第109話 展開(3)

その後、


待てど暮らせどメールは来ない。


そのうち高宮は外出することになり、落ち着いて話もできない。



出張帰りで疲れているというのに、この日も会社を出たのが夜9時を過ぎてしまった。


夏希のところにそのまま寄ろうとしたが。


「あれっ?」


改札を出たところで、斯波とバッタリ会ってしまった。


「・・なんだ。 おまえも今帰りか。」


「はあ・・」



こんな時に


ヤな人に。


苦々しく思っていた。


斯波はいつものように怖い顔でずんずんと歩き、特に私語は交わさなかった。



はあああ・・


ヤな空気。


この前、夏希のことでこっぴどく怒られて以来、まともに顔を合わせていない。



そうこうするうちに斯波のマンションまで着いてしまった。


「じゃあ、」


と言われて、


「おつかれさまです。」


とても一緒に入っていく勇気はなく、とりあえずやり過ごそうと彼と別れるフリをした。



そして、マンションの植え込みの影にしばらく身を潜めてから、マンションに入っていこうとするといきなりエントランスの影から斯波がぬっと顔を出し、


「なんだ?、おまえ。」


「わーっ!!」


本気で驚いた。


「な・・んですか、隠れて!」


壁にもたれて胸を押さえた。


「歩いてる途中、ずうっとおれの顔色チラチラ伺いやがって。 加瀬んとこ寄るつもりだったんだろーが!」


鋭い・・。


「あいつは、まだ23の、いちおう女の子なんだから! あれでも! おまえなんか28にもなって! 節操のないことしやがって! あいつが何にも知らないのをいいことに!」


もう掴みかかられそうな勢いだった。



こ、怖い・・。


でも! 


こんなことに負けている場合ではない!


「あのっ!」


「なんだよ、」


「もう、おれと彼女は正真正銘、恋人同士としてつきあってるんですっ! いろいろあったけど、おれはマジですから! し、斯波さんは彼女の上司かもしれませんが、親でも兄でも、ましてや恋人でもないじゃないですかっ!」


いつものように饒舌にやりかえす。


「う・・」


これには斯波もタジタジだった。


「ほんと! すっごい大事な話があるんです! 絶対に彼女のところに行く!」


と、すばやく部屋番号を押してインターホンを鳴らした。


「はい、」


夏希の声が聞こえたので、


「あ、おれ、」


「高宮さん、」


「開けてくれっ! なんか、怖いおっさんが!」


と思わず言うと、


「誰がおっさんだ!」


後ろから思いっきり斯波にひっぱたかれた。


「し、斯波さん?」


いったい外では何が起こっているのか?





別につきあってる二人が一緒の部屋ですごそうが、もうどうでもいいのだが。


斯波は生意気な言い様の高宮に意地になってしまった。


「いいから開けて!」


高宮の必死な声に、


「は、はい。」


夏希は施錠を解いた。


「バカ! 開けるな!」


斯波は言ったが、高宮はすばやく入り込み、エレベーターに駆け込み、『閉』のボタンをめちゃくちゃ押して、ドアを閉め、斯波を乗せずに上がってしまった。


「あんの、やろ!」


斯波は悔しそうにエレベーターのボタンを押し続ける。

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