第66話 心配(3)

「あ、斯波さん。 コピーなら秘書課でやらせてもらってください。 加瀬が壊したんで。」

八神がわざと大きな声で言う。


「壊したなんて! 人聞きの悪い!」

夏希は反論した。


「壊したんだろーが。 フタがぶらんぶらんになってたぞ。」


「いったい、何をしたんだよ・・」

斯波は呆れた。



着るもの

ナイなあ。



夏希はジャージの山を見て恨めしそうに息をついた。

日曜は初めてって言っていいほどのデートなのに。

ちゃんとつきあいはじめてからは・・。


なんであたしジャージばっか?


自分が恨めしい。


スカートは1枚だけで。

この前、南につきあってもらって買ったものだけだった。



スカートかあ。


かなり短かったのでものすごく抵抗があった。

あとはジーンズばかりで。


買っちゃおうかな。


いや、こんなに食べることに困ってるっつーのに。

服なんか買ってる場合じゃない。



そこに電話が鳴った。

高宮だった。


「あ、高宮さん?」


「うん・・ゆうべも全然繋がらないから、」


「なんか電源落ちちゃってて、」


「なんだ・・」


「今、京都ですか?」


「うん。 明日の午後には戻るけど。 社長をお宅に送り届けてから社に戻る、」


「大変ですねえ、」


「ね、日曜日・・どこに行く? 遠出するなら車借りるし。」


「え、そんな遠出なんかしなくていいですよ、」


「行きたいところ、ある?」



「・・あの、やりたいことが3つあって。」


「は?」


「ひとつに絞っておきます。」


「なに? 気になるし、」


「や、口にだすほどのことでもないんで、」


「すんごく気になる、」


「そこに食いつかなくっていいですから。 ほんっと、」


「まあ、でも・・楽しみだな。」


「洋服がね、」


「え?」


「なくて。 気がついたら、ほんっとジャージばっかり。」


「ジャージって・・」


「よそ行き用のジャージとかで済ませてたんで、」


それにはまた高宮はツボに入ってしまった。


「ジャージによそ行きがあるの?」


「え、ありますよ! 渋谷とかはそれで行ってましたから、」


「そうかあ。 いいよ。 ジャージでも。」


「え! さすがにジャージでは・・」

夏希はたじろいだ。


「よそ行きのジャージも見てみたい気がする。」


「や・・そんな見せるほどのもんでも、」


どうでもいい会話だが。

高宮はそういうのが楽しくてたまらなかった。


レックスの人にコクられたって話は



大いに気になるけど。

彼女が何も言わないのなら

深くは聞かないようにしよう。


おれのこと

『カレシ』って認めてくれたってことの方が

嬉しいから。

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