第114話 責任(5)

・・・・


こんなところに


こんなもん


入れられて。


すんごい恥ずかしい格好で。



夏希はぐったりと疲れたように診察室に戻ってきた。


「顔色悪いよ、」


高宮が心配そうに言った。


「う、いろんな意味で・・いっぱいいっぱい・・」


泣きそうだった。




医師が戻ってきて、


「結論から言うと、妊娠はしてないようですね、」


エコー写真を見ながら言った。


「は?」


「子宮も卵巣も見ましたけど。 妊娠の兆候はないですね。」


高宮は気が一気に抜けていく。


「でも、微妙って、」


夏希が言うと、


「尿検査でね。 微量の血液反応があって、」


「血液反応?」


「おそらく軽い膀胱炎を起こしていると思われます。自覚症状があったかはわかりませんが。血液が混じっているとまれに妊娠検査薬で誤判定がでることがあるんです。この前、脱水症状で入院されてますよね? おそらく生理が遅れているのは、体調を崩してホルモンのバランスが悪くなってんじゃないかと思われます。」


「はあ、」


夏希も体の力が抜けた。




帰り道、高宮は見た目にもガッカリしてるようだった。


「ひょっとして、ガッカリしてます?」


また図星を指されて、


「が、ガッカリなんか! きみの体が、早く正常になるようにって。 ま、もともと、そうなったのも、おれのせいだし。 ほんと責任感じてるよ、」


ちょっと反省した。


「また責任感じちゃって、先生もクスリを飲めば大丈夫って、」


夏希がお気楽に言うと、


「おれに、面倒をみさせてくれ、」




高宮は真剣な顔で言った。


「は?」


「きみの生活の面倒を見させて欲しい。」


夏希はしばし黙り込んでしまった。



生活の面倒って?


どういうことだろ。


今でも十分、面倒見てもらってるのに



彼女の幼い頭ではとうてい理解ができず。


「あたしのゴハンを作ってくれるってことですか?」


またとんでもないことを言い出す彼女に、


「はあ?」


高宮は電車の中で大きな声を出してしまい、周囲を気にした。


「ゴハンじゃなくって、」


小声で言った。


「ほんと、これ以上高宮さん・・じゃなくて隆ちゃんに面倒かけちゃうと悪いから、」



彼女には


回りくどい言い方なんか


ダメなんだ。




高宮はため息をついた。


「だから、ね。しょ、食費とかそういうのおれが持ちたいとか。」


もう何を言っていいのかわからなかった。


「食費? やっぱりゴハン?」


夏希は驚いた。


「だから、食費だけじゃなくって、色んな面で、だよ?」


「高宮さん・・じゃなくて、隆ちゃんはまだ気にしてるんですか?」


「え?」


「あのこと・・」


恥ずかしそうにうつむいた。



「気にしてるって、言うか。 もう口で謝ることもできないくらい、かなって。 そしたら、おれができることって、そのくらいしか、」


うまく説明できないでいた。



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