第108話 展開(2)

二人はドラッグストアで妊娠検査薬を買い、夏希の部屋に行く。


「ここにオシッコをかけて、しばし、待つってことですね、」


夏希は神妙にそれを手にしながら言った。


「うん、」


固まっているままの夏希に


「早く、」


萌香が促すと、急に


「こ、怖い!」


いきなり萌香にすがりつく。


「怖いって・・放っておいたらもっと大変なことになるやん、」


「だって・・」


「とにかく。 ほんとちゃんと調べて。」


何とか説得して、夏希をトイレに押し込めた。



しかし


10分経っても、15分経っても彼女は出てこない。


「どうしたの?」


痺れを切らせて萌香はトイレに声をかける。


「・・・・」


「とりあえず。 もう判定は出てるはずやから。 出てきて。」


と言うと、ガチャっとドアが開く。



のそっとそのスティックを萌香に差し出す。


ドキドキしながら見ると、


「ん????」


目を凝らした。


「それって、なんなんですか?」


おそるおそる聞くと、


「・・これは。」



萌香は慌てて説明書を片手に見比べる。


陽性と陰性のどちらかに印が浮き上がるはずなのに



うす~く


陽性についているようにも見えるし、陰性の方にも、うっすら見えるような?



「わかんない・・」


「は?」


「ちゃんと、説明書どおりにやった?」


「やりましたよぉ。 ちゃんと平らなところにも置いたし、」


「ちょ、ちょっと、もう一回!」


と、もう1本差し出した。



「え~~? そんなすぐに出ない。」


夏希はがっくりと肩を落とした。



しかし


結果は同じだった。


どちらともつかない判定。



「これ、病院に行かなくちゃ。」


「へ??」


「病院で調べてもらいましょう。」


「な・・え?? って、産婦人科とか??」


「当たり前やん、」


「え、ヤダ! そんな、産婦人科なんて!」


「ヤダとか言ってる場合やないやん。 ひょっとして婦人科系の病気かもしれへんし。 明日は土曜日かあ。来週にならないと、」



この時間でさえもまだろっこしいほど、心配だった。




高宮は翌日の午後には会社に戻ってきていた。


彼が秘書課から出てきたところに夏希は遭遇した。


「あ・・」


「今、帰ってきた。」


何も知らない高宮はにっこり笑う。


「お、お帰りなさい。」


「今日は早く帰れるから、どっかで夕飯食べようか。」


「や、あのっ。」


どうしよう


夏希はうつむいた。



「ん? なに?」


「ん~~~~~、」


どうしていいかわからずうなってしまった。


「どうしたの?」


夏希の様子がおかしいことに気づいて彼女の顔色を伺う。



ここ・・会社だし。


こんなこと、なんて言えばいいんだろ。



そこに、


「高宮さん、社長がお呼びです。」


女子社員がドアを開けた。


「あ、はい、」


夏希の顔を見るが、


「行ってください、」


彼女はボソっとそう言った。




仕事をしているとイスにひっかけてある上着のポケットの中の携帯がチカチカ光った。


夏希は見つからないように、そーっとデスクの下で開くと、



『ほんっとどうしたの? 気になる。』


高宮からのメールだった。


気になるって言われても。


夏希は戸惑いながら、


『来週の月曜日、病院の婦人科に行くことになっちゃって。』


仕事中の携帯は禁止なので、短い文章だけ打って返信した。



それを見た高宮は



「えっ!!」


思わず声を出してしまった。


秘書課のみんながジロっと見たので、隠れてまたメールをした。


『婦人科って、なに? まさか、』


『栗栖さんが行ったほうがいいって言うから。』


なかなか話の核心に触れられず、高宮はイラついた。


『まさか? 妊娠とか???』


動揺丸出しのメールをした。


『わかんない、』


という返信をしたあと、




「こらっ! おまえ、就業時間中にメールすんな!」


八神に見つかって怒られた。



「わ、わっ! ごめんなさい、ごめんなさい! 大きい声で言わないで!」


「おまえの声のがでっかいよ! ったく、誰にメールしてんだかあ? か~! やってらんね~!」



そんな暢気なもんじゃないんですよぉ~。


と言いたかったが・・。

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