第30話 秘密(2)

高宮はあのいつも人をバカにしたように視線を送る

畠山の顔を一瞬にして思い出す。


バツ2だって

言ってたけど。


いかにも

女たらしの悪いおじさんの見本みたいなヤツなのに。


萌香のどこまでも美しい横顔も思い出した。


「畠山専務だけやなくて。 他にも会社内で彼女と関係のあった男、何人かいたみたい。 まことしやかに、体売ってるんちゃう? みたいな噂あったし。 そのほかにもすんごい大物の愛人もしてたって話やけど。 ま、それがばれて。 ほんまは畠山専務が飛ばされそうになってん。でも、あの男。 ぜーんぶ彼女に責任押し付けて。 その頃彼、奥さんいたから奥さんにバラすとか脅されたとか何とか言って。 彼女は何の言い訳もしないで東京への異動を受け入れたの。」


どうしても

彼女の話と今の萌香が繋がらない。


すんごい美人で妖しい雰囲気はあるけど。


今は

斯波さんと一緒に暮らして

本当に幸せそうなのに。


加瀬さんだって

彼女が本当に優しくていい人だって。

言ってたのに。



「こっちの方がいいわよ。 ほら、足長いから似合うし、」


「え~、そうですかあ? スカート短くないですかあ?」


「まだ若いんだから全然平気よ。 こっちのトップに合わせるとかわいいかも。」


急に高宮のことを意識し始めた夏希は

とりあえず

ジャージ以外の服を買わなくては、と思い立ち

萌香につきあってもらって服を買いに行った。


「あ~あ、栗栖さんみたくスタイル抜群なら何着てもオッケーなのに、」

試着をしながら言う。


「そんなことないわよ。 加瀬さんだってモデルみたいよ、」


「いや~~。 モデルは言いすぎですよ・・」

大いに照れた。


服に合うネックレスもあったので、萌香はそれも手にしてレジに向かう。


「え? それは・・」


「これ似合うからプレゼントするわ、」

にっこり笑った。


「え、いいですよ! そんな!」

夏希は慌てた。


「加瀬さんにゴハン奢るより安いわよ、」

萌香はクスっと笑ってそう言った。


ほんっともう。

こんなお姉さんがいたらなあ。


一人っ子の夏希にとって萌香は憧れの『お姉さん』であった。




『あの人、曲者やから気をつけたほうがええで。』


『ほんま、とんでもないことしよる。』



高宮は志藤がいつか畠山のことをそんな風に言っていたことを思い出した。


人の不幸が大好きそうな顔をして

ほんっと

いつもいつも気に入らないって思ってた。


そんな男に

あの

『才媛』を

絵に描いたような萌香が、そんなリスクを負って不倫をしてた?



考えられない。


何だかその日はずっとそのことから頭が離れなかった。



それから3日後。


「よう、」

またも志藤が突然、大阪支社にやって来た。


「また、急ですね。」

高宮は外出から戻って、秘書課の自分の席に座り込む志藤にため息をついた。


「昨日、オケの仕事で福岡に行っててん。 んで、ここ立ち寄りで打ち合わせして明日東京に戻る。 も~、つっかれる、」


「どうぞ、」

理沙が志藤に紅茶を淹れてきた。


「あ~、おおきにありがとう。 ほんま水谷さんは気がきくなあ・・おれがコーヒーより紅茶が好きなこと覚えてたん?」

理沙を見てにっこり笑う。


「え、ええ・・」

彼女はちょっと引き気味に言った。


「あ~、おれやったらなあ。 東京にいるアホな彼女より、水谷さんのそばにいたいって思うのになあ。 どっかの誰かさんはほんま変態やな、」


「なっ・・」

とんでもないことを言い出す志藤に、


「ちょっと!」

怖い顔で背中を叩いた。


「ジョーダンやろ。 ほんまにおまえ、クソ真面目やな、」

何もかも見透かしたようにそう言われて、


「くっ・・」

高宮は言葉が出なかった。


理沙は普通ならカチンときてもいいような志藤の言い様がおかしくて、思わずぷっと笑ってしまった。


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