第140話 ジェラシー(2)

なんか


今日会えなかったなあ。



夏希は家に帰ってぼんやりとした。


携帯で高宮に電話をしてみる。


すると、しばらく呼び出し音が鳴ったあと、



『ただいま電話に出ることはできません』


無機質なメッセージが流れて。


忙しいのかな。


仕方なく電話を切った。


それでもいつも電話をすれば着信に気づいて電話をしてきてくれたりメールをしてきてくれたりするのだが


その日はそれもなかった。



・・電話


なかったし。



夏希は寝覚めも悪かった。


彼が忙しいことはわかっているので、そんなにしつこく電話をしないようにはしていたけれど。


メールも打ったのに。


ちょっと恨めしい気分だった。



会社に行って、秘書課の前で高宮を見かけて、声をかけようと思ったとき、


「あ、すみません、」


やってきた見知らぬ女性に頭を下げている。


「いえ、」


「ほんと、ご迷惑をかけてしまって。 ぼくが取りに行かないとなのに、」


「ウチも今は社長が休暇中で暇ですから。 こちらでいいですか?」


二人は資料室に入って行ってしまった。



だれ?



夏希は見慣れぬその人に首をかしげた。


あたしに気づきもしないで。


心のテンションが急激に下がってしまった。


「おまえなっ! 何度言ったら、誤字脱字がなくなるんだっ! いちいち検閲しないとなんねーじゃねえか!」


ぼんやりしていて斯波にはこっぴどく怒られ。


「すみません、」


「辞書、持ってんだろ? ほんっと、今度漢字練習させっぞ!!」


とまで言われてしまった。


「はいっ。 すみませんでした。」


何とか気合を入れなおす。



カレンダーをふと見ると、明日は17日。



そっか


明日、誕生日だ。


忘れてた。




高宮はアカリに手伝ってもらい、膨大な契約書を作成していた。


「ここは、この文書を引用したほうがいいと思います。」


彼女の的確な指摘に、


「そうですね。 あ、でも今回は期間の約定も、」


秘書課の隅のデスクで二人は仕事を続ける。


「ね、あの人、だれ?」


志藤は見慣れぬ美人に目を留め、そこにいた秘書課の女子社員に聞く。


「え? ああ、想宝の社長秘書の宮沢さんです。」


「想宝の? なんでここに?」


「さあ。 詳しくはわかりませんが。 今度大きな契約がウチとあるみたいで。」


「めっちゃ美人やなあ。」


寄り添うように仕事をする二人を見て、



ま、普通はああいう組み合わせが正しいねんけどな。


志藤は何となく夏希のことを考えてしまった。



そこに


「本部長。 ここにハンコもらうようにって、経理の人が。」


夏希がやってきた。


「え? あ~、サンキュ。」


と判を押す。


夏希は何となく部屋を見回してしまう。



そして



あの人だ。



高宮がアカリと顔をつき合わせて仕事をするのを目の当たりにしてしまう。


たまに目を合わせて笑いながら。


楽しそうに。



「んじゃ、頼む。」


志藤は彼女に書類を手渡そうとするが、その二人をぼーっと見ている。


「おい、」


「は・・」


ぼんやりと志藤に目を移す。


「想宝の秘書なんやって。 仕事らしいから。」


とフォローしてやった。


「想宝の、」


いつもの夏希ではない気の抜けた声だった。


「ま、おんなじようにアメリカの大学を出てるらしいし。 めっちゃ美人でウチの栗栖といい勝負かなあって、」


志藤は冗談を言ってひとりで笑っていたが、夏希はすううっと部屋を出て行ってしまった。



「って、おい!」


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