首なしプレスカブ⑤八月十六日・小雨

 昨日(二〇二一年八月十五日)は良い天気だったのに、今日は小雨交じりの鬱陶しい天気です。動けば湿度の高い空気がジワジワと体力を奪い、汗をかいても気化せず体温は熱いまま。外で作業しようにも雨が降ったりやんだりでオートバイを外に出すのを躊躇うお天気です。あ~あ、最終日に作業を進めるつもりだったのに。仕方がないから物置や軒先で出来る事をします。


「今日もチマチマと部品の手入れをします。まず最初は錆取り液に漬け込んでおいたセンタースタンドとシャフトです」


 固着こそ無かったもののセンタースタンドの軸受け部はグリス切れして錆びています。シャフトが回転した(=固着していない)のにシャフトが抜けなかったのはシャフトのあるくびれ部分が錆びていたからです。


「シャフトの凹部分にセンタースタンドの錆が凸になって食い込んだんですね。だからシャフトが開店するのに抜けなかったのです」


 さて、錆取り液に漬け込んだ部品はどうなったでしょう? おや?


「錆取り液が黒ずんでいます。鉄以外の金属が溶け込んだのでしょうか?」


 部品を取り出して確認したところ、センタースタンドは凸になってシャフトが抜けるのを防いでいた部分に錆が残る程度まで錆がなくなっていました。以上が見られたのはシャフトです。


「おおっと、どうやらこのシャフトはメッキ処理がされていたようです」


 シャフトにはクロームメッキが施されていたようです。ところが錆取り液で全部メッキが落ちてしまいました。錆びだらけだったからメッキがかかっていると思わなかったんですね。


「これはいけません。メッキ無しの生鉄ではすぐに錆びてスタンドと固着してしまいます。錆びやすいだけでなく摩耗しやすくなっているかもしれません。困りました」


 困った私はジャンク箱を漁りました。


「あ、以前購入した部品取り車についていたセンタースタンドのシャフトが出てきました。出てきたんですが……妙なことがされています」


 シャフトの頭部に溶接の跡が見られました。部品取り車はモンキーのエンジンを積んでマニュアルクラッチ化され、バックステップにカスタムされる途中で投げ出されたようなカブでした。


「溶接部はグラインダーで均して、頭部は塗装して錆止めします。とりあえず使用に問題は無さそうです。良品を入手するまでの繋ぎとしてなら十分使えます」


 シャフトの塗装を終え、乾燥させている間はブレーキペダルのチェックです。ブレーキペダルに大きなガタがあったのはシャフトが通る穴が広がっていたからです。


「ああっと、ペダルの支点になるシャフトが入る穴が摩耗して大きくなっています。これはどうしようもないですね。交換です」


 幸いな事にジャンク部品の箱にブレーキペダルとシャフトがセットで入っていました。新品同様とはいきませんが実用なら十分です。


「少し前までスーパーカブの部品はネット市場にたくさんありました。ジャンク扱いで一山いくらで売られていた時期に私は理想のスーパーカブを作ろうと部品を集めていました。あれから数年が経ちスーパーカブはクラシックで身近なオートバイとして人気が出ています。オッサンバイクとバカにされていた頃を思うと驚きです」


 人気が出るのは良いのですが、部品の値上がりには困ったものです。今じゃジャンク部品は本当のゴミです。見栄えが悪くても使える部品が多かった頃に比べるとカブ遊びは贅沢な趣味になってしまいました。


「おっと、荷物が届きました。ヤフオクで落札したテールランプです。レンズはダメだけど土台と配線が生きているジャンク部品が五百円でした。送料込みで大よそ千五百円ってところですから送料の方が高いですね」


 ……と、こんな感じで八月十六日の作業は進みませんでした。天気予報によれば今度の日曜日も雨みたいです。青空の下で伸び伸びと修理を楽しめるのはいつになるのでしょうか?


 次回の作業は未定。雨みたいですから軒先か自室で部品の手入れをしましょうかねぇ。


 

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