第106話 階段(3)

おっかしいなぁ。


萌香は夏希の部屋のインターホンを何度も鳴らしていた。


昨日も


会社は早く上がったのに、部屋にはいなかったし。



するとエレベーターのドアが開いて、斯波が帰ってきた。


「なにしてんの?」


「え、ええ。 昨日、お客様にたくさん中華街の肉まんをいただいたので。 加瀬さん好きだからって、」


「昨日?」


「ずっといなくって。」


「はあ?」


萌香はそこまで言ってしまったあと、


『しまった』と本気で思った。




斯波はものすごい怖い顔でゴハンを食べていた。


「怒ってる?」


萌香が彼の顔色をうかがいながら言う。


「ほんっと! 心配して損した!」


いきなりテーブルをバンっと叩いた。


「は?」


「あいつんトコ行ってんだろ? ざっけんなっつーの! あんなに、なってたクセに!」


「そんなに怒っても、」


「何があったか知らないけど。 そんなに簡単に高宮を信じていいのか? ああいうのはなあ、絶対にまたおんなじようなことをするんだっ!!」


あまりの剣幕に、


「そんなの。 加瀬さんだって、わかってるて。 きっと。 全部彼のこと受け止めて、」


「あいつはぜんっぜんわかってないの!」


「いちおう、大人だし。」


「傷つくのは加瀬だろ? 高宮なんか・・高宮なんかあいつのこと利用してるだけじゃん!」


「きめつけすぎ、」


萌香はため息をついた。


「いきなりホイホイあいつんとこ泊まりに行ったりして! お母さんになんてもうしわけをしたら、」


「あたしたちは、加瀬さんが傷つかないように見張っているんやなくて。 あの子が迷ったり悩んだりした時に手を差し伸べてあげればいいだけで。 きっとお母さんだってそう思ってる。 だって、ほんまに・・ちょっと加瀬さん、大人になった感じしませんか?」


「・・・・」


斯波は黙りこくってしまった。





翌日


「バカ! よく見ろ! 日付が去年になってるじゃねーか! おまえは書類もまともにつくれねーのかっ!」


斯波は夏希に書類をつき返す。


「す、すみません!」


「あと! レックスから電話があって今度の企画書の締め、昨日だって言ってたぞ! いっくら休んでたからってなあ、期日はちゃんと守れ!」



すんごい


怒ってる。



夏希は他人事のように見てしまった。



あ~あ~、


あんなに怒っちゃって。


事業部は張り詰めた空気になった。


「すみませんでした。 すぐにやります。」


夏希は頭を下げる。


すると斯波は周囲を気にしながら夏希に手招きする。


「え?」


「ちょっと、」


と彼女の腕をひっぱって部屋の隅に連れて行く。



「まだ、なにか?」


夏希はさらに怒られるのではないかとドキドキした。


「おまえ、家、戻ってねーだろ。」


斯波は小さな声でボソっと言う。



「えっ・・」


ドキっとした。


「そんなに家、開けるな。 ほんっとな、けじめはちゃんとつけろよ! お母さん心配すっから!」


母のことを出されるとちょっと胸が痛い。


「はい・・」


夏希はうな垂れた。


「なんか斯波さんの目とか気にして。 高宮さん、あたしの部屋・・あんまり来たがらないってゆーか、」


とモジモジして言うと、


「はあ??」


「怒られるって思ってるみたいで、」


「そりゃ怒るよ!」


ジロっと睨んだ。


「まあ・・確かに。 3連泊はよくなかったかなあと、」


夏希の言葉に斯波は驚いて、


「3連泊もしたの!?」


目を丸くした。


「まあ・・」


この変わりように斯波は驚く。



ほんっと最近の若い女の子って


わからん・・。


自分が急に老け込んでしまったような気になった。


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