第141話 ジェラシー(3)

一緒に仕事しているだけなのに


あたしには


到底できない難しい仕事なんだろうなあ。


夏希はどーんと落ち込んだ。



結局、アカリは6時ごろまで書類作成を手伝った。


「ありがとうございました。 これで、あとはパソコンに入れるだけなので、」


高宮は彼女に頭を下げた。


「いいえ。 よかったです。 思ったより早くできて。」


「お礼に食事でも。 ほんと、そんなもんじゃ割りに合わないと思いますけど。」


「でもこれからが大変ですよ。」


「食事が終わったらまた会社に戻ってやりますから。」


「わかりました。 じゃあ、お言葉に甘えて。」


アカリはニッコリ笑った。



夏希はもうメールも電話もできなくなり、仕事が終わってなんとなく下のロビーで高宮が出てくるのを待ってしまった。


そして、ようやくエレベーターから高宮が出てきたので、


「あ・・」


と、声をかけようとすると、


またあの『美女』が一緒だった。



楽しそうに会話をして。


会社の前からタクシーを拾って二人はどこかへ行ってしまった。



は・・


夏希はそこに呆然と立ちすくみ




なんで・・


こんなことで涙が出てくるなんて。


夏希は帰りの電車の中で涙が出てきて仕方がなかった。


周囲の人が怪訝そうな顔で見ている。


それがわかって、恥ずかしそうに背を向けて涙を拭いた。


帰るまでずうっとメソメソしてしまい。



もう、2日も話してないし。


メールも返って来ないし。




「やっぱりアメリカにいても和食が食べたくて、帰ってきてからすっごく和食党になってしまって。」


高宮はアカリを日本料理屋に連れて行った。


「おれも。 やっぱり食事は日本ですかね。納豆でさえも向こうにあるけど、こっちで食べるのとおいしさが違うし。」


「高宮さん、納豆好きなんですか?」


「え、普通に食べますよ。」


「意外、」


アカリはクスっと笑った。


「朝はコーヒーだけって感じですけど、」


「まあ、ひとりですから。 朝は面倒なので。 それに近いですけどね、」


「結婚のご予定はないんですか?」


アカリは少し酒が入って、ふふっと色っぽく笑う。


「え、いや、」


ちょっとドキンとした。


「健康的に日焼けして。 南の島にでもでかけたんですか?」


彼女の追及は続く。


「島じゃないですけど。 普通に海で。 我を忘れて。こんなに灼けてしまって、」


恥ずかしそうに言った。


「彼女と?」


また彼女はいたずらっぽく笑う。


「え・・あ~、まあ。」


と、さらに照れて頭をかいた。


「まあ、高宮さんほどの人ならいてもおかしくないですけど、」


その時、高宮はハッとした。


夏希からメールや着信がきていたことはわかっていた。



しかし、それどころではなかったので、ほったらかしにしてしまった。



「ちょっと、失礼。」


席を外して店の外に出て携帯を取り出した。


しかし


いくら鳴らしても彼女は出なかった。




まだ仕事中かな。


と思い、電話を切ったが。


その頃夏希は


携帯を部屋に置きっぱなしにして、萌香のところに行っていた。




「だから、もうそんなに泣かないで。」


夏希は萌香の前でもメソメソしてしまった。


斯波はまだ仕事で戻っていない。


「でも、仕事なんでしょう? その人とは。」


「二人でどっか行っちゃって・・タクシーで、」


夏希は鼻をかんだ。


「仕事よ。それだって。 だって、ウチに来て仕事してたってことはきっと何かしてもらっていて。 お礼に食事ってことなんじゃない? そのまま帰すわけにいかないわよ。」


萌香は必死にフォローした。


「あたしのことも、思い出してくれなかったんだって、」


「きっと何かトラブルがあったのよ。」


「なんか、今までは全然気にならなかったのに・・」


「え?」


「高宮さんが仕事でどういう人とおつきあいしてるとか。 他の、女の人と親しげに話をしているだけで、なんかすごい動揺しちゃって・・」


「加瀬さん、」



まあ


これがホントの恋なんだけどね。


萌香もわかっているのだが、あまりに基本的なことに悩み始めた彼女がかわいそうで言えなかった。


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