第115話 浴衣(1)
「そんなの大丈夫ですから。」
夏希はにっこり笑った。
「ちゃんと節約して。 自分が食べて行くくらいはなんとかするし。 あのときのことは、正直、ショックなキモチはあったけど、今は、高宮さん・・じゃなくって、隆ちゃんと一緒にいたいかなって、」
と屈託なく笑う。
「か、加瀬さん・・じゃなくて、なっ・・ちゃん、」
よそよそしく言った。
そして、言った後で猛烈に恥ずかしくなった。
「やっぱ、なっちゃんって、恥ずかしいからやめていい?」
「え、自分から言い出したのに、わがままですね、」
夏希に嫌な顔をされた。
「『夏希』って、呼んじゃダメ?」
「え、でも。 それじゃあ、ウチのお母さんと一緒だし、」
なんで、それがダメなんだって。
「いいよ、お母さんと一緒でも、」
話の焦点がズレてしまった。
「え、違ってたの?」
午後から出社した夏希はさっそく萌香に報告した。
「はあ、クスリもらっちゃって。 1週間後にまた来て下さいって、」
「そう。 まあ、精神的なことも影響するしね。 早くもとに戻るといいわね、」
萌香もホッとした。
「はい。 ほんっとご心配をおかけしました。」
夏希はペコリと頭を下げる。
「高宮さんは?」
「一緒に来てくれて。 すっごい心配してくれて。」
「そう、」
にっこり笑った。
「あれから、何かって言うと、おれが責任取るとか言って。 そんなことでいちいち会社を辞めてたら、大変ですよね、」
と笑う彼女に、
「え、責任取るって、言ってくれたの?」
萌香は少し驚く。
「はい、」
夏希は普通に頷く。
それは
会社を辞めるって意味じゃないんじゃないの??
そう思ったが。
「あとね、あたしの食費の面倒も見たいって言われたんですけど、」
「はあ??? 食費?」
「それって、なんなんですかね?」
なんか
飼育係?
萌香はどう判断していいのか、考えあぐねてしまった。
「とにかく、あなたに対して責任を感じてるってことやん? そんなふざけた気持ちじゃないってこと、」
「そうなんですかねえ、」
夏希は首をかしげた。
あまりに子供っぽい考えの夏希に萌香は何となく心配になってくる。
「は? 今度の土曜日?」
「うん。 急やけど。 ウチで集まって飲もうよ。」
南はいきなり切り出した。
「んで、女子は全員、ゆかたってのはどう?」
面倒くさいなあと思っていた志藤だが、その『ゆかた』という言葉に反応した。
「ゆかたか、」
南は計算どおり、という風にニヤリと笑い、
「な、ええやろ~? ゆうこも子供たちも連れておいでよ。 めんどくさかったら泊まっちゃってもいいし。 んじゃ、OKってことで、」
南は早速回覧を作り始めた。
「え? ゆかた? 当然、持ってないですよ、」
夏希は言った。
「そっかあ。 じゃ、高宮に買ってもらいなよ。」
南は軽く言う。
「え、そんなの、」
「喜んで買ってくれるよ~。 え、おねだりとかせえへんの?」
「しませんよ。」
恥ずかしそうに言った。
「ええやん、カレシやもん、」
「あたしは洋服でいいです。」
夏希は健気に言った。
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