入口と出口

 私は二級自動車整備士です。そう、なのです。自動車整備士と言えば整備するのは四輪車が殆どです。対して二輪車の整備士はバイクの整備が殆どでしょう。


 四輪車に多い電子燃料噴射装置はバイクで本採用されたのは最近。二輪車で比較的遅くまで残ったキャブレターは四輪では平成中期には新車から絶滅。そして今回修理しているジャイロみたいな二ストエンジンは四輪だと昭和六〇年代にジムニーSJ三〇が生産終了となって新車販売が終わり。


「実は四輪と二輪は似て非なるもの。四輪の整備士だからと言って二輪が整備できるわけではないのです。多少の工具は持っていますが、私はバイクに関しては素人なのです」


 だからって訳ではないのですが、私はキャブレター制御の二ストエンジンの知識があまり無かったりします。ピストンリングを回してリング合口を百二十度ずらす四ストに対してニストのピストンリング溝にポートへリング合口が行かない様に位置あわせがあるとか最近になって知りました。同様にキャブレター車もほとんど経験なし。キャブを触るようになったのはカブやゴリラを弄るようになってからですね。


 専門学校時代に講師が「ジムニーの(SJ)三〇なんてプラグで走りが変わるんだぜ」と言っていたのを「ふ~ん」と聞いていましたが……。


「火花が飛ぶ、圧縮は在る。でもって燃料も来てる。エンジンが動かんのは何でや~!」


 キャブの調整後、キックペダルを踏み込んだ直後は何とか初爆は有ったんです。ところがそこまでで、初爆のあとは全くウンともスンとも言わない。エアクリーナーのスポンジが劣化してキャブに吸い込まれたのかとかと思ってエアクリーナーを見るもキレイなもの。


「となれば……もしかしてマフラーの詰まり……け?」


 マフラー詰まりはオイルをガソリンに混ぜて潤滑する二ストエンジンに多い故障です。オイル混じりの混合気が燃えて出来るカーボンがマフラーの中で詰まるんですね。四ストロークエンジンではあまり無い症状です。昔のユニフローディーゼルでは始業前に排気チャンバーに溜まったオイルを抜く事から始まったみたいな話を聞いた事が在ります。バスの五リッターくらいあるエンジンならまだしも、たった四九㏄しか無い小さなエンジンで起こるのでしょうか?


「う~ん、四ストやと滅多に無い故障やなぁ」


 よく解らないままに最初の修理でマフラーは炙っていたんです。それなりに白煙や燃えカスが出たので掃除できたと思っていました。ところが純正マフラーは内部構造が複雑でバーナーを排気口へ突っ込んで焼いたくらいでは完璧な掃除は無理な様です。焚火や焼却炉、バーベキューコンロで全体をガンガン熱して内部に溜まったカーボンやオイルが自然発火する所まで焼いたうえでエアーコンプレッサーで空気を吹き込んで燃やすのだとか。


 チャンバー形式のマフラーなら効果的だそうな。


 試しに今回もバーナーで焼いてみたのですが、白煙が恐ろしく出たので止めました。最近は若い人も多く引っ越してきて以前みたいに「京さんの所のバカ息子がマフラーを焼いてるなぁ」では済まず、下手すりゃ火災と間違えられて消防に通報されてしまいます。実際、ビックリしたお隣さんにもう少しで通報される所でした。


「おっと、防災無線で『野焼きは止めましょう』なんて言っています。もしかすると私が原因かもしれません」


 試しにマフラーを外してキックペダルを何回か踏み込むとペダルが軽い。何度かキックをするとエンジンがベコボコと爆音を立てて始動しました。外したマフラーの排気口から圧縮空気を吹いてみましたがそよ風しか出て来ません。エンジン不動の原因はマフラーの詰まりで決定です。そして修理方法はご近所に迷惑が掛かり火災の恐れがあるカーボン焼きか詰まっていないマフラーに交換するかの二択です。


「ベストは新品の純正マフラーに交換です」


 前回焼いたのに詰まりました。もうこうなったら思い切って新品購入です。新しい仕事に就いて初めてのお給料の一部、そしてお小遣いの大半はマフラー代に使う事になりました。ちょっと大きなお買い物です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る