寄り道・五月の某日曜日(破)

 えっと、どこまで書いたっけ? そうそう、悪戦苦闘しつつ何とかホイールにタイヤをはめ込んだんでしたね。


「次はホイールにタイヤを固定する『ビード上げ』の作業です」


 チューブ入りタイヤの場合、タイヤとリムはそれほど密着していません。これはタイヤの内側にある『チューブ』に空気が入るからです。チューブは浮き輪のようなもので薄いゴムで出来ています。チューブの外側をタイヤが覆う二重構造とでも言えば良いのでしょうか?


「薄いゴムといっても(以下、下ネタに付き検閲)から注意してください。ゴムが破れて困ったことになるのは共通です」


 チューブタイヤのメリットは空気圧を低くしても走れることでしょう。


「チューブレスタイヤはビードがリムに密着していないとエアー漏れします。空気圧を下げ過ぎるとリムからビードが離れる『ビード落ち』をしてパンクです」


 チューブタイヤは低い空気圧にして悪路での接地面積を広げたり反発を低めたり出来る一方、釘などの異物が刺さるとチューブに穴が開き一気に空気が抜けます。


 チューブタイヤの長所は『タイヤの交換が簡単』だったり『コストが安い』などが有ります。構造的にタイヤ自体に剛性を持たせなくても大丈夫、故に安く製造出来ます。あまり感心しませんがチューブの使いまわしもできますからね。


「衝撃を吸収しやすいのでカブなど実用車やオフロード車は『スポークホイール』が使われています。部品が組み合わされているホイールの場合は大概がチューブタイヤが使われています」


 その他、旧ホンダモンキーのようにお椀のようなリムを合わせて使う『合わせホイール』も構造上チューブレスタイヤが使えません。合わせ目から空気が漏れちゃいますからね。


 リムとタイヤが密着していないのでタイヤ内に水などが侵入してホイールが錆びるといった欠点もあります。旧ホンダモンキーの合わせホイールでタイヤ交換に苦労した人なら解るよね?


「一定の空気圧で走り続けるならチューブレスタイヤが有利です。タイヤとチューブが一体になっているので釘が刺さってもある程度の距離を走行できます」


 タイヤ自体がチューブの役割もしているチューブレスタイヤはビード部分とリム部分が密着しなければエアー漏れします。その為にタイヤのビード部分やトレッド部分(地面と接するところ)が強く出来ています。


「これから作業する『ビード上げ』はプライベーターでは難しい部分です。エアーコンプレッサーの無いご家庭の場合、プロに任せてもよいでしょう」


 本当ならエアーコンプレッサーを引っ張り出して作業するところですが、今日は雨ふりです。幸いな事に購入した中古タイヤはゴムが柔らかく、変な癖(押し潰されているなど)が有りません。


「一か八かで自転車の空気入れでビード上げを試みます。上手くいくでしょうか?」


 バルブコアを抜いて空気が流れやすくして作業に取り掛かります。


「バルブコアは空気を入れる部分の中身です。入れた空気が漏れ出さないようにするチェックバルブといいますか、ワンウェイバルブといいますか。ビードが上がりさえすれば空気圧は後ほど調整できますから取り外しておきます」


 バルブに空気入れをセットしてポンピングスタート。


「幸いな事に空気を入れる量が漏れ出す量より少ないみたいです。このままポンピングすればビードが上がりそうな感じです」


 十数回ポンピングをした頃でしょうか、『ポコン』と音がしました。


「片側のビードが上がりました。このまま空気を入れ続けます」


 さらに数回ポンピングをすると再び『ポコン』と音がしてもう一方のビードが上がりました。タイヤのセットは完了です。バルブにコアをセットして空気圧を調整しておきます。ジャイロXの指定空気圧は一.二五㎤です。


「では、もう一本のタイヤのビードも上げましょう」


 ところがもう一本のタイヤに空気が入りません。若干ですがタイヤに癖がついてリムと隙間があるようです。


「恐らく梱包時に縛ったのが原因でしょう。困りました」


 こうなればコンプレッサーを出すか作業を来週に持ち越すか、どうしようか悩んだ私はある事を思い出しました。


「タイヤの外周を縛ると空気が入る事もあるのを思い出しました。もう一度トライしてみましょう」


 梱包に使われていたビニールロープでタイヤを縛り上げて作業再開です。


「まだ若干の漏れは有りますが、何とかなりそうです」


 空気入れをポンピングす続けること数十秒、徐々にタイヤ内の圧力が上がり空気の漏れが無くなりました。更にポンピングすると『ポコン……パンッ!』と音がして無事にビードが上がりました。


「最後に薄めた洗剤を吹き付けてビード部分からエアーが漏れていないかチェックします。ん~っと、大丈夫みたいですね」


 タイヤレバーで作業した場合に限らずエアー漏れはチェックしましょう。いざ乗ろうとしてパンクしていたらガッカリしますからね。


「では、車体に取り付けです。六インチタイヤと交換するだけなので簡単です」


 交換後は増し締めを兼ねたボルトの締め具合のチェックをしてからタイヤワックスで艶を出して作業終了です。


「後輪だけですがチューブレス化が出来ました。少しですが見た目も変わったので気分一新です」


 五月の某日曜日の作業はもう少し続きます。

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