第31話 秘密(3)

高宮はふっと思い出し、


「あの、今日の夜・・空いてますか?」

と彼に言った。


「は? なに、おれを誘ってるの?」



ほんっと

いちいち腹立つんだよなっ!



冗談をスルーして


「ちょっと聞きたいことがあるんです!」

ムカっとした顔で言った。


「ま、いいけど? どっかうまいとこ連れてったろか?」

志藤はいつもの笑顔で言った。




「ここは、いい酒が置いてあるし、つまみもうまいねん。 めっちゃ大衆的なとこやけど。」

志藤が連れてきてくれたのは会社から歩いて10分ほどの居酒屋だった。


「あれっ? 志藤さん? ひっさしぶりやんか。」

店の主人から言われた。


「出張、出張。 も、ほんま人使い荒くて、」

おしぼりで手を拭きながら笑う。


「女性と一緒やないなんて珍しいですね、」


「おい~・・おれがいっつも女と一緒みたいに言わんといて。」

高宮はそんな会話を聞いて、



ほんっと

この人もここにいたころは

どんなだったんだろ。


想像を絶するな。



志藤を傍観してしまった。



タバコを吸う姿が

すっごく決まってて。

いつもイタリア製のスーツに身を包み。

おしゃれで話もおもしろくて


なにより

あの笑顔で

女なんかいっくらでもついてきそう。


ジロジロと自分を見る高宮に、


「なに?」

うざったそうに言った。


「い・・いえ。」


「話ってなに? 加瀬なら相変わらずやで、」

と、からかわれ、


「かっ・・彼女とはしょっちゅう電話してますから! 近況くらいはわかりますよ!」

ついまともに答えてしまった。



「・・栗栖さんのことなんですけど、」


どうしても気になっていたことを聞いてしまった。



志藤はお気に入りのいも焼酎をロックで飲みながら、高宮の話を聞いていた。


「こっちではそんな風に言われてるんですけど。 でも、なんだか信じられなくて。 あんなに頭のいい人が、そんなバカなことするでしょうか、」


志藤はグラスの中の氷をくるくると回しながら、


「ま。 それは事実やけど。」

ボソっとそう言った。


さっきまでのふざけたことを言っていた彼の表情が一変した。


「え・・」


「事実やけど。 でも、バカは畠山の方やろ?」


ものすごく怖い顔で言った。


「いや、栗栖のが一枚上手やってってことやろな。」


と思ったら、おかしそうにニヤっと笑ったり。



わけわかんない…。


高宮がポカンとしていると、


「栗栖のことは。 う~~ん。 めっちゃデリケートな部分があるから。 おれの口からは詳しいことは言われへん。 ただ。 彼女が畠山とそういう関係になるうちに、栗栖はここを出て東京に行くきっかけにしたいって思ってたのは事実。そのくらい、大阪は栗栖にとってつらいとこやったってこと。 だから、彼女は畠山に罪をなすりつけられても黙ってそれを受け入れて自分から東京に行かせて欲しいって直訴した。 有能な子やったから、会社としてもおいそれと手放したくなかったんやろ? ま、結局。 不倫がばれて畠山は奥さんに三行半つきつけられてな。 たんまり慰謝料も取られて離婚したってわけ。」


大阪が

つらいところ?


高宮は自分のグラスに目をやった。

あまり酒の強くない彼は焼酎をかなりの水で割ったにもかかわらず頭がぼーっとしてきた。

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