第169話 ピュア(2)
「いくら幼なじみでも。 でっかいワイナリーのお嬢さんだもん。 何不自由なく生活してきて。 おれとなんかの生活に満足できるわけねーし。」
八神はちょっといじけてしまう。
「八神さんの彼女には会ったことないですけど。 でも、わかっててずうっと一緒にいるんですから。 彼女だって、そんなの百も承知なんじゃないですか? だって、お金持ちの人と結婚したかったら、とっくにしてるんじゃないですか? そんなお嬢さんだったら。」
夏希は彼を励ますようにそう言った。
バカの言うことに
ちょっと感動してしまった。
八神は夏希の屈託ない笑顔を見ていると、なんだか気持ちが軽くなってくるから不思議だ。
「ま。 おれも、もっと頑張らないとな~。 楽団員を辞めて、こうやって仕事させてもらえるようになって。恵まれてると思うし。 何より、」
「何より?」
「・・真尋さんのそばで仕事できることが、ほんっとに嬉しいし。」
29には思えないほど、幼い彼の顔がほころんだ。
「すっごい、好きなんですねえ。 真尋さんのこと。」
夏希も笑顔になった。
「あの人自身はヘンタイだけどさ。 あのピアノ聴かされちゃあ。」
夏希は前に志藤が真尋の練習室までやってきて彼を見ていた姿を思い出していた。
あの時の本部長と同じ。
すっごい
真尋さんのピアノを愛しちゃって
どーしようもないって、そんな感じ。
でも
あの人のピアノにそういう力あるって
なんとなくわかる。
みんなその魔法にかかってしまってる。
「・・でも、ヘンタイで残念でしたね。」
夏希は感動しつつも素直な感想を述べてしまい、
「それを言うな・・。」
八神は恨めしそうに彼女を見た。
二人が恋バナに花を咲かせているとは露知らず
「う~~~~ん、」
斯波は腕組みをして考え込んでしまった。
「八神さんと一緒の線が濃いってことですね・・」
高宮はつぶやくように、怖い顔でそう言った。
「きっと、なにかトラブルに巻き込まれてるのよ。」
萌香はもう言うことがなく、そんなことを言ってしまった。
「どんなトラブル??」
あまりに真剣な表情で高宮に突っ込まれ、
「・・どんなって、言われても。」
やっぱ
あの二人に任せるなんて
無謀だったかなあ。
八神はようやく一人で頑張って仕事できるようになってきたし
相変わらず、精神年齢低くて、バカだけど
不思議にどこに行ってもかわいがられるし。
いい加減、加瀬にも仕事覚えさせないと、だし。
斯波は頑張って上司として命じたこの仕事をちょっとだけ後悔した。
「おれ、帰ります、」
高宮がもう腑抜けのようになって彼らの部屋を出ようとしたが、
「ちょ、ちょっと! 加瀬さんのところで待ってたら? 心配だろうし。ね、清四郎さん。 合鍵を、」
萌香は言う。
「・・はあ、」
高宮は仕方なく頷いた。
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