第116話 浴衣(2)

「・・だって。何とかしてやんなさいよ、」


南はさっそく高宮に言いに行く。


「ゆかたって。 おれは今度の土曜は社長についてパーティーなんですけど、」


「え? そうなの? ま、しゃあないか。 終わったらくれば?」


「遅くなりますよ。たぶん、」


ちょっといじけた。


「加瀬のゆかた姿なら個人的に見せてもらえばええやん、」


と笑ったので、高宮は顔を赤らめて、


「何を、言い出すんですか、」


わかりやすく妄想していた。



「え、いいですよ、」


夏希は高宮とランチをしに行って、その話になった。


「いいよ、そのくらい。 ゆかたなんてそんなしないだろ?」


「わかんない。買ったことないし、」


「ほんと、買ってあげたいから、」


「はあ、」


「でも、おれは行けないかも、なんだよな。」


「え、ほんと?」


「仕事。 パーティーだから、たぶん遅くなるし、」


ちょっとガッカリして言う。


「そうですかあ、」


夏希もガッカリした。


「じゃあ、南さんに一緒に買いに行ってもらって、」


と言うと、


「え、おれが行くよ。」


と言い出したので、


「え、隆ちゃんが?」


「うん。 なんで驚いてるの、」


「や、そういうのって嫌がる男の人っているんじゃないかって。」


「おれ、ぜんぜん平気。 女の子の買い物とかつきあうの。」


「は~。 そうなんだ、」



というわけで


二人はその日の帰り、ゆかたを買いに行くことになった。


「好きなの選びなよ、」


高宮は夏希に言った。


「うわ~~! かわいいっ! 色んなのある!」


遠慮していたわりには夏希は張り切っていた。


「金魚もかわいいし、風鈴もいいかな。 この牡丹柄も・・」


目移りするほどたくさんあって



夏希はふっと1枚のゆかたに目がいった。


「これは・・」


高宮はぎょっとした。


夏希はそのゆかたを手に固まっている。


それは


薄紫色の地になぜか、イモリの柄があしらってあった。



絶対になんか・・惹かれてる!


高宮は嫌な予感がした。


「い、イモリはちょっとさあ、 ほら、せっかくだから。 こういう華やかな柄が似合うと思うよ、」


さっきの牡丹柄のを手に取った。


「う~~~ん。 これ、なんでイモリなんだと思います?」


「知らないよ、」


「え~~、ゆかたなのに、なんでイモリなんだろ。」



すっごい食らいついてるし。


前に彼女から貰ったゼンマイ柄のネクタイを思い出す。


「頼む!! それじゃないやつにしてくれ!」


思わず懇願してしまった。


「え~、ダメですか? やっぱり、」


ガッカリする彼女を見て、


やっぱりそれにしようと思ってたんだ・・



ガクっとした。




結局、その大きな真っ赤な牡丹の花があしらってあるものにして、店員の勧めでそれに合う小物も購入。


「けっこう高かったですね。 ゆかたといえどもびっくり。 ごめんなさい。」


「え、いいよ。 そんなの。 このくらいはすると思ってたし。」


なんか、悪いなあ


ここまでしてもらってもいいのかな。


夏希はちょっと心苦しかった。



その夜。


あれっ?


トイレに入った夏希は驚いた。


きた・・。




体中の力が抜けた。



なんだ。


ほんっと、どうなっちゃったのかと思った。



安堵感でいっぱいになった。

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