首なしプレスカブ⑩塗装・錆止め・アンダーコート

 この『首なしプレスカブ』シリーズもとうとう十回目です。作業はどんどん進んであとは登録して走り出すだけ……という夢を見ました。


 どこまで進んだかって? ほとんど進んでねぇよ! そもそもこだわりが強すぎるのと、その割に金が無いってのが問題なんですけどね。


 一番手っ取り早いのは『金を出して完品を買う』だ。


 金を出せないから手間をかけるんです。そして手を動かして汗をかいて作業するんです。自分で作業したところで工賃は出ないけれど、完成したときの満足感はプライスレス。早速作業にかかります。


「今日はリヤフェンダー内を塗装します」


 スーパーカブのリヤフェンダーは車体と一体になっています。非常に合理的な構造ですが欠点もあります。


「追突されてしまうとリヤフェンダーだけでなくフレームまで歪んでしまいます」


 これは小説『スーパーカブ』のどこかに描かれていたはずです。トネコーケン先生の『スーパーカブ』を読んで何か物足りなくなったら『大島サイクル営業中』を読みましょう。リワードが入れば作者が喜びます。


「そして、リヤタイヤが巻き上げた砂・小石がフェンダー内を傷つけて鉄板を傷めます」


 鉄板が傷むだけならまだしも、傷に水や融雪剤がかかると錆が発生します。


「リヤフェンダーの錆が広がり、フレーム全体が腐らせたら『ジ・エンド』です」


 旧型スーパーカブのうち、カスタムと呼ばれる四角いヘッドライトのモデルは比較的錆が発生しにくい構造になっています。丸いヘッドライトのモデルと違ってリヤフェンダー後半がプラスチックになっているからです。


「丸いヘッドライトの旧型カブはリヤフェンダー部分に在る繋ぎ目から錆が発生します。最終的にはテールランプ周りが腐り落ちる羽目になります」


 せっかくスペシャルなカブを造っても腐ってはお終いです。


「リヤフェンダー内を塗装するにはスイングアーム周辺の部品を外したほうが楽に作業できます。リヤフェンダーに取付されているウインカーやテールランプ、その他にも細々した部品を外した方が良いのですが……我が家へ来た時点で付いていませんでした」


 手間が省けました。早速分解作業開始……といってもピボットシャフトとショックアブソーバーのナットを外せばOKです。


「センタースタンドが有るからリヤサス周辺を外しても自立します。この為に先にセンタースタンドを整備しておきました」


 ついでにプレスカブ専用のサイドスタンドも外しておきます。これに関しては問題が出ますがそれは後ほど。


「最初にリヤフェンダー内を洗剤で洗います」


 農機具を洗うブラシで大雑把に、細々とした部分は歯ブラシを使ってフェンダー内の泥を洗い流します。コンプレッサーでエアーを吹いて水気を飛ばした後に日向に置いて乾燥させます。


「今週は週休一日、時間を無駄にできません」


 フレームを乾燥させている間にハンドルを塗装します。用意したスプレー塗料はダークブルーパール何とかって色です。


「高級車のレクサスに採用されている色だそうです。試しに塗ってみましょう」


 最初に薄くスプレーした時は緑っぽく見えました。重ね塗りするにつれて暗い青色になりました。残念ながらメタリックではないようです。


「この色はカブの紺色に似ています。どうやらパールと呼ばれる細かなメタリックはクリヤーに含まれているようです。仕事帰りに買うことにしましょう」


 ハンドルを乾燥させる間に外したスイングアームを洗ってしまいます。スイングアームは油汚れがひどいので『油汚れマ〇ックリン』を使います。


「そうこうしている間にフレームが乾きました。では錆止めをしましょう」


 今回使った錆止めは『錆封じ』です。本来はマンションなどの非常階段や船舶関連に使われる強力防錆プライマーです。


「錆止めを塗る前にワイヤーブラシで錆を削り落します。その後に削り落した錆を吹き飛ばして『錆封じ』を塗布します」


 大よそ三時間乾燥後に上塗り塗装が出来ます。この『錆封じ』は錆びに浸み込むタイプの防錆材です。本当に浸み込むのか不安ですが、船舶関連に使われるほどですからスーパーカブが使われる環境なんて平気の平左でしょう。


「錆び封じが乾燥する時間を利用してフレームのマスキングをしておきます」


 次に塗るアンダーコートはゴム質の塗料です。勧めてくださった方曰く「妙な所に付くと取れないくらい強力」だそうです。フェンダー周辺をマスキングテークで覆っておきます。本当は車体全体を覆うのが良いのでしょうが、今回は気楽に使うカブなのでそこまではしません。


「車体の錆びている所にも錆封じを塗っておきます」


 ここで一服です。水分とエネルギーを補給します。真夏と比べれば過ごしやすくなった九月ですが、まだまだ暑い日が続きます。熱中症などに気を付けて作業しましょう。

 

「錆び封じが乾くまでの間、いつも通りに倉庫内で部品の発掘を続けます」


 私がスーパーカブ系のオートバイを触り始めたのが六年から七年前。最初の頃はやみくもに中古部品を買っていました。その頃は今ほどスーパーカブ人気は高まっておらず、外装や電装系の細かな部品は一山いくらで売られていました。


「ヘッドライトのオン・オフが出来た頃のスイッチが出てきました。そういえば……おっと、スズキヴェルデ(だったかな?)用を改造したウインカースイッチも出てきました」


 スズキヴェルデはスーパーカブとハンドルパイプの径が同じらしいです。スーパーカブは出前で岡持ちを持つ前提で右側に操作系が集中しています。今は片手運転はNGですが開発当初は片手で運転しても大丈夫だったのでしょう。その名残でどうし右側にウインカースイッチが有ります。


「普通のバイクみたいに左側にウインカースイッチが来てプッシュキャンセルになるのですが、悲しいかなチョークレバーが付かなくなるのです」


 多少の使える部品を発掘している間に正午になりました。少し長くなったのでここらで一段落します。


 次回は午後からの作業の様子をお伝えします。

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