中はどうなっているのかな?③腰下も分解

 今回はクラッチ側から分解を始め、ヘッド・シリンダー・ピストンと観察してきました。これまで外してきた部品はあまり程度が良くありません。恐らく腰下もくたびれているでしょう。


「いよいよクランクケースの分解です。この部分は『腰下』と呼ばれる部分です」


 腰下を分解したらオーバーホールの折り返し地点です。ボアアップは腰上(シリンダーとピストンを交換するパターンが多い)のみの分解なので比較的お手軽に作業できますが、クランクケースまで分解するとなれば大仕事です。


「ボルトを外します。ボルトを外す場合は部品の中心から遠いボルトから外します。これは部品を歪めないようにだと専門学校で習いました」


 ここでお約束の『ボルトポジションツール』の登場です。略して『ボルポジ』とでも呼んでやってください。何だか本格的なツールみたいな名前でしょ? 穴を開けただけの段ボールなんですけどね。ボルトを外していよいよクランクケースを分割します。


「むぅ……今まで経験したことのない合体具合です」


 このエンジンはクラッチの交換歴はあるらしいのですが、クランクケースまで分割するのは初めてでしょう。使い込んだだけあった恐ろしい張り付き具合です。


「ここでクランクケースをマイナスドライバでこじってはいけません。クランクケースを再起不能にしてしまったら何の為に分解しているかわからなくなります」


 クランクケースには分解時に衝撃を与えても良い個所が有ります。これはアタックポイントと呼ばれていて、多少の傷がついてもガスケット面に影響を与えない部分です。


「アタックポイントは数か所あります。一か所を集中して叩くのではなく、万遍なく叩いてクランクケース全体を剥がしてやりましょう」


 プラスチックハンマーで数回打撃を与えると、クランクケースが開きました。クランクケース内部の汚れは長年の走行距離を物語っています。バイク修理にはオイルの匂いが付き物ですが、これはオイルだけではない匂いがします。


「前のオーナーはエンジンオイルを交換してもすぐに汚れると言っていました。これは遠心式フィルターにスラッジが溜まり切ったのが主原因でしょう。でもスラッジ以外の原因も有りそうです」


 前回の腰上部分の分解でピストンリングの摩耗が見られました。ピストンリングの摩耗により気密が損なわれ、混合気や排気ガスがクランクケースに吹き抜けることによりオイルを汚していたのでは……と考えられます。


「内部のギヤは大きな破損や摩耗は見られませんね、やはりスーパーカブはタフなバイクです」


 部品を外したクランクケースはパーツクリーナーや洗い油で清掃しておきます。クランクケースの下の部分に遠心式オイルフィルターで取り除ききれなかった汚れが溜まっています。ベアリングを再使用する場合は汚れが中に入らないように注意しましょう。


「万が一ベアリング内にゴミが入った場合は執拗にパーツクリーナーを吹きつけて清掃するか、交換してしまいましょう」


 さて、分解作業はここまでです。このままアルミと鉄に分けて金属回収業者に渡せば資源として再利用されます。再利用される鉄とアルミは再び製品となって世の中の役に立つことでしょう。


「残念ながら今回は資源として再利用しません。私の作業小屋に在庫してある部品を使ってエンジンとして復活してもらいます」


 長々と続けているエンジン分解はここまで。次回からは倉庫でかき集めた部品を組み付けます。足りない部品が出てきたら買い足すことにしましょう。


「今まで純正部品の組み合わせで理想のエンジンを組んできた私ですが、このエンジンは社外製部品を多用して組み立てます。ショートストロークビッグボアのエンジンは無事に組みあがるでしょうか?」


 さて、作業場の温度が下がってきました。二〇二〇年中にどこまで作業を進められるかなぁ……。


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