四速のプレスカブ

 今回のエンジンは『CD五〇のミッションを組んでトップギヤランプを点ける』のが目標であり、なおかつ『原付しか乗れない人が乗れる』を目標にしています。


「よく考えれば、機能的には四速のプレスカブです」


 トップギヤで走行中にニュートラルにシフトできる。トップギヤからうっかり一速に入れてしまわない様にインジケータランプが点灯する。だけどギヤは四段変速。つまり『四速のプレスカブ』としてもOK?


「その辺りはさておき、ミッションをクランクケースに組みます」


 組むといっても組めるようにしか組めないわけですが、それでもカウンターシャフトのガタを取りつつ動きが重くならない様にシムを調整するとか何度か仮組みしたり計測したり、時には計算したりをして組んでいます。


「このひと手間が長持ちするエンジンのポイントです」


 シャフト回転方向だけではなくてスラスト方向に動けばオイルシールに負担をかけるはず、となればスラスト方向のクリアランスはなるべく小さく。かといって回転が重くなってはベアリングにも燃費にも悪影響を与える……とまぁ、色々な事を考えているふりをして組み立てます。


「今はしませんが、昔は十分の一ミリにこだわって調整していた時がありました」


 今はシャフトのスラスト方向クリアランスがコンマ五ミリくらいなら「うんうん、こんなもんでOK」とか言いながら組んでいます。シムをオイルストーンで研磨して調整なんてしません。


「基本的にCD五〇だろうがカブだろうが同じエンジンです。某オクで手に入れた程度の良いクランクシャフトや最初から組みこまれていた強化オイルポンプなどをサクサクと組みつけていきます」


 今回は五〇㏄のままなので強化オイルポンプは必ずしも必要ではないと思います。ですが、最近の夏は非常に暑いのでオーバーヒート対策として装着しておきます。


「もしもこの先ボアアップをしたくなった場合、腰下を分解する手間が少し省けますからね」


 遠心クラッチはこのエンジンに付いていた物ではなく在庫部品を使います。古い(一九八二年以前?)のスーパーカブに使われていたと思われるローラー式の遠心クラッチです。今は勾玉状のクラッチウェイトが使われている部分にローラーが入ってるんですね。初めて見た時は「こんなのが有ったんや」って思いました。


「この古い遠心クラッチは特殊な部品です。プライマリードライブギヤが十八枚でドリブンギヤが六十七枚。モンキーと同じ一次減速比です」


※一次減速比は『機関から変速機までの減速比』です。


 以前組み立てた八十五㏄エンジンも同じ一次減速比です。小さなタイヤでも大きなドライブスプロケットを使わずハイギヤードにできるメリットがあります。


「小さなタイヤを多く回して走るレジャーバイクに有効な部品です。スーパーカブなどの大径タイヤの車種にはあまり意味が無いかもしれません」


 モンキーやゴリラ、その他ダックスなどのレジャーバイクに使うとセッティング幅が広がります。


「社外ガスケットキットに入っていた余りガスケットを使いたかったのも理由です」


 社外(キタコさんのを主に使っています)ガスケットキットは六ボルトと十二ボルトの両方に対応しているんですよね。だから使わないガスケット(遠心クラッチとオイルポンプのガスケット)が出てきます。個人的には使わないガスケットよりアルミのクラッシュワッシャーを入れてくれる方がありがたいのですが。


「ここからはいつも通り新品のクリップやロックワッシャーを使って組み立てます」


 遠心クラッチ周辺の部品は組みつけられるようにしか組みつけ出来なくなっています。


「部品が付くように組んでゆけば完成するように出来ています」


 最後にクランクケースカバーを取り付けて腰下の作業は一段落です。キックペダルやチェンジペダルの根元にあるオイルシールはもう少し後で装着します。


「このまま一気に完成まで行きたいところですが、最近仕事が忙しくて疲れ気味です。暑くなってきたから扇風機も出さなければいけません。趣味に没頭したいところですが一家の大黒柱としてやらなければいけない事が山盛りです」


 そうですねぇ、次の回ではシリンダーヘッドなど『エンジン腰上』を触ったお話をしましょうか。

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