第105話 階段(2)

本当に


みんなの気持ちに感謝をしたかった。


いっぱい


心配かけて、迷惑かけて。



夏希は胸がいっぱいになってしまった。



そして、くるっと向き直ってみんなに


「あのっ! ほんとにご心配をおかけしまして。 そしてご迷惑をかけてしまってすみませんでした!!」


いつもの大きな声で、元気よく頭を下げた。


「もう、いいのに。」


南は笑う。


「でもっ! ほんとにこれからも頑張りますから! よろしくお願いします!」



彼女の本当の笑顔だった。


みんなも温かい笑顔で見守った。




「で・・あの。た、高宮さんのこともほんと、今までどおり・・おつきあいすることになったんで、」


と最後に照れながら付け加えると、


「ああ、そこはね、 聞いてへん。」


南が突っ込んでみんな笑った。



それでも。


そっか


丸く収まったんやな。



ちょっとホッとした。


ほんまに


ちょっとだけ


大人になったようにも見えるし。


南は夏希を目を細めて見た。



なんか


昨日までの空気とぜんっぜん違う。


夏希は外出で外に出てそう思った。


自分の中で停止していたあの2週間はなんだったんだろう。




その日も仕事で遅くなる高宮のために夏希は彼の部屋で夕飯を作ってあげていた。


「出た・・」


高宮は食卓を見て、久々にそう言った。


「おいしそーでしょ~? 丸ごとトマトとチーズのスープ!」


皮をむいたトマトがどーんと中央に乗っかっているすごいスープだった。


「丸ごとが好きだよね、」


「え、もう夏だし。 トマトがおいしいじゃないですかあ。 あたし、ほんっとトマト大好き!」


とにっこりと笑う。



だからって。


高宮はおかしくて笑いを堪えた。


それでも


明るい彼女に戻ってくれたことが本当に嬉しい。



「ねえ、今日泊まっていきなよ。 明日朝早く帰ればいいじゃない、」


高宮は食事を終えてそう言った。


「え、あ・・はい。」


なんとなく頷いてしまった。


「でも・・」


「なに?」


「パジャマとか・・持ってきてないし、」


「そりゃ、持ってきてないだろ。」


「1回取りに帰ってもいいですか?」


「や、そんな本格的なってゆーか。」


「お風呂も入っていいんですか?」



こんなこといちいち聞かないだろ、ということまでどんどん質問され、


「・・い、いいけど。」



こっちが恥ずかしくなる。



「え、じゃあ! この前、友達にもらったんですけど~! マンゴーの香りがする入浴剤とか持ってきていいですか?」


夏希はぱああっと笑顔になった。


「マンゴー?」


「めっちゃめちゃおいしそうな匂いなんですよぉ。 あと、バニラの香りとかもあるんです!」


「甘そうだね・・」




もう・・


とろけそう・・。




彼女のほのかにマンゴーの香りがする体を抱きながら


高宮は夏希に骨抜きだった。


一転して訪れたこの幸せに高宮はもう嫌なことなんか忘れてしまっていた。




「・・あ、暑い・・」


夏希は夜中に目を覚ました。


高宮が自分に抱きついたまま眠っている。



「あっつい・・って、」


と彼を離そうとするが、寝ぼけていて全然離れてくれない。


「ちょ・・っと、」


無理やり離れようとするが、全然ダメだった。


「もう!」


夏希は彼の鼻をぎゅっとつまんだ。


その上、もう片方の手で口も押さえた。


しばらくすると。



「うっ・・」


息ができずに飛び起きた。


「あっぶね! なに? 死ぬかと思った・・」


「やっと離れた、」


はああっとため息をついた。


「なに??」


「あっつい、」


夏希は勝手にクーラーをつけてしまった。


「バカ、冷えるって!」


「もう、あたし暑がりだから・・ダメ。」


掛け布団もかけずに寝てしまった。


「風邪ひくから!」


無理やり布団をかけた。


「ヤダ・・」


「やだじゃありません! って、おれはお母さんか?」


高宮は呆れて言い放った。



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