第113話 責任(4)

「ねえ、ウチにおいでよ、」


帰りがけに高宮は夏希に言う。


「え、でも、」


「でも?」


「斯波さんがけじめのないことしちゃだめだって。」


「斯波さんは関係ないじゃん。」


ちょっと膨れたように言って、夏希の手を取った。



この人って


ほんとは


甘えん坊なんだなあ。



夏希は微笑ましくなって、


「はい、」


と頷いた。




一緒のベッドで寝たけれど


別に何もせずに彼女を抱きしめたままだった。


「もし、おなかに赤ちゃんがいたら大変だもんな、」


高宮は彼女の頭を愛しそうに撫でる。



「・・あの」


夏希は彼を上目遣いで見る。



「え?」


「ひょっとして、すんごい期待しちゃいませんか?」


「は?」


「あたしが妊娠してればいい、とか思ってます?」


ドキっとした。


「や、そ、そんなさあ。 きみはまだ若いし、あんまりそういうこと背負わせてもって思うよ。 間違いであって欲しいけど、でも、体に障ったらいけないし、」


高宮はそうごまかした。


「お母さんが子供だけは作っちゃダメって。 いいことないって、どんなに好きな人でも、」


夏希の言葉がグサグサと突き刺さる。


「明日、病院行くのドキドキするなあ。」


「おれがいるから、大丈夫。」


高宮はまた彼女をぎゅっと抱きしめた。




「あれ? 加瀬は?」


斯波は翌朝、夏希の姿がないことを不審に思った。


「ええっと、ちょっと病院に行くって、」


萌香はドキっとして言った。


「病院? またなにかあったの?」


「い、いえ、ほら、この前体調崩しちゃったでしょ? 病院の先生に、少ししたら診察を受けに来なさいって言われてたみたい。 午後にはこれるって、」


口からでまかせを言った。


「ふーん、」


何とか納得したようでホッとした。




なんっか・・いたたまれねえ。


高宮は産婦人科で小さくなって座っていた。


「浮いてますね、」


夏希は高宮に耳打ちした。


「わかってっから、言うな。」



でも、


おれたち、どう見ても


妊娠を確認しに来た、若夫婦??



高宮は妄想してほくそえんだ。


「ひとりで笑っちゃって。ちょっと、危ない人みたいじゃないですか、」


夏希はムードをぶち壊すような発言をした。



そして、簡単な尿検査と血液検査をしたあと、やっと診察室に呼ばれた。


ここは、この前入院した総合病院の婦人科でもあった。



「ええっと、尿検査したんだけど、微妙な感じなんで。 診察台に来てもらえますか?」


「は?」


二人は顔を見合わせた。



微妙って?


え? あたし、ほんとに


妊娠してるかもしれないの??



夏希は初めて怖くなってきた。



「じゃあ、下穿きを取って、この上に上がってください、」


看護婦に言われて、


「下穿き? ストッキングですか?」


ピントの外れたことを言ってしまい、


「下、全部、脱いで。 ここで膣に超音波の装置を挿入して見ますから。」


ベテラン看護婦はジロっと睨んだ。


「そっ・・挿入???」



何を入れるんだっ!!



かああっと顔が赤くなった。


言われたとおりにモジモジしながら内診台に上がると、


「もっと足、開いてください。」


容赦ない言葉が飛び。


カーテンで上半身と下半身を遮られた。


「ちょっとひんやりしますよ~。」


医師の暢気な声が聞こえた。



え??


なっ・・なにっ??



夏希はプチパニックに陥っていた。


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