復活!

 オーバーホール済みのキャブレターは整備書の指定通りに調整、そして火花は正常。圧縮は心配だけど詰まっていたマフラーをヤフオクで買った新品に交換してのエンジン始動です。カブと違ってオートチョークなジャイロXはオートチョークが壊れてしまう事が多いみたい。プラグがかぶっていたなら心配ですが、かぶってはいなかったので混合気が濃くなり過ぎって事は無いはず。多分大丈夫でしょう。


「ん~、ペダルは軽いなぁ……」


 マフラー交換をしてから初めてのキックペダルは非常に軽い踏み応えでした。そもそも今までがおかしかったのです。


「今回の様に『キックペダルが重いから圧縮がOK』と判断すると間違っている場合があります。オイルを燃焼させて潤滑する二ストロークエンジンはマフラーが詰まりやすいので注意しましょう』


 そもそも農家のお婆ちゃんが乗れるバイクを四十過ぎのオッサンがキックスタートしようとして脚が怠くなる時点でおかしいと気付かなければいけません。今まではマフラーが詰まっていたから上手く排気が出来ずキックペダルが重かったんですね。抜けが良くなったマフラーのおかげで軽くなったキックペダルをスコンスコンと何回か踏んでいるうちにエンジンが動き始めました。


「ほほぅ、何とまぁ可愛らしい音や」


 三十年前の三輪スクーターは昭和・平成を走り抜け、令和の時代に再び息を吹き返しました。言われてみれば排気音は大きくなった気がします。でもそれが純正より大きな音なのか京には解りません。今まで付いていた純正マフラーは詰まっていたから音が静かだったのかもしれません。もしかすると新品の純正マフラーだって似たようなものかもしれません。


「新品の純正マフラーとの差は解りませんが、これなら警察に停められる事は無いでしょう」


 キャブレターのエアスクリューやスロットルストップスクリューを回してアイドリング調整をするとトコトコと可愛らしい音を立ててジャイロXは佇んでいます。ご機嫌に鼻歌を歌う少女のように愛らしいです。


 アイドル回転の調整を楽に出来るのはマフラーの詰まりが無いからでしょう。軽くスロットルを捻ると今どきの排気ガス規制に縛られたエンジンと違う鋭い反応です。エンジン出力は諸元表によると五馬力です。


「う~ん、さすがは規制前……」


 排気ガス規制で原付はクリーンになったかもしれません。だけど同時に価格が上がり原付にとって大事なお手軽さと元気が失われてしまいました。こんな小さなバイクに排気ガス規制の必要があったでしょうか? 海外と違う規格、違う免許制度。どの道ガラパゴス化した日本国内の原付一種は絶滅するでしょう。


 過去の遺物である空冷四十九㏄二ストロークエンジンはこの先増える事は無く減る一方。そんな消えゆく物でお手軽に遊べるのは今回が最後のチャンスかもしれません。不景気な昨今はメーカーも古いバイクの事など構っていられないでしょう。メーカーから部品は出ない、修理が出来ない、買い換えるしかない……ところがどっこいマニアはしぶといのです。メーカーが出さない部品を専門業者に作ってもらって生き延びるのです。今回の私はそんなマニアのおこぼれを分けてもらった訳です。


(これで通勤したら楽しそうやな)


 そんな事を思いつつ、修理が終わったジャイロXでお出掛け。通勤に使うならしっかりテスト走行をして悪い所が無いかチェックしておかなければいけません。入社して早々に遅刻しては仕事を紹介してくれた知り合いの顔に泥を塗る事になります。


 ちょっとバイクで走り回るには寒さを感じる季節になりました。ヘルメットにシールドを付けておくことにしましょう。


 では、行ってきます。


『二級整備士・2スト単気筒で悩む』 終わり

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