドとシリンダーが一体のまま取り外すのがよさそうです」
ナットを緩めようとするとスタッドボルトが回り、徐々にクランクケースからシリンダーが浮いてきます。スタッドボルトの根元にある凸に押された位置決めのノックピンがシリンダーを押しています。
「カムスプロケットを取り外し、シリンダーについているガイドローラーのボルトも抜いておきます」
ボルトやナット、シリンダーやシリンダーヘッドは壊れても何とかなりますが、クランクケースを壊してはどうにもなりません。クランクケースに負担をかけないようにシリンダーを引っ張りながらナットを回します。
「何とかスタッドボルトがクランクケースから外れました」
そのままヘッドとシリンダーを引き抜こうとするとシリンダーのスカート部分が見えました。どうしてこんな所に錆があるのかと不思議に思っていたら、ピストンが引っかかりました。
「悪い予感がします」
潤滑油を注してシリンダーからゆっくりピストンを抜くと、シリンダー内にも錆が見えました。恐らくこのエンジンは長期放置エンジンです、シリンダーに錆が出るのは長い間エンジンが回っておらずエンジンオイルも潤滑していない証拠です。こいつは走行距離こそ少ないが程度は怪しいと睨みました。
「おおっと、マジかよ」
何とをクランクシャフトの大端部にも錆が出ていました。今まで何機かのエンジンを触ってきましたがクランクシャフトが錆びているのは初めてです。
「これは……クランク交換か?」
見た目が悪くても動きさえ良ければとクランクを回すと微かにゴロゴロとした感触が伝わってきます。まぁ、クランクはあらかじめ強化品を買ってあるので問題ありません。
「こんな事も在ろうかと、クランクシャフトを買っておきました」
今回は純正部品にこだわらず、積極的に社外部品を使って修理する予定です。かなり前ですがモンキーのミッションを組み込めるカブのクランクケースでエンジンを組んだ時に少し特殊なキックギヤを購入しました。
「こだわる素人はメーカーを凌駕します」
素人の情熱が技術者を動かしたとき、素晴らしい製品が誕生します。
「今回のクランクシャフトは山梨県のショップから購入しました」
海外製のクランクシャフトは精度がイマイチなものが多く『安かろう悪かろう』です。しかし、今回購入したクランクは良品をベアリング交換したうえで芯出しした物です。
「どのように使われたか不明な中古の純正クランクとベアリングを交換して芯出ししたクランク、どちらが安心でしょう?」
キャブレター時代のカブが生産終了したのは約二十年前、ずっと作られていたこともあって古いイメージが有りませんが古いオートバイです。どんなに頑丈な製品でも二十年も経てば経年劣化や消耗もあるでしょう。
「少しギャンブル感はありますが、山梨県から来たクランクシャフトを使ってみます」
クランクシャフトはさておき、エンジンの分解を進めます。クラッチカバーを外せばエンジン内部下側はドロドロのスラッジの層がこんもり、クラッチはスラッジで埋まり外すだけで爪が真っ黒になる有様です。
「すべてが真っ黒、すべてがドロドロ。ここまで汚いエンジンは初めてです」
最近は何もかも値上がりしています。パーツクリーナーや洗い油(灯油)も安くありません。ヘラでスラッジを取り除き、ボロ布で拭き取って仕上げにパーツクリーナを使いながら分解しては取り外した部品を洗浄するを繰り返します。
「わおドク! へヴィだね!」
「何じゃとマーティー!」
本気で『ヘヴィ』な汚れでした。
次回は分解・洗浄後の様子を書きます。週末にコツコツと作業をしていますのでしばらくお待ちください。
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