第112話 責任(3)
「なにが、ウソなのかもわかんねーし、」
高宮は大きなため息をついた。
「あたし、ほんっとバカだから、」
「バカとかそういう次元じゃないよ。 はあああ、寂しいなあ。」
オーバーにがっくりしてみた。
「あ~! ほんっとにごめんなさい!」
夏希は彼の腕にすがりついた。
胸が
腕に当たると、気持ちいい。
高宮はそんな状況でも萌えてしまった。
「・・高宮隆之介だよ。 覚えておいて。」
ふと笑う。
「あ! そっか! だれか小説家とおんなじ名前だ~って思ってたんですよ!『我輩は猫である』の人ですよね?」
思いっきり言われて、
「それは夏目漱石だよ。」
さらに疲れた。
芥川龍之介のことを言いたいのはなんとなくわかるが。
「じゃああ、隆ちゃん、でいいですか?」
と言われて、
「は??」
驚いて彼女を見た。
「え、だって、隆之介って呼び捨てにするのもなんだし。」
「そんな、子供みたいな、」
隆之介さん、とか言うのを期待してたんだけど。
「あたしのことも『なっちゃん』でいいですから。 子供のころ、みんなにそう言われてたし。」
ますます、子供か。
おれ、28だぞ。
高宮はつり革につかまって、ぐったりとした。
「あ! 見て! すっごい大きなサメ!」
水族館について、いきなり夏希は大きな水槽に走っていった。
「ちょ、ちょっと、」
高宮は彼女の手を掴んだ。
「走ったりしちゃ、ダメだよ、」
「え、なんで?」
「なんでって。ほら、ひょっとしたら・・赤ちゃんがいるかもしれないし、」
と言われて、夏希は慌てておなかを押さえて、
「え、そうかなあ、」
まだまだ暢気だった。
高宮はどんどん彼女が妊娠していればいいなあ、と思うようになっていて。
ほんっと
一生大事にするし。
仕事、したいって言うなら。
なんとか子供が少し大きくなったら、預けて仕事してもいいし。
んで、もうちょっと大きくなったら
3人で海なんか行ったりして。
やっぱ
女の子がかわいいかなあ
どんどん妄想が彼の中で広がる。
「なにニヤニヤしてるんですかあ?」
夏希に不審がられた。
「や、なんでも。」
「ね、なんでこれ、ちっさい魚、サメに食べられないのかなあ、」
彼女は本当に小学生みたいなことをすぐに口にする。
「餌、食ってるからじゃないの? こういう動物って、腹いっぱいの時はムダに食べないし、」
「へええええええ。 ほんっと、隆ちゃんって物知り~、すご~い、」
高宮は、はああっとまた心でため息をついてしまった。
おれは
中学生とつきあってんのか?
バカな子ほどかわいいって言うけど。
それでも彼女のかわいさにニヤけてしまう。
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