首なしプレスカブ⑦諦めないのは勝つよりも難しい
とりあえず転がし用のハンドルを取り付けて、ボロボロのフロントフェンダーを外した私が見たのは一筋の茶色い錆びでした。
「ん? 何やこの茶色い筋は? 塗装が割れたんか?」
塗装が割れて錆びるのはよく有る事、問題は割れた原因と錆の深さです。磨いて何とかなる程度なら再塗装すればよいだけです。亀裂が入っているなら溶接すればよいでしょう。
「私は溶接する機器を持っていないので外注になります。痛い出費ですが溶接と塗装だけで済むならまだマシです」
ところがフロントフォークの亀裂は想像以上に深く、しかもパッと見た程度ではわからない歪みもありました。新品のフロントフォークは一万円以上します。一万円で買った車体にこれ以上のコストをかけるのはいかがなものでしょう?
「ああ、左側のハンドルストッパーが割れて無くなっています。恐らくこのフロントフォークは歪んでいるでしょう。これでは使えません。板金修理よりもフロントフォーク交換が無難でしょう」
フロントフォーク交換となれば大出費です。安くで手に入れたとしても錆を落したり塗装をするとなれば手間も時間もかかります。
「手間を考えれば諦める方が良いでしょう」
残念ですがフロントフォークを交換してまで直す価値のあるカブでしょうか。走行距離は八万キロ以上、ハンドル無い・エンジン無い・キャブレター無い。無い無いのカブに命を吹き込んで公道へ復帰させるなんて、どう考えても合理的ではありません。
「……というわけで……」
―――首なしスーパーカブ・完―――
そんな事になると思う? このエッセイを読んでるあなた、特に『大島サイクル営業中』をフォローしているカクヨムユーザーのみなさん。
ここからが本番です。これより京丁椎、カブ地獄と言う名の冥府魔道を行く。
「もちろん直します。ほら『あなたは死なないわ、私が守るもの』とか『
ただ単にとっくの昔に車両代金以上の部品を買っちゃって引き返せない所まで来ただけですから!
「残念! これぞ泥沼・カブ地獄」
もう後戻りできない状況です。こうなりゃ歪んでいないフロントフォークを買ってきて、もしも色が違うならハンドルもろとも塗装をする覚悟です。ちょっと暴走モードに入ったかなって気がしますけど(笑)
「諦めないって事は勝つよりも難しい事です。京って男はそんな奴です」
とはいえ形式が『C五〇』(毎回思うけど形式も漢数字で表記しないとダメなのか?)のプレスカブのフロントフォークなんてまともな中古があるとは思えません。
「出来るだけ手間を省くために同色および近似色のフロントフォークを探します」
入手したプレスカブはグリップヒーターが標準装備される豪華版です。塗装が少し良いもので紺色にメタリックが入っています。
「スーパーカブ七〇・九〇・カスタム五〇に近似色の物があります。多少の色違いは仕方がありませんが構造が違うのはNGです」
ここで『アンチリフトフォーク』のカスタム五〇用は候補から除外します。カブ特有の間ブレーキング時に前がヒョコッと持ち上がる挙動を無くすアンチリフト機能は魅力的です。
「アンチリフトフォークにブレーキパネルやそれなりに使えるタイヤが付いて一万数千円なら買うかもしれません」
アンチリフトフォークのお値段は中古でも私が買ったプレスカブの車両本体価格以上です。欲しいと言えば欲しいのですが、フォークと一緒にブレーキパネルとセットで買わなければいけません。残念なことに出品者はそれがわかっていないのか儲けようとしているのか、別々に出品されています。両方買えば二万円近くします。
「今回は出費を抑えるためにプレスカブの部品が使えるフォークを買います」
幸い似た色で新し目なプレスカブのフロントフォークを手に入れることが出来ました。
「お値段は四千数百円、送料込みで五千円少々……痛い出費です」
もしもこの出費が無かったら、タイヤやブレーキにつぎ込んだことでしょうねぇ……。残念ですがよく見てから入札しなかった私が悪いのです。逆に入札を辞退した奴、ラッキーだったな。
「さて着々と部品は揃いつつありますが、ちょいと用事が入ったので今度の休みはプレスカブの修理は出来ません。何故かと言うとスーパーカブの整備をするからです」
以前エンジンを積み替えた本屋さんのスーパーカブが『前の方からキーキー音がする』とのことで診てみます。スーパーカブがお好きな方はブレーキ鳴き解消作業なんて興味ないですよね?
「たぶんシューの面取りをして、ブレーキドラムをサンドペーパーで磨いて掃除すれば治ると思います」
てなわけで次回のプレスカブの修理は九月に入ってからですね。九月五日は新型コ□ナワクチンを接種するのですが、作業して大丈夫かなぁ……。
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